第160話 俺、エスカにボディランゲージする
エスカの方を見ると、どうやらまだ上手く扱えないのか、残った最後の片割れとの戦闘は拮抗している様だ。
鋭い爪と牙による攻撃をギリギリの所で剣を使い、いなしている様だ。
「クッ!」
「筋肉ばかりで喰い甲斐がなさそうな躰だなぁ!? えぇ!?」
「貴様! 私を食べる気でいるのか!?」
「当たりめぇだろ! ここはなぁ! 俺達の食事場なんだよ!」
「私はお前達の餌になる為に、ここに居るのではない!」
彼女は剣を操ろうとしているようだが、自分の思い通りにならないのか、険しい表情のままだ。
どうやら今だに魔法剣の使い方がわかっていないようだ。
そろそろ限界だし、少し手を貸してやるか。
俺は両者のそばへ行き片脚を上げブースターを吹かす。虎が吹っ飛んでいく。
「一体何が?」
「エスカ調子が悪そうだな」
「お兄様!? お姿見えませんが」
「お前の後ろにいる。アストラルスレイヤの使い方がまだわからないか」
「申し訳ございません。私の力不足です」
「いやいや、良いんだ。直接教えてやるよ。ちょっと触るぞ」
俺は彼女の剣を握っている手に自分の手を被せる。
「あ……お兄様」
「良いか、俺の体温がお前の手に伝わっているだろ? 魔力も同じ様なもんだ。目に見えないが確実に剣に伝わっている。そうだな……川のせせらぎを想像しろ」
「川のせせらぎですか」
「あぁ、それを――ごめんちょっと違うかも」
「お兄様の体温が私の手に伝わっている……。熱いです。とても、とても熱い」
剣が赤い光を発し、蛇の様にしなる。鉄板でできた床が赤熱化しオレンジ色に光っている。
初っ端で赤色か。
「で、できた。できました。お兄様!」
「よしよし、あとはいつもと同じだ。お前の好きに戦え。最後に復習だ。閉じる時は……あーえっと」
「もう大丈夫です。完全にわかりました」
「そう? じゃあもう良いかな。丁度再起してこっちに向かってくるぞ」
「スゥ……」
エスカは目を閉じ、小さく息を吐くと目を見開き、しならせた剣をムチの様に地面に叩きつけた。
「元王立騎士団副隊長エスカ! 参る!」
「全身の皮剥いでやる! この筋肉牛エルフが!」
「やれるものならやってみせろ! 愛の力で強くなった私は一筋縄ではいかないぞ!」
愛の力て。
彼女は剣を振りかぶり、一気に5メートル程伸びると右腕を切断し地上で跳ねた刀身が左腕をも切断する。
『なんと刀身が一気に伸びたかと思うと両腕を一度に切断したぁッ!』
「もう諦めろ! 貴様は戦闘不能だ」
「諦めろ? 最も俺の嫌いな言葉だ……。てめえのそのクソでかい牛乳噛みちぎってやらぁ!」
「なんというやつだ」
両腕をなくした虎が彼女に噛みつこうと口を開け迫る。
「エスカ、丸を描く様に手首のスナップ効かせて、手首を素早く動かしてみろ」
「ハ、ハイお兄様!」
彼女が俺の言うとおり手首を動かすと、刀身が虎の首に巻き付く。
「いいぞ。そしてそのまま魔力の供給を閉じろ」
「し、しかし」
「いいから、俺の言う通りにしてみろ」
赤い光が消えると、巻き付いていた剣が首を一気に締め付け、首が切断された瞬間にエスカの手には鮮血で真紅に染まった剣が握られていた。
「魔法剣の特徴とガリアンソードとの合せ技だ。覚えておけ」
「死にゆく者に敬意を……」
インビジブルを解き、猫の元へ行くと今だ放心状態だった。
思えば俺も今日は色々動き過ぎた。
店じまいと行くか。
俺は死体からコインの入った袋を探し出してから、血まみれの猫を広い、エスカの元へ行く。
「エスカ、今日はもう終いにしよう。流石に今日は俺も疲れた」
「ハイ、お兄様」
『おぉっと、何もせずただ隠れていたチームデス・ウィッシュのリーダーが、どうやら一時撤退を選択した様だ』
天の声もし出会う事があったら、出合い頭に喉仏ぶっ潰してやるから覚悟しとけ。
つーか、一時撤退とかできるんかよ。蝙蝠そんな事言ってなかったぞ。
俺はエスカを引き連れて入ってきたエレベーターに乗り、エントランスに戻るのだった。
ついでに呆けていたパルチを気付け薬代わりのアインディーネを召喚し頭から水を被せ、正気に戻してやった。
「にゃ、にゃに?! にゃに!?」
「おら、お前のだ。全部やる」
俺はコインの入ったズタ袋をパルチの足元へ全て放る。
「兄貴……ありがとニャ」
「いいから、嫁さんとガキ達にいいもん食わせてやれ。あぁ、それとだな、エスカ耳と目を塞げ」
「は……はっ!」
エスカがを閉じ、両耳の穴に人差し指を突っ込むのを確認し俺は口を開く。
「いいかパルチ、俺はお前をエージェント設定している」
「エ、エージェント?」
「この機能はアイテムを持っていたり、クエストを受注する事ができるNPCを特定するのに使う機能だ。どこで何してようが、リアルタイムで様子を見ることができる。つまりどういう事かと言うと、お前は俺からはどうあがいてももう逃げられんと言うことだ。わかったな?」
「逃げたりなんてしないにゃ……」
「よし。それならいい」
エスカの肩を人差し指で2回軽く叩き、目を開けたエスカに耳に突っ込んだ人差し指を抜くように、人差し指を遠ざけるジェスチャーし伝える。
「話は終わった。じゃあなパルチ。また、明日ここで会おう」
「わかったにゃ兄貴」
踵を返し、ここを出ようとした時、実に聞き覚えのある男の心底嬉しそうな男の笑い声とミニガンの多重銃撃の耳を劈く爆音がほぼ同時に古巣に響き渡った。




