79、カースと兄
すっかり秋になった本日、珍しく私とオディ兄の帰宅時間が同じだった。
夜間はいないことが多く、まだ子供なのにちょくちょく泊まりで冒険者をやっているオディ兄がこんなにタフな男だったとは。ちなみに全然汚れてない。
「オディ兄おかえり。調子はどう? 武勇伝を聞かせてよ。」
「ははは、ただいま。武勇伝なんてあるわけないさ。地道にコツコツとやってるよ。」
「どこまで行けるようになったの?」
「まだまだグリードグラス草原にすら行けてないよ。当たり前だろ? そこら辺の雑魚を狩ったり、足を伸ばして西の山まで行ったりなぐらいのものさ。
それでも一年目の新人にしてはよくやってる方らしいよ。」
「さすがオディ兄! すごいんだね! いいなー僕も行ってみたいよ。
そうそう、エロー校長って遥か北の山岳地帯まで行ったことあるんだって! すごいよね!」
「ええー!? すごいね! フェルナンド先生だってノワールフォレストの森から北は行かないって言ってたよね?
すごいなー! 世界は広いよね。」
「おやおや? オディ兄って金貨百枚貯めるために冒険者やってると思ったら、すっかり染まってしまってんじゃない? もう一端の冒険者だね。」
「あはは、運良く今日まで無難に生きてこれたからね。少しは楽しくなってきてるんだよ。」
油断大敵だよ、と言いたかったが私が言うまでもないだろう。
「ちなみにパーティーのリーダーってオディ兄なの?」
「いやいや。いつか話したベレンガリアちゃんがリーダーなんだよ。
あの子って上級貴族なのに変わり者なんだよ。そもそも僕が冒険者を選択肢に考えたのは彼女が原因でもあるね。」
「えー!? 上級貴族なのに!? よくなれたね? もしかして勘当されたとか?」
「ほぼ正解。彼女は学校を卒業後、王都の貴族学校へ行くよう言われてたらしいんだ。その時点で王都の貴族子弟との婚約もほぼ決まっていたとか。それが彼女には耐えられなかったらしいよ。
その手の婚約って上級貴族なら普通だよね。でも彼女は自分で選んだ男性でないと認めないタイプみたいでね。それならこんな家なんか出て行ってやる! 冒険者でも娼婦でも何でもやってやる! とか言って飛び出したって言ってた。」
「うわー、すごいね。じゃあ今どこに住んでるの?」
「ギルド近くの宿だよ。あの辺は冒険者御用達の宿がたくさんあるからね。ちなみに僕らは四人パーティーだけど残り二人も同級生なんだ。平民だけど気が合うんだよね。」
すごい人もいたもんだ。驚異の新人ってとこなんだろうか。
冒険者もやってみたくなってしまったな。オディ兄に洗濯魔法をしっかり習っておこうかな。
ファンタジーでは新人ってイビられそうだけどその辺どうなんだろう?
新人狩りとかないのかな?




