166話 俺、アルジャ・岩本と共に地下へ
地下にワープした俺の前に偶然あのコウモリが立っていた。
「旦那! 丁度いい所に! 探してたんですよ!」
「おぉ、コウモリ。何だ? どうした?」
「儲けの10%のスチームコイン早く持ってってください!」
見るとコウモリの小さな指に大きめのズタ袋が引っかかっている。
「重たくて飛べないし、指が今にも攣りそうなんです!」
俺は彼の爪ズタ袋を受け取る。軽く振ってみるとジャラジャラと音がなった。
「ハァ〜、助かりやした。じゃあ、俺は戻りますんで。旦那とあの金髪の人間には個人的に期待してますからね」
そう言うとコウモリは羽を広げ、奥の方へ消えていった。
要らね〜。パルチにやろ。
「僕はどうしたらいい?」
「そうだな、この奥に端末がある筈だが何があるかわからん。俺も一緒に行こう。エスカ、ここでしばらく待っていてくれないか?」
「ハイ、ここで待っていれば良いのですね」
「うん、じゃよろしく。行くぞ、って言いたい所だけどちょっと寄り道していく」
「僕は別にいいよ」
俺はエスカをその場に残し、パルチが救命カプセルの所へまで歩を進める。件の装置の中にはパルチとその家族がぎゅう詰め状態で丸まっていた。
俺の存在に気付いたパルチがボックスないから飛び出してきた。
「兄貴! もうやるのかニャ?」
「まだやらん。少し別件の用事がある。それを済ませてからまたやるぞ。次からは俺も戦闘に参加する。んな事よりも、お前に渡すもんがある」
「オレっちに?」
俺はズタ袋をパルチの前に落とす。
「こ、こんなに良いのかにゃ!? 前回の儲け分で3ヶ月はたらふくご飯食べられる程ニャのに」
「じゃあ新しい武器でも買えよ」
「わ、わかったニャ。兄貴次からオレっち頑張るニャ」
「期待してるぞ。心配すんな。ピンチになったら助けてやるからよ。出入り口に俺の妹を待たせてるから合流しとけ」
「了解だニャ。今から行くニャ」
俺が去ろうと一瞬カプセルの中を何となく見ると三毛猫が俺の方を向きながらお辞儀をしていた。
パルチが演技ができるとも思えん。恐らくもうバレてしまっているのだろう。しかしあの三毛猫は敢えて傍観する事に決めたのだろうな。パルチと違ってできる雌の様だ。
「じゃ、俺達は行く」
「わかったニャ、オレっちは武器買ってから合流するニャ。お、重いニャ……」
俺達はパルチから離れ、最下層へと向かう為エレベーターへと向かった。
しばらく道なりに歩き、ぴっちりと閉じた扉の前に立つ。そして横にあるボタンを押す。
しばらく黙って立つも、待てど暮らせどエレベーターは来ない。
「通電はしてるんだがなぁ」
「もう階段で良くないかい?」
「なん段あるか俺全然知らんけど、お前耐えられるの?」
「うっ……」
俺は鼻息を漏らし、扉に両手をやり無理やりエレベーターのドアを開いた。
下を覗くと暗闇が口を開けて待っていた。
「もういいや、俺に掴まれ」
「マジで?」
「マジだ」
「仕方ないか」
彼が俺の背中にしがみつき、そのまま俺はジャンプし躰は急降下を始める。
「いやああああああ!! やっぱこわああああああああ!!」
「耳元で叫び声あげるな!」
画面上に地上までのインジケーターが別枠で表示され、数値がどんどん0へと近づいていく。俺は残り3メートルの所で、脚部のミニマムブースターを吹かし急激に落下スピードが遅くなり、やがて静かに着地した。
「つ、着いたかい?」
「静かにして目をつぶっていろ」
「な、何で?」
「見ないほうがいい……」
地下に着いた瞬間、画面上のマップの上部全てが真っ赤に染まった。このマップの赤い表示は敵モンスターの表示がドットで表される。1体に付き1ドットいった具合いだ。つまりこの暗闇の中は今敵モンスターに埋め尽くされていると言うことだ。
サーモグラフィーをオンにすると幾千ものグールがこの通路内にひしめき合っていた。全身白い肌に躰中に赤い血管が見える。鬼の形相を思わせる醜悪な顔。猫背に非常に小さな体躯。ガリガリだが下っ腹だけが異様に突き出ており、口から血の様な液体をブクブクと泡立て床に滴り落ちる。
この通路が端末へ続く唯一の道だ。
グールは代表的な雑魚モンスターだが、俺にしがみ付いている彼には驚異になる。普通の痛みは無効化できんと言っていたしな。
「早速試してみるか」
俺は腹にあるコアを軽く叩くと、両腕の培養液が一気に吸収され空になった。
「現臨せよ、シャイニング!」
特に変化はないがそれでいい。光の精霊神シャイニングの姿はこの俺にも絶対不可視の存在だ。
「シャイニング、右手の空になったカプセルに入れ」
右半身が白く輝き出した。生物的な印象が強い右手が眩い光を放つガントレットを纏っている様な硬質な物へと変化した
「すごいなこれは。シューティング、フォース・レイ」
俺がそう唱えると右腕から強烈な光が発生し、周りのグールは一切が塵となって消え去った。
「シャイニング、ご苦労だった」
俺がそう言うと光っていた右半身は、いつものデザインに戻っていく。
「えっ何で光の精霊神呼んだの? そこまで明るくしたかったのかい?」
「もう普通に立てよ。あー目が痛ぇ」
俺からアルジャは手を離し、ヘッドライトを付けた。
「これは……」
床一面はグールから分泌される赤い液体で真紅に染まっていた。
「グールが居たのか」
「あぁそうだ。無視して突破してもいいが、お前がいたからな。シャイニングを召喚して一掃した」
「どうだい? 中々だろ? 陽炎⊿は」
「あぁ、気に入った。片方に光、もう片方に火なんて事もできるのか?」
「そんなの朝飯前だよ。それどころか組み合わせ次第で新たな属性なんかも作れちゃうなんて芸当も可能さ。ところでこの通路にグールが? つまりこの階にグール・クイーンがいるって事?」
「そういう事だろうな」
「でも、ここなんて端末が置いてある部屋しかないよ」
「行ってみりゃわかるだろ」
通路を進み奥にある端末へとたどり着いた。
巨大な画面に小さな台の様なものがぽつんと設置してあった。そしてその真横には首、両手、両足が鎖に繋がれ体長5メートルを超すグール・クイーンが鎮座していた。グールの体長は100センチ程度と考えると規格外のデカさなのがよくわかる。
「奴さんは瀕死の様だが、どうする? しかし腐っても一応のネームドモンスターであるグール・クイーンを捕縛するとはな。中々の強者がこの都市にいる様だ」
「君に任せるよ」
殺しておくか。いや……明らかにこいつは故意に生かされている。何のメリットがあるんだ?
このクローズドサークル化した都市。いつの間にか置かれているあまりにも旨すぎる肉。そしてこの闘技場と言うなの弱肉強食の殺し合い。
「なるほどな、そういうことか」
「何? 何か言ったかい?」
「なんでもねぇ。こいつは無視しとけ」
「えー集中力いる作業今からやるんだよー!?」
「うるせぇ!」
「わかったよー。失敗してもあとから文句言わないでおくれよ!」
「そん時はお前ロメロスペシャル1分コースだ」
「どんだけプロレス好きなんだよ!」
「俺は学生時代VRマーシャル・アーツ部に入ってたからな。大体の格闘技はその時に脳内学習でマスターしている。特に好きなのがサブミッションってだけだ」
「もーじゃあ始めるよ。少し黙っててもらえるかな。集中したい」
「あぁ、頼んだぞ」
アルジャ・岩本が台座の上で指を動かし、前のでかいモニターに光が戻った。
俺は次々表示されていく英語の羅列をただ黙って見つめるのだった。




