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妹を監禁するはずの悪役から、なぜか執着されています  作者: 夏目みや
第三章 再会

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「すまなかったとは思う。だが、決してあきらめない。それだけは無理なんだ」


 熱い眼差しを向けられて、心臓がどくりと跳ねた。

 彼はどうしてここまで私に執着するのだろうと、不思議に思う。


「でも、アリッサとも仲良くしていたじゃない」

「アリッサ?」


 エディアルドは不思議そうに首を傾げた。


「最近、舞踏会で側にいるじゃない」

「ああ、そういえばいたな」


 エディアルドは肩をすくめた。


「俺が黙っているのをいいことに、最近では腕を絡めてきたり、腕をとって胸を押し付けてきたり。俺は他人にベタベタ触られるのは好きではない。むしろ不快だ」


 エディアルドはスッと冷めた眼差しを見せる。


「俺の側をうろちょろして、リゼットの姿は見えなくなるし、つい言ってしまった」

「な、なんて……?」

「触るなと一言、告げただけだ」


 エディアルドの様子が想像つく。冷たい眼差しをアリッサに向けたのだろう。

 それに皆の前で言われてアリッサはさぞ屈辱だったはず。

 

「父であるマートン伯爵が飛び出てきて、娘の不敬を謝罪してきた。そのまま娘を連れて行ったから、もう近づいてはこないだろう」

「そ、そうなのね」


 顔を引きつらせる私にエディアルドはそっと手を伸ばす。


「俺に触れていいのはリゼットだけだから」


 温かな指先と微笑みに心臓が跳ねた。

 好意を向けられて嫌かと聞かれたら、嫌じゃない。ただ、戸惑ってしまうのだ。


 この年齢まで恋愛経験はゼロできたのだから――。


 いや、待ってよ。


 よく考えたら、その機会を阻止してきたのは、目の前にいるこの人なんだよな。

 初めての恋愛が、いきなりの狂執着とくれば、ちょっと引いてしまうのも無理はないでしょう。


「で、帰りはどうすればいいのかしら?」


 私は正座をし、改めてたずねた。精霊の加護の力でグリフ家まで送ってくれるのかしら。

 エディアルドは顎に指をあて、真面目な顔を見せた。


「考えていなかった」


 くっ、この……!! まさかとは思ったが、本当にそうか。


「一緒に寝よう、リゼット」


 腕をつかまれ、胸に抱き寄せられる。


「寝るわけないでしょう! ちょっとは考えなさいよ!!」


 顔を真っ赤にして抗議するが、エディアルドの拘束は緩まない。


「いいだろう。昔はいく晩も共に過ごした仲じゃないか」

「だからその言い方!」


 真っ赤になって叫ぶ私をエディアルドは腕に包み込んだ。


「だいたいあなた、他人にベタベタ触れられるのは嫌いだって言ってたじゃない!」

「リゼットは他人じゃないだろう」

「じゃあ、なによ」

「俺の愛しい人」


 ふっと嬉しそうに微笑むものだから、もうそこで言葉に詰まってしまう。


「眠れ、リゼット。疲れただろう」


 私の頬に指先でそっと触れる。涙のあとを優しく確かめているようにも思えた。

 彼の腕にくるまっていると、温かい。心地よいと思ってしまう。


「今日は俺もすまなかった」


 ぽつりとつぶやく声は深く反省しているように聞こえた。


「ジェラールと一緒にいるのを見て、頭に血が上った。大人げない態度だった」


 強く抱きしめられ、彼の顔を確認できない。


 帰らないといけないのに……。でも、温かな体温は心地よすぎて夢の世界へと誘う。


 もう少しだけ――。


 そう思いつつ、静かに目を閉じた。


 ***


「おはようございます」


 ん……。もう朝なの。


 パチッと目を開けると、たくましい胸が視界に入り、驚いて跳ね起きた。ベッドの上で上半身を起こすと、一人のメイドが目を丸くして、こちらを見ていた。


「し、失礼いたしました!!」

「ちょっ、待って!!」


 絶対、よくない勘違いをされた。第三王子が寝室に女性を連れ込んでいたとか、噂になっては困る!!


 どうしよう、どうしよう。


 頭を抱えていると、エディアルドが目を覚ます。


「もう少し、寝ていよう」


 グイッと私の首に手をかけ、体を倒した。


「ちょっと、起きて! 帰らないと、家族に心配かけるわ」


 部屋で寝ていたはずの娘がいないなんて、驚くに決まっている。


「大丈夫だ、朝に伝令が届くよう、加護を飛ばした」


 なんでもありだな、精霊の加護。

 エディアルドみたいに使いこなせば、不可能なんてないように思えた。


 だが、これで私が行方不明だと心配させないですむと、胸をなでおろす。エディアルドは上機嫌に微笑んでいるが、嫌な予感がした。


「ねえ、まさか――」

「ああ。俺のもとに泊まると書いた」


 ちょっ、なに馬鹿正直に書いているんだ~~!


 エディアルドの首をひっぱり、締めたくなった。

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