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妹を監禁するはずの悪役から、なぜか執着されています  作者: 夏目みや
第四章 対決

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「あの女の苦痛にゆがむ顔を踏みつけた時は、なかなかの快感だったわ。命乞いをするでもなく、最後までにらんでいたが、それがなんになろう。あの女は私に負けた、ただそれだけのこと」


 口に手を当てコロコロと笑う王妃だが、嫉妬に狂い、正気ではないように見えた。


「あの女そっくりに成長し、あの顔を見ているだけで、昔の苦々しい思いよみがえる。この感情が消えることはない」


 王妃は手をわなわなと震わせた。


「王妃である私を差し置き、寵愛を受けるなど、許せるものか」


 怒りで見えなくなっているのだろう。王妃は顔をゆがめた。


「――いいことを思いついた」


 ゆっくりと顔を私に向け、にんまりと微笑む。


「精霊の加護を奪ったあと、リゼット嬢をどうしましょうか。失ったと知った時の、あの私生児の顔が見てみたい。絶望を彩る顔もまた、母親そっくりかもしれないわ」


 扇を広げ、仰ぎながら高笑いをする王妃は悪女を通り越し、悪魔に思えた。


 逃げないと危険だと本能が警告している。

 ゴクリと息を飲み、背後を確認する。ここにはいられない。

 震える足をなんとか立たせ、一目散に走りだした。


「――逃がすものか」


 その時、王妃から黒い影が出没し、私の足をつかんだ。


「あっ……!」


 走りだそうとしたところを勢いよくつかまれたので、反動で尻もちをついた。

 口の端をゆがめ、意地悪く笑う王妃は、扇をパンッと閉じた。


「さあ、お遊びはここでおしまい。恨むなら、あの私生児を恨むといいわ。生まれてきたことが罪なのだから。大人しく日陰で一生を過ごしていたら、このような目に合うこともなかっただろうに」


 王妃の勝手な言い分に、悔しくて涙がこぼれた。


「――じゃない」


 唇をギリリと噛み、勢いよく顔を上げた。


「エディアルドが生まれてきたことは、罪なんかじゃない!!」


 国王はエディアルドの母、イザベラーナ様を寵愛し、その結果、生まれたのがエディアルドだ。

 権力争いに巻き込まれることを防ごうと、カーライル公爵により、隠された存在だったエディアルド。


 だが、日の当たる道を歩きたいと、自らの意志で表に出てきた。


 彼の生き方を尊重するも、生まれたことが罪の命なんてない。カーライル公爵から見ても、彼は最愛の娘の忘れ形見だ。エディアルドの母が亡くなった時は憔悴のあまり、跡を追ってしまうんじゃないかと周囲は心配し、片時も目を離せなかったと聞く。


 カーライル公爵が自分の命よりも大事に思い、育ててきたエディアルドを、侮辱するのは許せない。


「彼を侮辱しないでください!」

「黙りなさい、生意気な」


 王妃はよほど頭にきたのだろう、手にしていた扇を私めがけて投げつけた。

 私の頬にぶつかり、地面に落ちる。


「私をバカにするのもいい加減にしなさい。リゼット、あなたは生きたまま、隣国の娼館へと売り飛ばしてやるとしましょう」


 王妃が立ち上がり、私を見下ろす。


「そこで生き地獄を味わうといいわ。あの私生児の精神にダメージを与えるため、私の役に立ちなさい」


 手の平には真っ黒な闇の塊を手にしている。


「さあ、光の精霊の加護を、差し出しなさい。さもなくば、この闇を口から入れる。闇は体内を蝕み、永遠とも思える苦しみを与えるわ」


 真っ赤な長い爪を伸ばし、私の腕をつかんだ。


 嫌、離して――!!


 全身で拒否を示した時、周囲をまばゆい光が包んだ。


 その時、両手を広げ、私の前に立ちはだかる人物がいた。守られていると感じる。


 夢かもしれないと思ったのは、姿が透けていたからだ。

 長い金の髪を持つ、その女性はゆっくりと振り返り、私に微笑んだ。


 青い瞳が印象的なその美しい姿は――。

 私に光の精霊の加護を授けた、あの時の女性だとすぐにわかった。


「なにをしたの!? ここは私の結界に守られていて、私以外力を使えないはず……!!」


 まぶしい光を真正面からくらった王妃は両目を手で覆う。

 まるで私を守るように目の前に立つ女性が見えていないの?


 今なら、いけるかもしれない……!


 確信に似た思いで、私は頭の中でエディアルドを浮かべる。


 会いたいよ、お願いだから、助けに来て……!!


「エディアルド」


 名前を口にして、祈りを込めて指輪に口づけた瞬間、部屋中に衝撃が響き渡る。

 気づいたら私は抱きしめられていた。


「遅い!!」


 私の腰に腕を回し、見下ろしながら叫んだエディアルドは険しい表情を見せた。


 ああ、エディアルドだ、本人だ。


 姿を見た瞬間、安堵して涙が流れ、そのまま止まらなくなった。


 エディアルドは指を滑らせた頬に、静かに口づけを落とした。その仕草が優しく感じられて、ますます涙が止まらなくなる。


「貴様、どうして現れた!? ここには結界が張ってあるはず」


 焦ってエディアルドを指さす王妃に、エディアルドは気だるげに首を傾げる。


「ああ、居場所を探すのに少し手間取ったが、見つけてしまえばなんの問題もない。俺の方が力が上だから。あんたも感じるだろう?」


 指をパチンと鳴らすと、周囲の空気が変わった。敵意を感じる邪悪な気が消え去ったのだ。

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