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ミッション

『究極の文明国家、〈汎人類連邦〉の復活』


「勘違いしているようですが、あなたの任務は敵と戦うことではありません。社会から無知と偏見をぬぐいさり、文明を復興させることです」


(戦う以外はなにもできそうにないんだが……)


「戦いはその過程でしかありません。究極的には〈汎人類連邦〉を復活させることが目的になるでしょう」


(〈汎人類連邦〉ってなんだ……?)







『永遠の都市、ローティアルスの再発見』


「人類が文明を築く遙か往昔、この大陸には神の血を引くいにしえの巨人が住んでいました。特に有名なのが英雄ダスレクでしょう。彼は大陸に住んでいた竜を討ち、人の住める土地にしたと言われています」


「こっちの世界の神話か」


「どうやらヒロタカは『神話』に事実でないという意味を込めているようですね。この場合の神話は、過去にあった実話という意味です」


「なんで実話ってわかるんだ。巨人の骨でも発掘したか?」


「かつて巨人が住んでいた遺跡を開けたことがあります」


「なんで巨人が住んでたってわかるんだ?」


「天井が高かったので」


「それだけかよ!?」


「巨人は我々人類から見ると神とも言える存在です。力が強く、強力な呪術を操り、不老不死。もしかしたら天空神(コールナック)地母神(アヴルナック)の子供たちなのではないかという説もあります。巨人たちが実在するのなら、今でもどこかで生きていると考えるのが妥当でしょう」


「そのどこかってのが、そのなんとかって都市か?」


「ローティアルス。巨人たちの住む都市だと伝承に残っています。確実な記録はありませんが、ひとつだけ興味深い話があります」


「どういうのだ?」


「昔の話。チューロ山脈の厳しい冬山で、ある年老いた猟師が遭難しました。三日三晩、吹雪に襲われ、倒れた猟師は、巨人が住む白い都市で目を覚ましたとされています。巨人の手厚い介護を受けた彼は数日後に戻りました。そのときには、凍傷で失った指と、年で弱った視力が完全に回復していたとか。噂を聞きつけた呪術士が話を聞きに行ったのですが、猟師は再び雪山に入っており、二度と戻って来ることはありませんでした。行方不明になる前、家族に『あの都市には永遠があった』と言い残したそうです」


「うーん、興味深い話だが、記録というより伝承かなにか思えるな。単なるほら吹きじいさんだったのかもしれないし……」


「そうでしょう。呪術師の中でもこれを信じているのは私だけでした」


「なんでおまえはこんな話を信じているんだ?」


「巨人の遺跡で記録盤を見つけたのです。チューロ山脈の頂にローティアルスへの入り口があると書かれていたので、おそらく確実かと」


「そっちを先に言えよ!」







『不死者の大陸、ゼルエンの完全な掃討』


「事の起こりは……今から130年ほど前のことでしょうか。ゼルエン大陸から不吉な情報が届くようになりました」


「こことは別の大陸か?」


「ここはセン大陸、文明の中心地。ゼルエン大陸は東にある双子の大陸です。〈汎人類連邦〉は主にこのふたつの大陸と海外植民地で構成されていました」


「わかった。話を続けてくれ」


「届いた情報によると、大陸のあちこちで死者が生者を襲っていたそうです。間違いなく、歩く死体リッチの呪いでしょう。恐ろしいことに襲われた者たちは、みな同じ歩く死体になったといいます」


「うげっ、ゾンビかよ」


「ゾンビ?」


「俺の世界にはそういうアンデッドがいるの。いや、いないんだけどな。いや、実在するんだっけ?」


「……ともかく、大学から勇敢な呪術技官たちが、支援と調査のために派遣されました。しかし、死者は日増しに増えていき、最後には『手遅れ』という便りが届きました。それ以来、大陸がどうなったのかを知る者はいません。しかし、推測はできます。すなわち――全滅」


「うへぇ……」


「死者たちは()()()()()()()でしょう。あなたの任務は、不浄なる死者たちを掃討し、再び文明人の住める土地とすることです」


「それどれくらいかかるんだ?」


「最後の統計によると、ゼルエン大陸には8000万人が住んでいたとされています」


「まさか……それが全部ゾンビに……?」






『外法に長けた種族、オーキシュの殲滅』


「今から200以上昔のこと、当時でも〈連邦〉は事実上崩壊していましたが、現在に比べると文明自体は高い状態にありました。人口も現在の2倍はあったでしょう」


「人口が減っているのか……」


「100年前時点での予言になりますが、あと140年で人類は文明を保てないほどに人口が減少するとされていました」


「あー、となるとタイムリミットまであと40年ってことか……」


「200年前の時点で人類と文明の衰退は問題になっていました。そこに表れたのが、連邦大学最高の天才にして、最悪の呪術技官、フォールです。家名は封印されており今では知ることが出来ません」


「ヤバそうな話だが、そいつはいったいなにをしたんだ?」


「フォールは邪悪な人物というより、純粋で常識外れな人物だったと聞いています。彼は〈革新者〉を名乗り、神の作った世界を一から変えようとしました。そこで生み出したのが新たな人類、オーキシュです。種族を丸ごと作ったのだから本当に天才だったのでしょう」


「悪いことはしてないのか……?」


「オーキシュは堕落した時代にふさわしい堕落した種族です。人より大柄で、人より強く、人より残虐。狡猾で見るに堪えない外法を操り、人を殺します」


「悪いやつらだこれは」


「人類がオーキシュに滅ぼされなかったのは、オーキシュが自己中心的な性格を持ち、仲間同士ですら争うからです。そうでなかったら、今ごろ大陸にはオーキシュの野蛮な社会が出来ていたことでしょう」


「なんで、フォールって野郎はそんなアホな種族を作ったんだ……」


「人類に対する皮肉だったとも言われていますが、案外、そういう種族こそが厳しい時代を生き残るとでも考えたのかもしれません。オーキシュはいまも北部の山か森で人類に対する反抗の機会をうかがっていることでしょう」


「そいつらを皆殺しにすればいいのか」


「あなたはオーキシュを倒すために生まれました」


「えっ、そうなの?」


「オーキシュを殲滅してなお生き残る、それがあなたの能力の基準です」


「うーん、ベンチマークみたいなものか?」


「それだけではありません。あなたは〈革新者フォール〉と正面から戦って勝てるように作られました」


「マジかよ。というか、そいつまだ生きてるの?」


「生きている……かもしれません。そういう噂があります。しかし私はどうしても単なる噂だとは思えないのです」







『二百歳を超える主席呪術技官、ソ=タイガ師の捜索』


「ソ=タイガ師は〈革新者フォール〉と同門の同期でした。最後の戦いでフォールを討ったのも師です。討伐隊のうち生き残ったのは師一人だったと言われています。百年前の時点で、ソ=タイガ師は、主席呪術技官で学部長でした。彼こそ文明の守護者。私たちは真っ先に師を探さねばなりません」


「ちょっと待て、そいつ生きてるのか? 100年前とか200年前の話だろ? さっきからどうなってるんだよ」


「100年程度で死ぬ人ではありませんね。なにかあったら泥をすすってでも生き延びろという考え方の持ち主で、それをまさに実践していましたから」


「いや、寿命の問題があるだろ」


「師は生命の秘術に長けていますから、寿命くらいどうということはないでしょう」


「ん……そうなんだ……」


「師がいれば連邦大学を――文明を再建できるはずです」


「大学があったのか」


「人類の英知そのものでした。もう過去の話ですが……」







『旧連邦首都、ユニス=フロスの奪還』


「きっかけはゼルエン大陸です」


「さっきのゾンビが出た大陸のことか?」


「あなたの言うゾンビについてはまだ理解できていませんが、その死者の大陸のことです。本来であれば、〈連邦〉はゼルエン大陸に援軍を送り、死者を駆逐せねばなりませんでした。しかしそうできなかったのです」


「どうして?」


「人類の愚かさを除けば、そうするだけの余裕がなかったというのが理由です。連邦と所属国に割けるだけの兵力と資金は残されていませんでした。それだけ文明が衰退していたのです」


「リアルな話だな」


「これを機に評議会が解散し、形ばかり残っていた連邦の残骸は完全に消滅しました。まっさきに被害に遭ったのがバルナウ図書館です。〈大書庫〉が焼き討ちされ、すべての知識が灰と化したのです」


「書を焼くとはまさに文明の破壊行為だな。なんでそんなことをしたんだ」


「都市議員による陰謀でしょう。つまり、大学から権威と権力を奪おうとしたのです」


「権力闘争で知識を焼いたのかよ。最悪だな」


「連邦予算を打ち切られた大学は、ソ=タイガ師のおかげでしばらく存続していました。実のところ、〈大書庫〉に所蔵されていた書のうち貴重なものは、すべて師が確保し、〈異世界の宝物庫〉に隠してあります」


「やるじゃん、ジジイ」


「その後のことはわかりませんが、大学はおそらく消滅したと思われます。しかし、私たちは連邦首都を奪還し、文明の遺産を拾い集め、大学を建て直さねばなりません」


「その首都の名前がユニス=フロス?」


「ユニス=フロスです」

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