第139話 俺、おっさんを救う
画面上のマップに新たに映し出された黒いポインタが北東に向かっていく。
「よし……」
あいつ等が何者かは知らんが今回で大体の強さはわかった。不安要素はあいつだけか。正直ある程度放置していても問題はないだろう。
ビーディからの着信が頭に響く。
『乙〜、でどんな感じ?』
「んー鳥は雑魚。ボスはやべーやつ。そんな感じ」
『マジで? そんなにやべーの?』
「第一印象はな。まともに戦ってねぇからよくわかんねぇ。それより迎えに来てくれよ」
『了解』
通信が切られるとすぐに地面が軽く振動し、地平線の彼方からSLがもうもうと白い蒸気を上げながらこちらに向かって走ってくる。
やがて速度が落ちていき、先頭車両が俺の目の前で止まった。
『乗ってー』
俺は列車の側面にあるハシゴを上り、誰もいない後部車両へと入り椅子に座る。
軽くため息をつくと、アナウンスを知らせるメロディが流れてきた。
『ンご乗車ぁりがとうございますぅ。このぉ列車はエルフの森行き直通特急列車ぁ、エルフの森行き直通特急列車となっておりやす。不信な物を見つけたら係員または乗務員にまでお知らせ下さい。ではぁドア閉ありやすぅぅぅ』
「ウザッ」
『俺は形から入るの!』
「いいからとっとと発車しろよ! ドアなんてさっき閉めたわ!」
『もー浪漫がわかってないんだから』
「あぁそうだ、例の牢屋にぶち込んだおっさんに用あるから、一旦戻ってくれ」
『えー! もうエルフの森行きって言っちゃったよ!』
「線路なんざ幾らでも引けるんだからどこへでも行けるだろうが! 早くしろオラァン!」
『わかったよもー』
列車は雪の中は走り出す。
俺はというと、パワードギアを収める為にケースを外格の腿から取り出し、蓋を開くとどこからともなく現れた小さな歯車が次々収まりほぼ回収できた事を確認し、ケースの蓋を閉めて腿のところから出ている挿入口に押し込むと、出っ張りが引っ込んだ。
10分程走り続け、ブレーキ音と共に車両が揺れ停止した。
ドアを自分で開き檻の所まで歩いていくと牢屋は半分程雪に埋もれた状態だった。
鉄格子を掴みそのまま持ち上げて雪を払う。
大体の雪が地面に落ちたのを確認し牢屋を地面へ下ろす。
牢屋の中にいたおっさんはぴくりとも動かない。
「死んだか? おいおっさん生きてっか?」
反応がねぇな。
出入り口の鉄格子を力まかせにひん曲げそのまま外して外へと放り投げる。
中に入り、顔を見ると完全に血が通っていない白い顔をしている。
「アマテラス、Xレイモード」
「ちょっと待って遅れやす」
相手の骨格や内臓があらわになる。
胸の方を見るに心臓は完全に停止していた。
俺はインベントリからエリクサーを手に取る。
フラスコボトルに紫色液体が入っている。
口元に近づけた辺りで、俺はフラスコをインベントリ内に引っ込める。
「もったいないな……。もしかしたら仮死状態かもしれんし……プロに協力を仰ぐか」
俺はチャットを起動させ、応答を待った。
『ゲインくん! 君今どこでなにやってんの!? 皆めっちゃくちゃ心配してるんだけど!』
『あともうちょいしたら帰るから心配すんなって言っといてくれ。それより聞きたい事があるんだけどさ』
『聞きたい事? なんだい?』
『心肺停止状態の人にギリギリ流していい電流ってどんくらいな訳?』
『心肺停止状態? 今ナニやってんの君?』
『いいから教えろって』
『大体30アンペアから50アンペアってところかな。それ以上は危険だよ』
『ありがとナス!』
『ちょ、ちょっとゲインく――』
俺は一方的ににチャットを切り上げ、おっさんの服を破き胸部に手を当てる。
全く何が悲しくておっさんにパイタッチしなきゃならんのだ。
「アマテラス、30アンペアに電流を設定し一気に流せ」
「いつでもええどすえ」
おっさんに向かって電流を流す。躰が一瞬跳ねるが心臓は動いていない。
「だめか……」
『けんちゃんなにやってんの?』
「こいつが人間アイス・シャーベットになっちまったんだよ! 今心臓動かそうとしてんだ」
『だったら心臓を直接動かせばいいじゃん』
「んな芸当どうやれっつーんだよ! 胸に風穴でも開けて直に心臓握れってか?」
『俺がいるじゃん』
は? 何言ってんだこいつ? マジで心臓ニギニギするんか。
『サイコキネシスで直接心臓を動かすんだよ。あとパイロキネシスを使って躰を無理やり平常時の体温まで上昇させればいいよ』
「まさかそんな芸当ができるとは……」
『昔色々と実験したからね。じゃあけんちゃん電流頼むよ』
「オッケー、いくぞ」
電流を流しおっさんの躰が大きく跳ねそのまましばらく見ていると、先程より明らかに血色が明らかに良くなっていく。そして目を開き跳ね起きた。
「うぅおぇ! ガホガホッ!」
「おい、おっさん誰が勝手に死んで良いといった?」
「き、貴様等!? オルタナ様は!?」
「ぶっ殺してやったよ」
「なんという……なんという事を」
「目ぇ醒ませ。お前は騙されてたんだよ。いいもの見せてやる」
俺はインベントリから録画ファイルを選択。
先のはんぶんこ鳥人がゲロっていた部分を再生すると半透明となった奴が俺達の目の前に現れ喋り終えたところで映画を停止させる。
「どういう事かわかったか? あんたもは最初っから弄ばれてたんだよ」
「そ、そんな……全ては我が祖国を思って……うぅうう!!」
おっさんはその場に嗚咽を漏らしながら泣き崩れた。
「わしが……」
「ん?」
「わしがまだ子供の頃この国は貿易で栄えていた……。気候も穏やかで毎日が楽しかった……。だが、私が大臣になってすぐ、気候が狂い始め海は波を止め港が凍りつき貿易ができなくなってしまった。途方に暮れていたある日、私の元に現れたのがオルタナだった」
それからおっさんはオルタナからエルフを捕らえ娼館ではたらかせること、特殊な製法を用いて作られた兵士を与えられ、戦争を仕掛けることで領土拡大を狙う様に言われた事を俺等に伝えた。
『それ多分俺のパーツで造ったんだろうね。何回か俺バラされた記憶あるし』
「あの兵士共はロボットだったのか? にしては出血していた様に見えたが」
『あれじゃない? サイボーグだよきっと』
「ふーん、まぁどうでもいいけどなニライカナイ一発でほぼ全滅させたし」
『あの電子レンジ砲を人間にむけて撃ったの? やるねぇ〜楽しかった?』
「別に? 立ちはだかる壁はただ破壊するだけだ。人間だろうが悪魔だろうが神だろうが関係ねぇな」
『おれだったら腹抱えて笑ってるだろうなぁ』
「お前はまぁそうでしょうね」
「な……なんて恐ろしい奴等だ……」
どうせこの雪は止めてトラブルの原因究明しなきゃだし、ぶっちゃけどうでもいいっちゃどうでもいいんだけど、あいつがここにいたら助けようとするんだろうなぁ……。
「港が凍ってるんだっけか。溶かしてやろうか」
「な、なんだと!? できるのか!? そんな事が!?」
「楽勝だよな」
『まぁそうだね。電子レンジ砲を使えば一瞬で溶かせるとは思う』
俺はキャストオフし、おっさんに姿を晒す。
「に、人間!? インセクターではなかったのか!?」
『うっわ、けんちゃんなにその格好ダッサー! 何百年前の格好? あれでしょドキュンってやつでしょそれ』
「俺だって好きでこの格好してんじゃねーんだよ。おいおっさん、港まで案内しろ」
「あ、ああこっちだ」
『待って、俺顔のアタッチメント外すわ』
俺とビーディは蘇生させたおっさんの後について行き、一路港を目指して歩を進めるのだった。




