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異世界転生変奏曲~転生したので剣と魔法を極めます~  作者: Moscow mule
第十二章 青少年期・内乱開幕編
104/250

第104話:理由を求めて

 予約投稿時間のミスで前回が2話更新になってました。

 ストックが・・・。

 


 そこは、真っ白い世界だった。


 ただ平坦に白い地面と、白い空が続く世界。


――どこかでみたことのあるような・・・。


 ふわふわとする意識の中、俺は必死に記憶を手繰り寄せる。


 なんだっけ。

 そうだ。

 ここは夢だ。


 ただの夢じゃない。


 まさか――また俺はここに来たのか。


 そう、たしか2年前、俺はここで、アイツに会った――。


「・・・来たか」


 そこまで思い出した時、後ろから声が響いた。

 ゆっくりと、その声の方へ振り返る。


 そこにいたのは――


「ルシウス・ザーレボルド・・・」


 かつて――俺を殺した男。

 そしてこの世界へ転生させ――夢の中に現れた男、ルシウス・ザーレボルドがそこにはいた。


「久しいな、少年」


 漆黒の髪と漆黒のコート。

 それにしては不気味なほど白い肌の男は、悠然と俺の前に立っていた。

 かつての記憶と全く変わらぬ姿だ。


 以前会った時は、確か椅子に座って紅茶を飲んでいたはずだが・・・。


「悪いが、今回は前にも増して時間がない。要点だけ伝える」


 どうやら時間はないらしい。

 前回も、最後の方はほとんど早口でまくし立てられるかのようにこの白い世界は終わってしまった。


 しかし、彼が出てきたということは・・・。


「・・・また、なにか助言をしてくれるのか?」


「・・・そういうことだ」


 前回は、オスカーの頼みを聞けという助言を貰った。

 そうすれば、金が手に入り、シルヴァディやゼノンと会える、と。


 実際それ自体は合っていた。

 カルティアに来て辛いこともたくさんあったが、少なくとも、ルシウスの言っていたことに間違いはなかった気がする。


 ルシウスは相変わらず読めない表情のまま口を開いた。


「まず・・・この後、ユピテル共和国は大規模な内戦状態となる」


「――!」


 内戦。

 今の情勢をみるに、どう考えても、ラーゼンが起こすものだろう。

 先ほどのオスカーの口ぶりから考えて、そうとしか思えない。


「これは、もう避けられない。『調停者』達が何もしなくても内戦は起こる。そういう運命だ」


 ルシウスはそう言って断定した。

 まるで決められた歴史のように、絶対に内戦は起こるらしい。


 しかし――『調停者』か。

 久しぶりに聞いた単語だ。

 ラトニーがそう自称していたが、複数人いるのだろうか。


 しかし、ルシウスは調停者についてはそれ以上何も言わなかった。


「ついて行くかどうか、お前は迷っているようだが――お前がいなければラーゼンは負ける」


「え?」


 ラーゼンが負ける?

 でも、確かさっきオスカーは俺がいなくても勝てると言っていた気がする。


 俺の困惑をよそに、ルシウスが続けた。


「お前がいなくても、首都は楽に落とせるだろう。だが――本番は首都圏ではなく、東方属州――アウローラだ」


「アウローラって・・・」


「門閥派随一の智将ネグレド・カレン・ミロティックが指揮する属州だ。アウローラとの戦いで、ラーゼンは敗北する」


「・・・・」


 正直、ラーゼンが負ける姿というのはあまり想像できなかった。

 俺が知っているラーゼンは常勝にして不敗の指揮官だ。それに、「持っている」男でもある。

 多少の不利で負けるとは思えないが・・・。


「じゃあ、俺がいれば勝てるのか?」


「それはお前次第だ」


「・・・」


 まあ確かにそうかもしれないけれど。


 黙る俺に、ルシウスは断言した。


「だが、お前は行かなければならない」


「――!」


「この内戦、大義はラーゼンにある。ここでラーゼンが勝たなければ、ユピテルは体制を変える機会を永遠に失ってしまうだろう。待っているのは国の――いや世界の崩壊と混乱だ」


「世界の崩壊と混乱・・・」


「そして、そんな状態こそ、奴ら――調停者共の望む結果だ。それだけはなんとしても避けなければならない」


 ルシウスの表情は今までと変わらない、読めない者だったが、その声は、今までにないほど熱がこもっていたように思える。


「前に言ったな、『強くならなければ、大切なものを守れない』と」


「え、ああ」


 確かに以前、ルシウスは俺にそう言った。

 強くならなければ、俺の大切なものを守れない。

 それは、この内戦でのことなのだろうか。


「――守るときがきた。強くなったお前の力を、示すときが」


 気づくと真っ白の世界は消えかかっていた。

 視界が限りなく薄くなっていく。


「それに・・・東には会わなければならない奴もいるだろう?」


 会わなければならない人。

 いる。

 だからこそ、俺は迷っていた。

 もしかしたら彼女と敵対してしまうんじゃないかと。

 そう思っていた。


「安心しろ。お前の家族も恋人も――敵になることはない。まぁ、再会には苦労するだろうがな。不安ならラーゼンに頼んでおくといい」


 ルシウスの声だけが、頭の中に響いている。

 もう夢の時間は終わりのようだ。

 たしかに言っていた通り、随分短い時間だった。


 そして、最後に一言、


「――力を持つ者には、責任がある。背負うと決めたなら、その責任から逃げてはならない・・・・・・何があっても、な」


 そんなセリフが、やけに耳に残った。



 ● ● ● ●



「――っ!!」


 目を覚ました。


「・・・やはり、夢、か」


 まだ夜は明けていない。

 薄暗い視界の中、あるのは汗で肌にまとわりつく衣服の感触だけだ。


 ルシウス・ザーレボルド。

 2年前、夢の中に現れ、俺に助言をした張本人。


 紛れもなく夢だが、それがただの夢でないことを、俺は既に知っている。

 かつての助言で、奴が未来を知っているということはわかっている。


 まさか、もう一度現れるとは思っていなかった。

 もっと聞くべきことはあった気がする。


 いや、しかし今知るべき事は聞いたか。


 ―――俺が行かなければラーゼンが負ける。


 あいつは確かにそう言った。


 そして、ラーゼンが負ければ、世界が混乱する、と。

 嘘を吐いているようにも見えなかった。


「・・・・・」


 ごくり、と思わず唾を飲み込んだ。


 なんとなく――予感はあった。

 この世界の、何か大きな渦中の中に身を投じている予感。

 少なくとも俺は既に大規模な戦争を経験している。


「世界の崩壊と混乱、ね」


 この内乱において、大義を持っているのは、ラーゼン。ルシウスはそう言っていた。


 わからない話ではない。

 ユピテル共和国は形としては民主制の国家である。

 民衆を味方につけた方に大義があるのは自然だ。

 そしてラーゼンの民衆人気は、とてつもなく高いだろう。


 国民がラーゼンによって元老院が倒されることを望んでいる。 

 つまり――ラーゼンの敗北は、民衆の敗北だ。


 もしもラーゼンが負けた場合、待っているのは大義のない陣営による歪んだ統治―――ユピテルが崩壊するというのも、あながち信じられない話ではない。


 そして――ルシウスの言い分を信じるならば、それが俺の行動に懸かっていることになる・・・。


「・・・は、はは」


 乾いた笑いが出てきた。


 あるのは、ただのプレッシャーだ。


 改めて――自分が転生者であることを自覚した。

 ルシウスは、きっと俺に何かをさせるために転生させたのだ。

 もしかしたら、それが「ラーゼンを勝たせる」ことなのかもしれない。


「・・・できるのか?」


 誰が聞いているわけでもないのに、俺は呟いた。


 ――不安。


 どうしようもない重圧が、俺の心にのしかかってくる。


 単に、内戦でラーゼンを勝たせるという行為だけじゃなく――今後の世界の未来まで背負わされたような、そんな感覚だ。


『力を持つ者には責任がある』


 そんなルシウスの言葉が、なおさら重く感じられた。


 わからない。

 色々と、頭が追いついていない。


 ルシアスはほかに何を言っていた?

 どうして俺にそんなことをさせようとする?


 ・・・そうだ、調停者。

 奴らは世界の混乱を望んでいるとか、そういう感じのことを言っていた。

 ルシウスはそれを防ぐために俺を転生させたという事だろうか。

 ダメだな・・・調停者とか、特異点とか、そういう言葉について、もっと詳しく聞いておけばよかった。


 そして、あとは・・・


「東には会わなければならない人がいる」


 俺に、東――アウローラに知り合いは2人しかいない。

 そして会わなければならないというのならきっとそれは1人――才能豊かな赤毛の少女の事だろう。


 ヒナ・カレン・ミロティック。


 将来を誓った相手にして――アウローラ総督ネグレドの孫。

 ラーゼンからすれば敵軍の総大将の身内だ。


 ルシウスは家族や恋人は敵にはならないと言っていたが・・・。


 ――わからない。


 カルティアに来てから、家族や友人との連絡は取れていない。

 戦地と本国の間には正式な伝令以外、まともな連絡手段などないのだ。


 今頃、どうしているだろうか。


「・・・会いたいなぁ」


 ヒナに、エトナに、リュデに、父に、母に、妹弟に。

 家族に・・・会いたい。


 家族のことを思い出し―――そこでこれ以上の思考は今は無理だと悟った。

 俺は再び目を閉じた。




● ● ● ●




 結局、俺はラーゼンの軍として戦うことに決めた。


 多分、ルシウスと話さなくても、このままラーゼンについていったと思う。


 たしかにオスカーは、俺を頼らなかった。

 でも、オスカーが国の命運をかけて必死で戦っているのを尻目に、のんきにしていることも、俺にはできない。


 オスカーだけじゃない。

 ミランダも、シンシアも、ゼノンも、シルヴァディも、俺の隊員も。

 果ては、名前も知らない、宴で共に飲んだ他の部隊の兵士たちも――。


 もう彼らの事も知ってしまった。

 全て忘れて、見捨てるような事はできない。


 多分それが、俺なりの力を持つ者としての責任感だろう。


 そして。


 それ以上に――何か大きなものが、この戦いにはある。



 そんな予感が、頭をよぎった。






読んで下さりありがとうございました。

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