244、アレクサンドリーネの憂鬱 3
夕方。
アレクサンドリーネはムリーマ山脈から領都のギルドに戻ってきていた。純白のコートの隙間からチラリとのぞく足。若い冒険者達は俺が俺がと彼女に群がっていた。
「晩飯行こうよ。俺たちが奢るからさ!」
「たまにはいいだろ?」
「最近いつも一人じゃんか。寂しいんだろ?」
「奢ってくれるの?」
「もちろんさ!」
「どこがいい?」
「俺らと楽しもうぜ!」
「ノーブルーパスがいいわ。クイーンオークを丼で食べたいの。」
「何言ってんだい?」
「そんな店はないよ?」
「それにクイーンオークなんてそうそうないぜ?」
「あるわよ。連れて行ってあげるから支払いはお願いね。四人だと金貨百枚あれば足りるわ。」
「いい加減にしろよ!」
「そんなありもしない店を言って何がしたいんだよ!」
「そんな店より俺らの行きつけの店にしようぜ?」
「ならいいわ。じゃあね。」
「おいおい、一人で寂しいくせに無理すんなよ?」
「そうそう、俺らが慰めてあげるよ?」
「嫌なことは飲んで忘れようぜ?」
無視してギルドを出るアレクサンドリーネ。追いすがる若者達。その様を冷めた目で見る中級冒険者達、中には女性もいる。
「誰かノーブルーパスって店知ってるか?」
「あれじゃね? 貴族街の一角にある看板もない店。お貴族様御用達のよ?」
「かっかっか。あのガキどもはとんだ無知を晒しちまったわけか」
「四人で金貨百枚かい。ねぇ連れてっておくれよぉ」
「無茶言うな。そんな金あるかよ。それに誰の紹介って言うんだよ」
「そんなの適当にダミアン様の紹介とか言っておけばいいのさぁ」
「はっははっ違ぇねぇや」
「ダミアン様と言えば最近おかしいのはボンクラ四男だよな?」
「あー、人が変わったように真面目になったとか?」
「なんだよ、もうボンクラじゃねーのか」
「堅物長男に放浪二男、放蕩三男に真面目四男か。あそこも面白い家だぜ」
「あっ、でもそのダミアン様だけどよ、クタナツでやらかしたらしいぜ?」
「何を?」
「あそこの冒険者どもを片っ端から飲み潰したそうじゃねーか」
「マジか!?」
「すげぇな。いつだよ?」
「二、三年前だとよ? 本当なんだかよ?」
「しかもギルドで女を脱がしたとも聞いたぜ?」
「嘘くせーな」
「まったくだぜ。酒場女か?」
「いや、五等星だとよ?」
「やっぱり嘘じゃねーか!」
「だよな、あそこの女で五等星って『双鞭エロイーズ』か『双拳ゴモリエール』しかいねーぞ?」
「絶対嘘だな。あのクラスの女がおいそれと脱ぐかよ!」
「だよな。放蕩三男どころか辺境伯本人の命令だとしても脱ぐわけねー」
「何よ、あんな色ボケ女! 金になればどこでだって脱ぐわよ!」
「そうよ! いくら五等星だからって所詮冒険者よ! お高く止まってんじゃないわよ!」
「へっ、お前らはいくら払ったら脱ぐんだ?」
「金貨百枚に決まってんでしょ!」
「そうよ! 見たいんなら出してみなさいよ!」
「いや、別にいいわ」
「それよりお高く止まってんのはアレクサンドリーネだろ?」
「へへっ、バカな野郎どもが暴走しなけりゃいいな?」
「まあ関係ねーけどな。なるようになるってもんだろ」
ちなみにギルドの外にまでアレクサンドリーネを追いかけた冒険者達は手を凍らされたために溶かすのに四苦八苦していた。




