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【24】ヘタレ好き

 しばらくして、チサトは戦争が終わったラザフォード領から、ルカナン家のあるルカナン領配属の騎士になった。

 私も留学を終え、一旦はルカナン家に戻ったのだけれど、今日は久々に子供の頃過ごしたバティスト領に戻ってきていた。


 屋敷を管理してくれている昔からの使用人たちに挨拶して、街に行く。

 皆が私に話しかけてくるのだけれど、話題は主にヴィルトの事だ。

 今回の戦争の功労者が自分の領土の主の息子だと、皆鼻が高いみたいで。

 仲のよかった私に詳しいことを聞きたがるのだ。


 本人が一切領土に姿を見せないから、なおさらに気になってしまっているんだろう。

 ちなみにヴィルトもチサトと一緒にルカナン領配属の騎士になり、現在は二人とも王の騎士になるための審査と試験を受けてる真っ最中だ。


 私が久々の故郷とも言えるここに戻ってきたのは、懐かしい人たちの顔を見るという目的もあったのだけど、何より魔術道具の修理というのがあった。

 私の黒髪黒目は、この魔術道具によって染められている。

 原理はよくわからないけど、この魔術道具の力を発動している間は、黒髪黒目でいられるのだ。


 今までは腕輪の形をしているこの魔術道具に、定期的に魔力を注いでもらって、一ヶ月に一度交換という形を取っていた。

 ウェザリオと違って、留学先の島国には魔術を使える人も多かったので魔力の補充にはことかかなかった。

 けれど、耐久力の方に限界がきていた。


 腕輪は三つ持っていたのだけれど、留学先ではメンテナンスもできなかったため、今じゃ一つしか機能しない。

 最後の一つとなった腕輪は、魔力自体は問題ないはずなのに、今では一日六時間程度しか発動してくれなかった。


 この腕輪はバティスト領の奥地に住んでいる、変わり者の魔術師のお手製。

 修理のために腕輪を手放せば、しばらくはベアトリーチェの姿なので、皆と顔が合わせられない。

 なので、とりあえず街を周ってから修理には出そうと私は考えていた。



 お茶屋さんによって、緑茶を大量に注文し、ルカナン家まで配送の手続きをする。

 ここでしか手に入らないこの緑茶は、お母様だけでなく私やチサトのお気に入りだ。

「久しぶりだな。元気だったか」

 お茶屋の店主が声をかけてくる。

 一杯飲んでいけおごりだと言われて、ご馳走になることにした。


 奥の個室で待っていたら、女の子がケーキとお茶を運んできた。

 黒髪黒目で歳は十代後半くらい。店員の服を着ている。初めて見る顔だった。

「私これであがりなんだけど、セイジュウロウさんが食べてけっていうから、ここで一緒に食べていいかな?」

「はいどうぞ」

 前の席を促すと、女の子がそこに座る。


 女の子はリサというらしく、明るくてサバサバした雰囲気の子だった。

 ここのケーキ美味しいわよね!とご機嫌の様子だ。

 リサは最近この領土にやってきたらしく、お腹が空いて行き倒れたところを、店主に拾われたのだと話してくれた。


 女の子に苦手意識があった私だけれど、リサは妙に男気があるというか、明るいし話していて楽しかった。

「魔術大国の方にいたんだけど、変な奴に追われてこっちに逃げてきたの。ラザフォード領を超えるのがもの凄く大変だったわ」

「あそこを越えてきたの!?」

 ははっと笑いながら軽くリサは言ってるけど、それが本当なら凄いことだ。


 ラザフォード領と言えば、チサトたちがこの間まで派遣されていた領土で、かなり険しいことで有名。

 隣の国が私達の国を攻めきれないのも、あの領土があるおかげだ。

 魔術大国より上の国の人がこの国に入るときは、私の留学先だった島国を経由して入ってくるのが一般的だった。


「もしかして、リサは何か剣術をやってるの?」

 嘘を言うにしては大きすぎるし、そうは見えないけどリサは強いのかもしれない。

 ヤイチ様だって強そうに見えないけど、実力はかなりのものだし。

 剣は持ってないけど、剣士なのかな。

 ちょっとわくわくしながらそんな事を尋ねれば、違うわよと笑われた。


「私魔術が使えるのよ。ベネも魔術師なの? その腕輪魔術道具よね」

「魔術師じゃなくて刀使いかな。リサは見ただけで魔術道具だってわかるの?」

 腕輪に魔術式が見えたからとリサはいうけれど、私にはよくわからない。

 魔力の元となる魔素がこのウェザリオにはないため、そもそも魔術自体この国にあまり普及してなかった。


「結構長い間使ってた? 式が欠けてバグってるみたいだけど」

「バグ?」

「式に間違いが生じてるってこと。折角だから直してあげるね」

 クビを傾げれば、リサが手袋を外す。


 手の甲には不思議な文様があって、その手でリサが腕輪に触れてきた。

 淡く文様が光り、腕輪に文字が浮かび上がる。

 リサは聞きなれない言葉を口にして、すぐに腕輪から手を離し、手袋をしなおす。


「はい、これで元通り。それにしてもベネはトキビトじゃなかったんだ? 顔立ちはニホン人ぽくないものね。わざわざどうして髪と目を染めてるの?」

 腕輪を触っただけで、リサには何の魔術道具かわかるらしい。


「ちょっと事情があって染めてるんだ。話すと長くなるんだけどね。ところでこれって本当に直ったの? 疑うわけじゃないんだけど、前に壊れた時は修理に五日はかかったよ?」

「私魔術の腕がいいのよ。今日一日中腕輪をつけてたら、直ったかどうかは確認できると思うわ」

 魔力は蓄えがないから込めてあげられないけどねと、リサは軽く口にする。

 

「……あのさ、あと二つ腕輪があるんだけどそっちもお願いできないかな。報酬は払うから」

 魔術師のいる場所は山の中で行くのがおっくうだった。

 しかもリサの方が早いなら、それに越した事はないので頼んでみる。

「いいわよ! 旅の資金が足りないから大歓迎!」

 リサは笑顔でそれを引き受けてくれた。

 


●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●


 一日中腕輪を着けていたけれど、全く問題はなかった。

 リサは本当に腕がいい魔術師らしい。

 お茶屋さんに住み込んで、現在はその隣のカフェを手伝い、旅の資金を溜めているようだった。


 仕事が終わってから、バティスト領にあるルカナンの家に招待する。

 腕輪を直してもらった後、リサに夕食を振舞えばとてもいい食べっぷりを見せてくれた。


「もしかしてさ、ベネって女の子?」

 唐突にそんなことを尋ねられた。

「……なんでわかったの?」

「わざわざ変装してるみたいだし、綺麗な顔立ちだから、当てずっぽうで言ってみただけなんだけど。本当にそうなんだ」

 見抜いたというより、リサは適当に口にしたようだった。


 それからなんとなくリサとは打ち解けて、すっかり友達になった。

 ベアトリーチェとしての私の、初めての女友達と言っていい。

 話しやすくて、つい色んなことを打ち上けてしまった。

 ベアトリーチェの相談に乗ってくれる人なんていなかったから、尚更だ。


 リサは私の事情や色んな相談事を聞いて、相談に乗ってくれるものの、あっさりとしている。

 それが気負わなくていいから、とても楽だった。


「そういうわけで、兄様は元の世界から血の繋がらない妹を追いかけてきたんだ。なのに未だに正体すらあかせてないんだよ。しかも彼女を悲しませないよう、恋敵を守るために戦争にまで行っちゃったんだ」

「ベネのお兄さんって、相当のヘタレなのね。わざわざ追いかけて異世界まできたのに、好きな人に正体も打ち明けられないなんて」

 溜息交じりの私に、リサがそんな事を言って笑う。


「ヘタレって何?」 

「決めなきゃならないところで駄目だったりする人のこと。ニホンの若者が使う言葉よ」

 初めて聞く言葉だけれど、チサトを表している言葉だなと思った。

 真面目で一生懸命なのに空回りして、肝心なところで怖気づいて変な選択をしてしまうチサトにぴったりだ。


「けどベネはそんなお兄さんが大好きなのね。放っておけないって顔してる」

「……そうかも。情けないトコもいっぱいあって、もうちょっと頑張ってよって思うことも多いんだけど。そういうとこもたまらなく可愛いと思うんだ」

 そういうチサトの情けないところが、どうにも目が離せない。

 チサトったらしかたないな、私がしっかりしなきゃと思う。それでいて、チサトには私が必要なんだって、妙にくすぐったい気持ちになるのだ。


「あなたってヘタレ好きなのね」

 リサはそんな事を言って笑っていた。



●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●


 数日が経って、何故かチサトがバティスト領にやってきた。

 話を聞けば、以前チサトが所属していたラザフォード領でお世話になった恩人が、記憶喪失になって今この街にいるという。


 てっきり前に記憶喪失になった騎士団の隊長さんが、また記憶喪失になったのかと思ったのだけど、今度は別の人らしい。

 隊長さんの彼女で、名前はリサ。

 彼女はトキビトで凄腕の魔術師。

 チサトやヴィルトが王の騎士になった手柄は、実は全て彼女が一人でやったことだと聞いていた。


 しかし何でまた記憶喪失に。

 そんな立て続けに起こるものなんだろうか。

 何より知り合ったリサと同じ名前で、同じトキビトってところが気にかかる。

 そう思っていたら、リサの事で正解だったらしく驚いた。


 ラザフォード領から隊長さんがくるまで、逃亡しないように見張るのがチサトの使命らしく。

 それでいてヴィルトも一緒に来ていた。

 しかも私の家に泊まっていくという。自分の家がそこにあるのにだ。


「王の騎士になるまで、ミサキには会わねぇって決めたからな。もう少しでなれそうだし、我慢するんだ」

 そうはいいながらも、ヴィルトはどこかそわそわしていて。

 チサトはしかたないなと言って、ヴィルトに自分がいつもしてる被り物の一つを投げてよこす。


「一目見たいんだろ。これならお前ってばれないし、今からミサキに帰ってきた報告をしにいくから。僕の……友人ってことで側にいればいい」

「クライス……ありがとな」

 チサトはそっけない口調だったけど、ヴィルトへの思いやりが見えた。

 ヴィルトもそれを笑顔で受け入れる。


 二人の関係はラザフォード領に行ってから少し変わったらしくて、やりとりは相変わらずのように見えたけど、互いを認め合ってる節がある。

 戦いの際には二人で一セットで、一緒に行動していたらしい。

 そこには絆が生まれているように見えた。


 いい感じの雰囲気だ。

 好きな親友と、好きなチサトが仲がいいっていうのは素直に嬉しい。


 けど。

 ……二人とも被り物でミサキのところまで行くつもりなんだろうか。

 絶対ミサキが驚く。

 クライスさんの友達も被り物なんですねって、確実に混乱する。


「クライス、これ前が見え辛いんだが」

「だからいつもベネに手を引いてもらっている。まぁ僕はコツがわかっているから、多少平気だけどね。かなり気は進まないけど、手を繋いで行ってやる」

「いや、お前に手を引かれていったら俺の家に絶対たどり着けないから」

「人が珍しく親切にしてやってるのに……!」

 相変わらず二人は口げんかを始める。


 もうしかたないなと、被り物をした二人の手を引いて。

 屋敷まで、私が連れて行ってあげた。

すいません、今日の分投稿するのを忘れて遅れました。

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「育てた騎士に求婚されています」シリーズ第1弾。今作の主人公二人が脇役。こちらから読むのがオススメです。
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