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身の危険を感じ、私は身構える。
「いいから、こっちにこいよ! まとめて遊んでやるから!!」
男からグッと手首をつかまれた時、私は手に意識を集中する。
今こそ、学んだことを生かす時よ!
熱くなる手のひらが輝きだし、光が集まる。そしてあっという間に、小さな光の球が出来上がる。
「これでも食らえ!!」
私は男たちに向かい、光の球を投げつけた。
「わぁぁぁあ!!」
一人の男の肩に当たり、光の球は大きく弾け飛んだ。光を直視した男たちは、まぶしさで目をやられたのだろう。地面に崩れ落ち、顔に手をあててうめいている。
彼らには強烈な目くらましになったはずだ。
「今のうちよ! 急いで!」
口に手を当て目を大きく見開き、ただその様子を眺めていた少女。戸惑っているのかもしれない。
少女の手を取り、ギュッと握りしめる。ハッとした表情で我に返った彼女を、急いでその場から連れ出した。
「はぁ、はぁ、ここまで来れば、もう大丈夫かしら」
店が立ち並び、人が多い場所まで走ってきた。人目があることにホッとして足を止めた。肩で息をしながら少女の顔を見ると、戸惑いの色が浮かんでいた。
あっ、いけない。ちょっと強引すぎたかしら。
「ごめんなさいね、おせっかいかと思ったのだけど、ほおっておけなくて」
少女はハッとして顔を上げ、首を大きく横に振る。
「……あ、ありがとう」
瞳をきらきらと輝かせている様子を見ると、迷惑ではなかったようで良かった。
「……すごい」
ホッとして胸をなでおろすと、ぽつりと声が聞こえた。
「あれは精霊の加護、しかも光属性だよね?」
「ええ、そうだけど」
「やっぱり! 初めて光の精霊の加護を見た!」
少女は若干興奮しているのか、前のめりになった。
実は実践で使うのは初めてだったとは、言えやしない雰囲気だ。だが、私も必死だったのだ。
あの地面に転がっていた男たちは無事だったのだろうか。少し心配になるが、そう力を込めたつもりはないので、深手は追わないはずだ。これで嫌がる女性を力づくで、なんて懲りて欲しい。
精霊の加護も今後は、もっとコントロールできるようになりたいな。
私も、まだまだ勉強しないとな――。
「ねえ、君はどこから来たの?」
少女はどう見ても一般庶民には見えない。着ている服装からいって貴族だろう。
「誰かとはぐれてしまったの?」
周囲をキョロキョロと見まわし、それらしい人を探すが、無理だった。これだけ人が多ければ、わからない。
少女は口の端を上げて、にっこりと微笑んだ。
うわぁ、天使の微笑みだわ。
私より少しだけ背の低い、彼女の青い瞳に吸い込まれそうだ。
でも、どこかで見たことがあるような気がする。だけど、こんなに綺麗な子だったら、会ったら絶対に忘れないだろうから、気のせいか。
「もう、大丈夫かしら?」
彼女を残して行くことに気が引けるが、仕方ない。ここでお別れだ。彼女はハッとして両手を組むと、コクコクとうなずいた。
「じゃあ、私はもう行くから、気をつけてね。あまり人気のない場所に近寄らないでね」
手をふって別れようとしたその時、腕をガシッとつかまれた。
想像以上に強い力だったので、よろめいてしまう。私の腰を支えながら、彼女は耳元でささやいた。
「もっと話したい」
え、そう言われても、立ち話もなんだし、シアナも帰りを待っている。
「ごめんね、もう帰らないといけないの」
一瞬にして女の子の表情が曇ったが、すぐに顔をパッと上げた。
「――また会える?」
えっ……。
彼女が私の目をジッと見つめる。真剣な表情で私の返答を待っている様子にたじろいでしまった。
「ちゃんとお礼がしたいし。私の名前は――」
改めて背筋を正し、胸元に手を当て、口を開いた少女。
その洗礼された一連の動作を食い入るように見つめる。なぜか目が離せなかった。
「いた! いらっしゃった!!」
その時、背後から男の焦った声が聞こえ、振り返る。
バタバタと人が集まる足音が聞こえる。そこには騎士の姿をした男三人が必死の形相で駆けつけてきた。
だが騎士の姿を視界に入れた少女は顔をゆがめた。そして小さく――チッと聞こえた。
え、今の舌打ち? まさかね。こんな可憐な少女に限って、それはない。空耳、空耳。
気を取り直して、彼女と向き合おうとした私に、騎士の野太い声が響く。
「無事に見つかって良かったです!! 心配しました、もう勝手に抜け出さないで下さい、エディア様!!」
……えっ……。
聞こえてきた名前に思考が停止する。
う そ で し ょ う
信じられない思いで、時計仕掛けの人形のようにギギギと少女の顔を見つめた。
金髪碧眼、白い肌に大きな瞳の美少女……。
エディアルドだぁぁぁぁぁぁぁ!!!!
『エディア』は彼が女性の姿で名乗っていた名前だ。
どうして忘れていたんだろう、こんな大事なこと!! 小説でも美少女の描写だったじゃない!




