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妹を監禁するはずの悪役から、なぜか執着されています  作者: 夏目みや
第一章 妹を守ってみせる

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9

 そして迎えた舞踏会当日。


 まったく気乗りしなかったが、ふんわりとしたチュールスカートからのぞく、レースが歩くたびにエレガントな輝きを放つドレスに身を包む。髪はまとめ、パールをたっぷり編み込んだヘッドドレスで飾る。

 自分のことのようにはしゃぐシアナに見送られ、ハモンド家の馬車に乗り込んだ。

 

 ハモンド家の別荘は丘の上にあった。ここら辺一体、貴族たちの別荘が立ち並ぶが、その中でも一番大きな建物だった。華やかな光が外に漏れだし、そこだけ別世界のようだ。


 足取りは重いが、格上のハモンド家、相手の好意を無視しては、いらぬ反感を買うことになる。


 サッと挨拶をして、すぐさま帰宅しよう。理由は体調不良でもいいじゃない。

 私は馬車から降り、意を決してハモンド家へと向かった。


 華やかな人々が集まり、皆が談笑している。

 正直、別荘に来てまで舞踏会なんてしなくていいじゃない。開催するなら王都でやって、別荘ではゆっくりしていなさいよ、と私は勝手に思うけどね。


 リチャードは私の姿を見つけると、すっ飛んできた。


「リゼット様、本日はお越しいただきありがとうございます。ジェラール様のもとへご案内いたします」


 うっ、緊張で喉の奥から胃液がこみあげてくる。


 リチャードが案内する後ろを、緊張しながらついていく。

 やがて人ごみのなかで、目を引く人物が現れた。


 茶色の髪に薄紫の瞳は鋭い知性を感じさせる。長身で細身だが、体つきは筋肉がついていて、鍛えているとわかる。彼に精霊の加護はなく、代わりに剣術が優れている。そして、一般的にすごくかっこいい部類に入るだろう。


 だが、私は騙されない! 彼、ジェラールはエディアルドの手下であり下僕だった。


 優しそうに見えるし、常識人のようだが、カーライル家に仕えているので、エディアルドに逆らうことができない。エディアルドのお守り役でもあり、お世話係だ。


 小説の中で、シアナが軟禁されていることを知りつつ、結局はエディアルドに逆らえず、見ないふりをした薄情者だ。

 ぐぬぬと表情が険しくなったところで、リチャードがジェラールに近づいた。そっと耳打ちをすると、静かにジェラールが顔を上げ、私を視界に入れた。


 ひとたび視線が交わり、鋭い知性に射抜かれたような感覚になった。


「リゼット・グリフです。本日はこのような場にご招待くださり、ありがとうございます」


 内心の緊張を隠し優雅に微笑むと、相手もまたそれに返す。


「よく来てくれた、リゼット嬢。ジェラール・ハモンドだ。先日はエディアが世話になったようだ」

「いえ、当然のことをしたまでですわ」


 頼むから、ここでエディアルド本人を登場させて挨拶とか、言わないでくれよな……!


 冷や汗をかいていると、楽師たちが曲を奏で始めた。

 ジェラールが優雅にスッと手を差し出す。


「一曲お願いできるだろうか、リゼット嬢」

「もちろんですわ、ジェラール様」


 だから目立つことは、したくないんだってば!!


 内心では頭をかきむしりながら、ジェラールに向かって微笑む。彼は私の手を引き、会場の中央へ進む。


 皆が私たちに、いや、主催者であるジェラールに注目しているのだろう。婚約者でもないのに、ファーストダンスの相手だなんて、嫌でも注目を浴びるに決まっている。


 若い女性たちから嫉妬と憧れが入り乱れた視線を浴びながら、踊り始めた。

 そういえば、ジェラールはまだ、婚約していなかったよな。年齢は十九歳だったから、婚約者がいてもおかしくはないが、エディアルドの世話で忙しいからかな。


 なかなか苦労しているのかもしれない。ま、かといって同情はしないけどね。


 ようやく一曲、踊り終えようとした時、ふと強い視線を感じ、顔を上げる。

 フロアには二階があり、そこで会場を見下ろすことができるが、気のせいか……?


 やがて踊り終えると、ジェラールと挨拶をして別れることに。


「今日はありがとうございました」

「いや、こちらこそ。エディアに会って――」

「ああっ、すみません」


 ジェラールの言葉を遮り、額に手を当て、フラフラと倒れ込むような真似をする。


「実は私、体調が良くありません。申し訳ありませんが、今日はこれで失礼いたします」


 心配そうな眼差しを送るジェラールが言葉を挟む隙を与えずに、一気にまくしたてる。


「では、エディア様にもよろしくお伝えください。あと、今後はこういったお気遣いは結構ですから。妹の療養に来ているものですから、しばらくは側についていたいのです」


 これっきりでいいから、今後も社交辞令的に誘うなら、勘弁してくれよな、って意味を込めた。もっとも、伝わっているのかわからないが、言うことは言ったので、さっさとこの場を離れよう。


 ジェラールが声をかけようとすることに気づいたので、先手を打つ。


「――では、失礼いたしますわ」


 カーテンシーを優雅に決め込み、いざ退散と踵を返した。

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