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クラッツォ王国の魔物(2)


「ごく……」

「ん?」

 

 近衛兵たちが生唾を飲み込む音で、顔を上げる。

 私が顔を向けると全員が居心地悪そうな表情で各々視線を彷徨わす。

 そこでふと、町の方を見下ろして気がついた。

 貴族街ですら家の煙突から煙が見えない。

 そうか、厄災魔物が数日居座っていて物流が滞り、兵でさえ食事もままならなくなっていたのか。

 サンドイッチだけ食べてから、残りの食糧もテーブルに取り出す。


「食べるか? 私は居住地に帰ればまだ食べることができるから、お前たちに食べさせても問題ない。城を守る者が空腹で動けなくなっては、本末転倒だろう」

「よ、よろしいのですか……?」

「ああ。その代わり少し話を聞かせてほしい。お前たちは城の警備を担っているのだろう? 国庫の食糧を配給されたりはしなかったのか?」


 私が提案すると目を輝かせ、しかし一応お互いに顔を見合わせてから一人一人テーブルに近づいてくる。

 一人に一つずつ屋台からもらったものを配布して質問してみると、一気に顔を曇らせた。

 そしてポツポツと話してくれた内容によると、王都に厄災魔物が現れてすぐに教会の重役たちが消えて、聖女の結界により王都が籠城状態に陥った結果、伯爵家より上の貴族がこぞって食糧を買い占め始めたという。

 こういう時ばかり危機管理能力を発揮して、我先に――なんなら一部貴族は王家よりも先に――。

 結局三日ほど前に民衆が恐慌状態に陥った。

 理由は貴族街を囲う外壁門は固く閉ざされ平民たちはいつ破れるとも知れない結界だけが頼りとなり、厄災魔物の姿を見ながら食糧もない、いつも偉ぶっている貴族や騎士助けもない状態になる。

 それで混乱するのというのは到底無理な話。

 それはその通りだ。

 民から税を搾り取っているのだから、こんな危機迫ったらいの一番に民を守らねばならないはずだろうに……なんで情けのない……。


「では平民たちも食糧は足りていないのか」

「そ、そうだと思われます」

「結界と厄災魔物で……その……物流も、停止していて……外から運び込まれることも、ないですし……それに……あの……」

「王都の外の、他の町や村の状況も不明なためか」

「は、はい……」


 情報を取ることができず、ますます足踏みしていたという感じか。

 だが王都外の町村も王都を囲む四体の厄災魔物は確認していたはず。

 それを見て助けに行けるとは思えないだろう。

 むしろ、とにかく自分の村や町が標的にならないように守りを固めるはず。

 守りを固めたところで……だが。

 被害状況は、すべての厄災魔物を倒してから。

 聖魔力にはなぜか余裕があるし、近隣に厄災魔物がいるのなら[探索]の魔法で捜し出して潰しまくるか?

 早く帰りたいしな。

 正直、可能ならベルレンス様とはもう会わなくて済むなら会いたくないし。

 よし! そうしよう!


「わかった。では先に外の厄災魔物を捜して見つけ次第倒して――」

「アリアリット・プレディター! 貴様! どういうつもりだ!」

「へ、陛下! お待ちください! 陛下……!」


 立ち上がった途端、城の方から今はもう声も思い出せなくなっていた陛下の絶叫のような声が聞こえてきた。

 あー、そうだ、こんな声の人だった。

 ちらりと声の方を見ると顔を真っ赤にして歯茎まで丸出しのベルレンス様が肩を震わせて立っていた。

 なんかこう、こんな小さな人だった、か?

 なんだか、奇妙な印象を抱く。

 セッカ先生と比べて、とてもとても幼く小さな人に見えるのだ。

 どう見ても私よりずっと大柄なベルレンス様と、車椅子で立った姿を見たこともないセッカ先生なら……セッカ先生の方が多分小さなはずなのに。

 私でさえ、セッカ先生を見上げたことなどないのに。

 いつも私を見上げてくるあの人は、目の前のベルレンス様に比べてとても安心感があって……。


「聞いているのか!」

「え? ああ、すみません。あまり聞いていませんでした」


 ズカズカと大股で近づいてきたベルレンス様が、私の胸ぐらを掴む。

 すごいな、この人。

 よく私の胸ぐら掴めたな。


「陛下! おやめください! アリアリット様に助けてくださいと乞いたのはわたくしです!」

「っ……!」

「わたくし一人ではこの災いを鎮めることが叶わなく、偶然情報共有のために念話を繋いでくださったアリアリット様に懇願したのです……! アリアリット様、わたくしのお願いを聞き入れ、助けに来てくださったのですね……! あ、ありがとうございます……ありがとうございます!」


 私とベルレンス様との間に入り込み、私の手を掴んで感謝してくれる聖女ティシュリア。

 私を切って新たに婚約者に据えた聖女がこんなことを言うのだ。

 ベルレンス様の顔はますます赤く染まっていた。


「ティシュリア殿、体調はどうなのだ?」

「は、はい。紋章のおかげでなんとか……。アリアリット様に教わった聖杖を生成できたおかげで、だいぶ楽に結界を維持することができるようになりましたけれど……わたくしでは、やはり倒すには至りません。ですから、アリアリット様が助けに来てくださって、本当に助かりましたわ」

「それならばよかった。私は今から他の六体も捜し出して倒してこようと思う。今朝、永久凍国土(ブリザード)の封印核へ聖魔力を注いできたが早く帰って封印を安定させたい。永久凍国土(ブリザード)の封印核は、大陸の封印核を護るものだからな」

「はい。わかっております。お呼び立てして本当に申し訳ございません」


 本当に申し訳なさそうに繰り返し頭を下げるティシュリア殿。

 それは本当に気にしないでほしい、と伝えるがまだ申し訳がなさそうだ。



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