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妹を監禁するはずの悪役から、なぜか執着されています  作者: 夏目みや
第二章 監禁生活

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20

「ああ、楽しいな。単にお散歩が、リゼットと一緒ならこんなに楽しいなんて」


 エディアルドははしゃいだ声を出す。


「こっち、薬草園も案内してあげる」


 エディアルドに手を引かれ、たどり着いた先は薬草が植えられた温室だった。


「すごい、たくさんあるのね」


 中には貴重な薬草まであって、びっくりする。この薬草、シアナの病に効くかしら? きょろきょろと周囲を見回しているとエディアルドが口を開く。


「そんなに薬草に興味ある?」

「ええ、咳が出る病に効く薬草はないかしら」

「咳って……妹のため?」


 エディアルドは私の家族のことまで調べあげているのだろう。なら、隠しても仕方がない。


「そうよ。療養のために別荘に来たの」

「……ふうん」


 どこか面白くなさそうな声を出すエディアルドは、肩をすくめた。


「妹がいなければ、リゼットはここにずっといてくれる?」


 突然の発言にギョッとして顔を見つめる。エディアルドは自分の発言を特に気にした様子はない。


「そんなこと言わないで!」


 自分で思ったより、大きな声が出た。


「妹がいなければとか、例え話でも悲しくなるわ。あなただって、自分の大切な人がそう言われたら、悲しいでしょ?」


 エディアルドはうつむき、じっと考え込んでいる。


「妹がいないから、よくわからないけど……。リゼットが妹を大事にしているのだけは、わかった」


 少しでも気持ちが伝わってくれたらと、願わずにいられなかった。


 そして夜になり、ベッドの上でエディアルドと話しているとノックがした。

 開いた扉の隙間から顔を出したのはジェラールだった。


「リゼット嬢、寝室を準備したので、こちらへ」


 案内しようとするジェラールの前に、エディアルドが立ちはだかる。


「なにやってんの? そんな準備なんて、しなくていいから! リゼットは一緒に寝るから」


 エディアルドの勢いにジェラールは面食らった。


「正気か!? そんなことが許されるわけないだろう!? 昨夜は同じ部屋で眠ったと聞いて、信じられなかったよ!」

「いいから、ジェラールはあっちに行ってて!!」


 扉の脇で二人はギャーギャーとわめき始めた。私は一人、ベッドの上にポツンと取り残されている。


 一歩も引かない二人、どこで口を挟むべきかわからず、膝を抱え、傍観していた。


「ふうん、ジェラール、お前、うらやましいんだろう? だが、残念だったな、俺がリゼットと寝るんだ」


 ん……?


 前からちょいちょい引っかかっていたが、エディアルドは結構口が悪い。その上、自分のことを「俺」と呼んだのは、びっくりした。


 そこらへんの女性よりもずっと可愛らしいのに、俺だなんてイメージが……。

 ジェラールも興奮しているのか、気にした様子でもない。つまり、この呼び方が二人の間では普通なのかも。


 女性として暮らすエディアルド。

 薬で成長を抑えていると小説の描写ではあったが、もしかして心は男性なの……?


 ううん、まさかね。

 見た目はどこから見ても女の子だし、はしゃぐ姿も可愛らしいし、今のところ女性として接している。

 これで中身は男性とか言われたら、困惑するだけだ。ここは、最後まで知らないふりを決め、エディアルドとは女同士の友情を築きたい。


 やがてジェラールは肩を落とし、深いため息をつく。エディアルドは腕を組み、唇をかみしめている。


「エディア、君が理解するまで何度でも言う。客人と同じ部屋で寝るべきではない」


 ジェラールが静かに言い聞かせるよう、淡々と口にする。


「――リゼットはどう思っているの?」


 むくれるエディアルドから急に矛先を向けられ、返答に困る。


「えっ……私は……」


 ちゃんと言い聞かせてくれと、ジェラールの視線から感じる圧。へそを曲げつつある、エディアルド。


 ならここは――。


「私、寝相が悪いじゃない? だから別々の方がいいわ。また蹴っちゃうと悪いし!」


 納得がいかない顔をしているエディアルドの横で、ジェラールはあきらかに胸をなでおろした。


「リゼット嬢、案内します。ついて来てください」


 へそを曲げているエディアルドをお構いなしに、ジェラールは背を向けた。エディアルドをそのままにするのも気が引けるが、実はジェラールと話がしたかったので、ちょうどいい。


 ジェラールは廊下を進むと、一室の前で立ち止まる。


「こちらになります」

「あの――私はいつ頃、帰れるのでしょうか?」


 エディアルドが飽きるまでと言っていたが、いつになるのだろう。


「……思いのほか、エディアはあなたに執着している。ですが、エディアには気を付けて」

「えっ……」


 どういう風に気をつければいいの!?

 ジェラールは力なく、首を横に振る。


「エディアの機嫌の良い時に説得してみるので、待ってて欲しい」


 まったく頼りにならないけど、彼しか頼ることができないこの状況、辛い。


 そしてジェラールに別れを告げ、案内された部屋に入る。客室なのだろう、この部屋も目がくらみそうなぐらい豪華だった。


 私がいなくなって二日目の夜になるけど、シアナ……元気にしているかしら。咳と発作は出ていないかな。ちゃんと薬を飲んでいるかしら。


 一人になると考えるのはシアナのこと。やはり心配で気になってしまう。


 ――明日には帰れるだろうか。


 横になるベッドが広すぎて、心細さを感じる。不安な気持ちを隠そうと、目をギュッと閉じた。

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