第120話 俺、到着する
バスを動かし白銀のダートを進む。雪の降る量と風が前に進むにつれ激しくなっていく。
「前見づらいね。人轢いたりしないでおくれよ」
「大丈夫だ。何か飛び出してきたりしたら白鷹が事前にナビゲートしてくれる」
「前方60メートル先にアイスゴブリンの軍勢」
「な、こんな感じ。ウエポンアライズ。射程内に入ったら処理しろ」
『おまかせ下さい。武装はどうなさいますか?』
「ゴブリンがカチカチでいらっしゃる。ヒートマシンガンで温めてさしあげろ。トリガーはお前に任せる」
左手をハンドルから離し左足でクラッチを踏み、開いた左手でギアを上げすぐにハンドルを持ち、アクセルを踏み込む。
外はブリザードで前が全く見えず通常なら運行停止が道理だが、俺には関係ない。
「ベクタースキャンモード」
バックミラーに写る陽炎のバイザー内のオレンジ色に光るモノアイが消え去り、黒いバイザーへと切り替わる。
画面全体が黒くなり風景は線のみで描写される。
道筋が白い線と赤い小さな三角のオブジェクトが6つばかり描写された。
どんどんと赤く点滅している三角形との距離が近くなっていき射程距離に入った為、バスに搭載された機銃が掃射され6つのオブジェクトはバラバラに砕け散る。
「ビューティホゥ……」
『とんでもございません』
「ベクタースキャンモードの簡略化を利用して吹雪で起こった見づらさをかき消す訳かぁ。賢いねぇ」
「だるるぉ? こいつは表示される全てが線で表現されるからわかりづらい事この上ないけど、こういう時は良いよな」
「そうだねー。やっぱりモダンっていいよなぁ。ん~エモい」
「おっそうだな」
ギアをトップからオーバートップにし車体が軽く振動した瞬間、ビタビタビタという粘着質な液体の落下音が後方から聞こえた。
「ちょ! 向かいの席のエルちゃんがリバースしたんすけど!?」
『あぁ! 私の体がああああ!』
「掃除してあげて! エルは三半規管弱い子だから!」
「あたしがやるンすか!?」
「俺は今運転中なの!」
「どうすりゃいいンすか!?」
「掃除機能で綺麗にすりゃいいんだよ!」
「あ、なるほど。よーしクリーン!」
バックミラーを覗くとリンが床に手を翳しエルが放った吐瀉物と彼女のローブに付いた液状のゲロは綺麗サッパリ跡形もなくなった。
「はー、ビビったスよ〜。口の中に何貯めてるのかと思った瞬間口から盛大にナイアガラフォールなんすもん」
「ありがと……」
『ゲイン様! シミになったらどうしたらよろしいのでしょうか!? 臭いが付いたら私ストレスで頭おかしくなってしまいます!』
曲がりなりにもロボットのお前がストレスを抱くのか……。そういえばこいつ潔癖症だったな。すっかり忘れてた。
「大丈夫だ! クリーンは汚れに関してはある意味最強の魔法みたいなもんだから。臭い汚れもこれ1回でスッキリ爽快だから」
『そ、そうですか。それを聞いて安心しました』
そうした軽いトラブルはあったがその他は特に何事もなくバスは進む。
しばらく道なりにバスを走らせ、いつの間にかブリザードの勢いはだいぶ収まり視界もそれほど見づらいものではなくなったと判断。画面上のビュワーを自分で切り替える為ハンドルから右手を離し後頭部に幾本も生えている髪の毛の様なものをまさぐりその中にある出っ張りを押すと黒の画面と線のみで表現されていた画面は一瞬で元に戻る。
『ゲイン様30キロ程先に巨大な熱源を感知しました』
「なんだ新手のモンスターか?」
「お師匠様! それが目的地です! 間違いありません!」
「おっじゃあもうちょいで着くな」
アクセルを思いっきり踏み込み、速度を上げ道なりにしばらく走ら気付いたときには、あれ程荒れ狂っていた雪が全くなくなっていた。白銀に染まっていたダート状の地面も今は土が普通に露出している。
そんな中俺の眼前に飛び込んで来た光景に俺はブレーキを踏む。
やがてバスの動きが止まりギアをパーキングにしサイドブレーキのバーを降ろす。空気が取り込まれる音が聞こえると共に運転席の窓近くに設置されたレバーを入れ、プーという機械音がバス中に響くとドアが一斉に開いた。
「着いたぞ。皆降りろ」
一番にバスを降りた俺の目の前に飛び込んできたもの、それは至る所ところから蒸気が吹き出し膨大な数の管に侵食された、異様な雰囲気を醸し出す超巨大な建築物だった。




