第153話 俺vs魔王バエル
俺が城に入ろうと歩を進めると雑魚の悪魔達が大挙して押し寄せる。
「お、おい敵だ!敵が来たぞ!」
「あーハイハイ」
インベントリから取り出したM4カービンで悪魔共は発射された銃弾で次々消し飛んでいく。
「処刑人クラス悪魔があっという間に消えていきやがる……。お前が使ってる武器なんなんだよ……」
「お? これか。これはM4というアサルトライフルの銃身を少し切り詰めた物だ。使ってる銃弾は337ラプア弾と言ってな。実際はアサルトライフルよりスナイパーライフルで使われる弾なんだが、俺がこいつを使っているのは何よりこの貫徹力にある。こいつの貫徹力は凄いぞ。ちなみにこの数字だがこれは銃弾のこ――」
「もういい。お前が何言ってんのか一字一句理解できねぇ」
「お前が聞いてきたから説明してやったのに。まぁいいか。所詮中世の人間よ。おいルシファーお目当てどこにいるんだ」
先行するルシファーが歩みを止めて俺の方に向き直った。
「我が主、城主である魔王バエルはこの階段を昇って真っ直ぐ進んだ先です!」
「オッケー」
俺はルシファーの指差す階段を昇りきると、遠くに王冠を被った人型の化物とそのそばで球体の上で器用に逆立ちするピエロが目に入った。
俺は無駄に遠くにある玉座目指して歩く。
王室に座るこの王城の主は奇っ怪な姿をしている。
人間の老人の顔をしているが右手が猫、左手が蛙の顔面が付いている。まるでガキの頃見た人形劇を彷彿とさせる。
「不埒なる人間……。誰の許可を得て我が前に立つ」
俺は間髪入れずM4カービンでパペット王冠クソ野郎に銃弾を浴びせた。
「ふひいぃぃぃ!?」
側にいたピエロがボールから転げ落ち、どこかへ走り去っていく。
なんだあのピエロは?
「下賤なる人間……。良くも私の躰に傷を……」
「ほう、俺の銃弾を受けて喋る体力があるのか。大したもんだ。腐っても地獄で頭張ってるだけはあるな」
「万死に値する。永遠の闇にその身を晒すがよい」
「黙れ」
さらに銃弾を浴びせ、脳天に風穴が開いたのを確認し俺はトリガーから指を離す。
ズタボロのボロ雑巾の様になったバエルはずるりと玉座から崩れ落ちた。
「よし、まぁこんなもんか」
「我が主! まだ終わっておりません!」
ルシファーが声を張り上げると、奴に開けた銃創から黒い瘴気が吹き出しあっという間に周りを包み込んだ。
「この霧は!?」
周りが黒一色に染まった。前後左右を目視し、各種センサーにも何の反応も見られない。気付いた時にはアマテラスの姿も脳裏から消え去っていた。
ただあるのは漆黒の闇。
なんだ……この空間は?
そう思っていると小さな光が刺しているのを見つけた。
「……」
怪しい……。怪しいが……行くしかないか。
俺はその光の元へ近づきこうと歩を進めるとその光が眩く輝き俺は反射的に目を閉じた。
「――ちゃん」
何だ? 誰だ? 俺を呼ぶのは?
「お兄ちゃん!」
俺が目を開けると、絵理香に呼ばれていた。
「ここは?」
「もうボケたの? ここ病室! 話してる途中で寝るとかあり得ない!」
病室? あぁそうか。俺は今日こいつの見舞いヘ来たんだった。
伸びた黒髪、コケた頬で俺を見る。
気丈に振る舞っているが、俺の妹は手術後の体調が芳しく無く、こうやってベットから降りる事が出来ないでいた。
「ねっお兄ちゃん。リンゴの皮剥いて食べさせてよ」
「自分で食えよ」
「嫌よ。手が濡れちゃうし、お兄ちゃんの剥いたリンゴが食べたいな〜」
「え〜面倒くせぇ」
「良いじゃん! 早く!」
絵理香が口を開けて催促してくる。
「しかたねぇな、わかったよ。ちょっと待て」
俺はテーブルにある果物ナイフとリンゴを手に取り皮を剥き始める。
何か大切な事を忘れている様な気がしてならん。何だったか。あ〜イライラすんな。でもなぁ……。
「タバコ吸いて〜」
「タバコ? あぁタバコね。あるよ。ハイ」
見ると絵理香の手には煙草が1本あった。
「おっサンキュー。えっと火、火が」
「ハイ、ライターもあるよ」
「気が利くじゃん」
俺は彼女に火を付けてもらう。
「そうだ。お前に言い忘れた事があった」
「何? お兄ちゃん」
俺は持っていた果物ナイフを彼女の右眼に突き刺し思いっきり抉ってから引き抜いた。
「ぎゃああああああ!! 何――」
そして喉元に刃を横に引き裂く。
「お前いつから煙草の煙大丈夫になったんだよ。あぁ!? 俺がどんだけお前の為に禁煙したと思ってんだ?」
彼女の眼と首から流れ出た血が純白のベッドを紅く染め、ヒューヒューと声にならない声をあげながら左眼で俺を見る。
「もうネタは上がってんだよ。この三文芝居の指人形野郎が。俺の妹はなぁタバコの臭いがむちゃくちゃ嫌いだったんだよ。いっつもヤニ臭いって文句言いやがってよぉ」
「な……何故我の最強の幻が破れる? この女は貴様にとって最も大切な者の筈!」
俺はインベントリから銃を取り出す。
幾千幾万とやってきた動作だ。見えなくとも何の問題もない。
「ま、待て! 妹と一緒にいたくはないのか!? ここで永久に大切な者と居られるのだぞ!?」
「確かに妹にまた会えた。そこだけは感謝してやってもいい」
「そ、そうであろう! なら――」
「だが、それだけだ。お前が言っているのはただの停滞に過ぎん。俺は進むぜ。どんな壁が立ちはだかろうと叩き潰してな」
俺は銃を構え引き金を引く。
「ま」
妹の顔面が吹き飛び、鮮血が壁に広がった瞬間、周りの景色が捻じれ元の城に戻る。
玉座に座るは首のなくなったバエルの姿。
「や、やりやがった……。マジでバエルを殺したのか」
俺は玉座まで近づくバエルの服を掴み後ろの方へぶん投げ、椅子の近くにあった王冠足で踏みつける。
「今から俺が地獄の主だ。ハイ決定〜」
ルシファーのみが俺に向かってパチパチと拍手する。
「キ、貴様〜! 良くも我の王城でこの様な狼藉を〜!」
首が吹き飛んだ筈のバエルが起き上がり、蜘蛛の顔面が生えだした。
「今度こそ永遠の闇に葬ってくれる!」
バエルが呪文を唱えると、城が大きく揺れだした。
「ヒエッ! 何だこの揺れは! おいやべぇよ逃げようぜ!」
その揺れはどんどん大きくなり、何かがここへ近づいてくる足音である事が俺にはわかった。
城の外壁をぶっ壊し、ケルベロスが突撃してきた。
「ワンワン!」
「ケルベロス!? 何故こいつがここに! こ、この駄犬がぁ! よくも1度ならず2度もこの城の城壁を破壊したなぁ! ふん、貴様はあとだ! ハハハァ! 死ねぇい! この下劣で下等な人間!」」
「グルルルル……」
憤慨したケルベロスが口を開け、バエルの上半身に噛みつきブンブンと首をふり、左右に首も下半身に噛みつき千切れた胴体と手足を一頻り口の中で噛むとそのまま飲み込んだ。
うわ、すごいよぉ。
こいつすげー悪食だぜ?
よっぽど腹減ってたのかな。
「ハッハッワンワン!」
ケルベロスが俺の目の前でお座りすると、尻尾を俺に向けて振ると何かが落ちた。
広い上げるとシルバーのトゲがついた黒革のチョーカーだった。
うわぁ……80年代のメタラーが付けてそうなクソゴツいチョーカーだぁ。手で握るだけでそれなりのメリケンサックになりそう。
「えっと貰っておきますです」
「クゥ~ン」
露骨に悲しそうな声で鳴かないで……。
「わかった。わかりました」
俺は外格をキャストオフし、首にチョーカーを付ける。
「ワンワン!」
「うっひゃあ」
ケルベロスの巨大な舌で舐められ一気に全身唾液で濡れてしまった。
「さ、さてと」
俺はクリーンを発動させ、全身の唾液をなかった事にする。
「まぁ邪魔が入ったが、改めて俺が地獄の主なりまーす。ハイ、拍手〜」
ルシファーの拍手の音はケルベロスの雄叫びにかき消えるのだった。




