97、王国一武闘会とは

王国一武闘会、その歴史を遡れば建国当時に行き着く。

勇者ムラサキ・イチローが魔王を倒し、とある国の姫と結婚する頃。戦乱の世ではあったが魔王を相手に各国が一丸となって戦ったこともあり、平和が訪れつつあった。

その流れで、また大昔の統一王朝のようにまとまって強い国を作ろうとする動きが芽生えたのだ。

もちろん中心となるのは勇者ムラサキだ。各国の王達は魔王の猛威を実感したため誰も自分こそが大陸唯一の王であるなどと思えなくなってしまったためだ。

そこで、各国の親睦と勇者ムラサキの実力をさらに全土に知らしめるため武闘大会を開くことになった。実際には魔王を倒した勇者の胸を借りてみたいというミーハー根性も多分に含まれていた。

よって、大会と銘打ちつつもトーナメント形式ではなく勇者ムラサキの勝ち抜き戦である。

間に休憩を挟みつつ参加者七十名を見事一人で勝ち抜いた勇者ムラサキ。

別会場では勇者の仲間達四人が交代で同じようなことをしていた。こちらは最早勝ち抜き戦ですらなく、魔法の講習会と化していた。

こうして新王国建国に向けて大陸全土が一丸となった。

なお、ローランドとは記憶を無くした若き日の勇者ムラサキを親身に支えた心優しい老夫妻の家名である。

それ以来、建国の志を忘れないよう五年に一度大会を開き優勝者を勇者として讃えることが恒例となったのだ。

名誉を重んじる格式ある大会であるため、単に賞金だけが目当てのカスはまず参加しないだろう。

賞金は平民から見れば大金だが、一流の冒険者や商人・貴族からすれば少ない。だが優勝者は国王から直々に言葉を賜るだけでなく、望みを叶えてもらえることもある。もちろん勇者に相応しい戦いを見せた者に限るのだが。

当然、近衛騎士としてのエリート街道に乗りたいと考える者も少なくない。

ちなみに大陸全土とは言っても当時の国土はムリーマ山脈以南のみである。

それより北は魔境として扱われていた。

ムリーマ山脈以北であるフランティアを開拓し、初代辺境伯となった男の功績の大きさは言うまでもないだろう。