第124話 俺、アルジャ・岩本とシモトークに興じる
道具屋を出た俺は道なりに真っ直ぐ歩く道中、エスカは店から出た時点で俺に手を回し、顔をピンク色にし、何やら呟きながらうつむき加減で歩いている。俺は空いてる方の手で今し方購入した地図を広げた。
「なんだこの……なんだ?」
目に写ったのは迷路めいた何かだった。
見づらい。ただひたすらに見づらい。炭か何か黒い塗料のみ書いたのか? これじゃ今自分がどこにいるのかすらもわからんじゃないか。
アイコンとかそういう類のものも確認は取れるが、全部真っ黒な塗料で雑に描かれている為軽く混乱するぞ。
「えーっと……これが恐らく道具屋だから、先の道が双方に別れてて右側の道を真っ直ぐ行ったら、左にカーブして……そこから暫く真っ直ぐ……」
ルートを構築中、頭の中にピコーンという軽い機械音が流れた。
思い描いたルートは音にかき消されてしまった。
この音はシークレットチャットの要請だ。
後ろを振り向くとアルジャ・岩本が右手の人差し指でこめかみの辺りをつんつんしているのがわかる。
人が難解な地図攻略しようとしてたのに、何してくれてんだコイツ。
右手はエスカに掴まれて動かせないので左手の親指と人差し指をくっつけてすぐに離し、インベントリを開く。そこからインベントリ上部のタブをタップし、チャットメニューからシークレットチャット申請の承諾を行う。
『何だよ一体』
『あのさ、ちょっと聞きたい事があるんだけど……良いかな? できれば、怒られないで聞いてほしいんだけど……あのエスカさんとはどんなエッチしてるの?』
いきなり藪から棒に何言いだしてんの、この褐色パーマ野郎は?
『え、お前あれか? 俺にぶん殴られたいのか?』
『い、いやあの……だってしょうがないじゃんか! 僕だって男だよ! あんなのみせられたらムラっとくるよ! 後ろからでも分かっちゃうんだよ! 大きすぎてその……はみ出てる部分がしょっちゅう揺れてるのが!』
うっわ逆ギレされた。
こいつあれか? 欲求不満ってやつか。
『お前ってあれか? 爆乳スキーなの?』
『おっぱい嫌いな男性なんていないよ! いたらメタルスラ○ム並みの希少種だよそれ!』
『いや、メタルスラ○ムは言う程希少じゃないだろ。案外メジャーだぞ』
『ともかく! 軽くで良いから!』
えー、うーん……どうしたもんか。これってつまりは俺が3Dプリンター作った自作のエロフィギュアがどストライクだったから視姦していい? という事態とほぼ同意義じゃん。
製作者として喜んで良いんだろうか? 悲しめば良いんだろうか? 死ぬほど複雑なんですけど。エスカ超可哀想じゃんこれ。彼女のアイデンティティはどうなっちゃうの。
『頼む! 桃源郷の息吹を僕に!』
『えっとあいつ……だからやっぱ、でかい訳ですよ。そこは説明不要ですよね。エベレストというか、チョモランマがね2座ある訳ですよ。攻略するよねそりゃあ。もうね、溢れるよね。ミット並みの手のでかさでようやく片方全部隠れるんじゃね? クラスの大きさだからね、あの娘の。あとあいつ興奮すると全身から汗が出るんだけど、その汗に微弱だけど媚薬みたいな効果がみられるんだよね。つまりは、あいつがバーサーカーモードになる要因は興奮で出た汗の効果に、自らがかかっちゃってるっぽいんだよね。そりゃあ気絶するまでノンストップになるよね。以上! もう勘弁してくれ』
『おぉ、うんうん! 最高だよ! ありがとう!』
チャット画面に映し出されたアルジャ・岩本の目は驚くほど澄んで見える。
『どうしてもって言うから教えてやったけどエスカやエル、その他に対し変な気起こしでもしたら、マジでぶっ殺すからな』
『大丈夫だよ。そんな事しないから。僕おっぱい以外の部位には一切興味ないから』
『お前も大概変な奴だな。ちなみにあいつの相手は俺以外の人間には務まらんぞ。色んな意味で。賢者モードの時にあいつから聞いたけど、ダークエルフは初めてを奪った人間以外の奴と仲良くすると強酸の液体が体内から放出されて触れたら最後、躰がドロドロに溶けていくらしい』
『それってどっちが? 両方?』
『無論、相手側のみよ』
『ありがとう……、一気にテンション下がったよ』
『ちなみにこの体質がエルフの種族名の先頭にダークが付く由来らしいぞ』
『へぇ、そうなんだ』
『つーかさ、お前が急にチャット申請してきたから地図また見直さなきゃいけねーじゃん!』
『地図? ちょっとここのチャットに地図のデータアップロードしてみてよ』
彼の言うとおりチャットに地図をコピペする。
『うわ、何だこりゃ。まるで幼稚園児が作った迷路みたいだぁ』
地図の横にねずみ色のウインドウが開かれ、何やら英単語と数字の羅列が次々書きこれていく。
『ちょっと待ってね。今データを元に再構築して3D化の作業するから』
2Dの地図が3Dヘ変わっていき、構造や建築物が視覚的にわかりやすくどんどん改変されていく。
おぉ……すげぇ。凄すぎるだろこいつ。
『ハイ、終わったよ。マップの3D化完了。あとはアップロードした画像をこの3Dマップに置き換えてちょちょっとアレンジ施して現実世界にエミュレートするだけで即席立体ARマップの完成』
『何言ってるのかよくわかんねーけど、マップが見やすいのに変わったんだな。どうすりゃ良いんだ?』
『シークレットチャットを切り上げれば良いんだよ』
俺はチャットを切り上げ、左手に目をやるとあの見づらかった地図が完全に3D立体映像になっていた。
あといつの間にか彼が俺のとなりに移動していた。
「うおおおお! ぱねぇ! 超見やすくなってる! おまけに3人称やクォータービューみたいに視点を全方位変えれる様になってやがる! かっけー!」
浮き上がった3D部分を指でスワイプすると視点がグリグリ追従し拡大・収縮・回転を思うがまま行うことができる様だ。
「どうだい? だいぶ雑だけど中々のもんだろう?」
いつの間にか彼は俺の隣へ来ていた。
「お前天才か!」
「そうだよ! 自分で言うのもなんだけど僕は天才プログラマーだよ! 伊達にインド人と日本人のハーフやってないよ! ゼロを発見した民族と日の本の融合だぞ!」
半透明のつまみの様なポインタを右に引くと色々なタブが出てきた。
「おほーっ! ルート検索やポインタ機能まで付いてるー! おっぱい星人スゲー!」
「ハイ、僕の渾身アピールを華麗にスルー。おまけに変な俗称を付けられた。言っとくけどNASAの職員の3割はインド系アメリカ人なんだ! これ豆知識!」
「お前インド人の血が入ってたから褐色肌なのか。カレーは手掴みでパクつくの?」
「ちゃんとスプーンで食べるよ! 当たり前だろ!」
「ナンってどうなん?」
「いや、知らないし! あとマジくだらないよそれ!」
よく見ると青く点滅しているポインタを発見した。恐らくこれが俺たちの現在位置だろう。
「えっと……ここから先の道を行って分かれ道を右だな! よしイクゾー!」
「ハイ、もうね完全に無視ー」
「あぁ、そういえばロボットのアームを道具屋で受け取ったんだけど、3秒毎に赤く点滅してんだよな」
「赤い点滅? それってあれじゃないの?」
「だよなー。やっぱあれだよな」
「どうする気なんだいそれ?」
「んーとりま武器屋行ってから考えるわ」
俺たちはアルジャ・岩本が作ってくれた地図を片手に今度こそ武器屋へと向かって歩き出した。
デモンエクスマキナ皆もやろう!(同調圧力)




