170、王国一武闘会 十五歳以下の部 魔法あり部門
いい目覚めだ。昨日の疲れが嘘のようになくなっている。きっと昨夜アレクが全身をしっかりマッサージしてくれたからだろう。その上私が眠るまで膝枕を……自分も出場するのに、なんとありがたいことか。
そして朝食をいただき馬車で会場まで。今日はアレクも参加するので、コーちゃんはシャルロットお姉ちゃんに預けてある。意外とお姉ちゃんにも懐いているようだ。「ピュイピュイ」
さて、到着。今日もたくさん集まっているな。
「じゃあカース、私はあっちみたいだから。お互い頑張りましょうね。」
「うん。できれば決勝で対戦したいよね。じゃあまたお昼ね。」
「二人とも健闘を祈ってるわ。まあカースにはその必要もなさそうだけど。」
「ピュイピュイ!」
コーちゃんも応援してくれている。ちなみにアレクの番号は四百九十六、完全数か……アレクに相応しい数字だ。私は三百四十三か。やはり同じタイミングで受付しても結構違うもんだな。
以前聞いた話だと、十五歳以下の部で参加者がだいたい千人。それが魔法ありとなしの部で半分ずつ分かれると。実際は昨日も今日も千人ずつ参加しているようだ。一気に増えたな。何か理由でもあるのだろうか?
「お、おいあいつ……」
「あの格好は……」
「昨日の準優勝の……」
おや、私のことかな? 今日も昨日と同じサウザンドミヅチの装備だからな。昨日見ていた者なら気付いてもおかしくない。
「ちっ、所詮装備頼みで勝ち抜いただけだろ」
「魔法部門じゃあ通用しないさ」
「しょせん剣術なんて魔法が使えない凡人の護身術に過ぎないからな」
好き勝手言ってるな。お前らフェルナンド先生の剣技を見たら腰を抜かすぞ?
『静粛に! 只今より国王陛下がご入来されます。ご起立、脱帽でお待ちください。』
『ローランド王国国王グレンウッド・クリムゾン・ローランド陛下、ご降臨!』
今日もドラゴンに乗って登場かと思ったら、いきなり特大の落雷が武舞台に落ちて白煙を上げる。煙が晴れるとそこに国王がいた。派手好きなのかな?
私達参加者は慌てて膝をつく。
『楽にしてよい。昨日と同じ登場では芸が無かろうと思ってな。少し趣向を変えてみた。さて、今日は魔法あり部門だ。使えるものなら召喚魔法だろうが何だろうが使って構わん。昨日も言ったが、全力を尽くせ。最後まで諦めるな。お前達の奮闘を期待している。』
簡単な挨拶なのに、やはり会場は拍手喝采だ。カリスマだな。見た目は四十歳過ぎって感じだが、実際は何歳なんだ?
『国王陛下、ありがとうございます。』
『さーあ! 本日も司会進行そして実況を担当いたしますのは私、王都冒険者ギルドの人気ナンバーワン受付嬢、ベリンダ・マッケンロードがお送りいたします!』
『そして解説はこのお二方、まずは一人目、昨日に引き続いて四等星ベルベッタ・ド・アイシャブレ様だぁー!』
『どうもみなさん。ベルベッタ・ド・アイシャブレだ。魔法ありの部は得てして派手になるので楽しみにしている。』
『二人目は! なんと! 魔道貴族アントニウス・ド・ゼマティス様ァァーー! 前回も前々回も出演を断られたのに今回は快諾していただいた理由はなんと! 孫が出るから! そんなのありか王家の魔法指南役! 確かにゼマティス家の方は参加が禁止されておりますので、孫と言えばそんなにたくさんいないはず! 一体誰なんだぁー!』
『アントニウス・ド・ゼマティスである。うちの孫は最強じゃ。孫に全力を出させるよう頑張って欲しい。』
『噂通りの孫バカジジイだぁー! 早く引退してご長男のグレゴリウス様に代わるべきでないのかぁ!?』
おじいちゃんが解説をするのか。いつもは断っていたのね。立場的にそれが普通だろうに……
私とアレクが出るから受けたのか?
『さて、それでは一回戦を行います。番号札一から二十の方は一番武舞台へ。二十一から四十の方は二番武舞台へ……………とお移りください。』
この辺りも昨日と同じだな。
待ち長いからアレクを探そう。
難しいな……
普段、魔法学校の寮にいるアレクは周りより魔力が格段に高い。だから魔力探査でも特定しやすい。しかしこの会場には千人近い人数、そしてアレクより魔力が高い人間がゴロゴロいる。発信の魔法が使えないじゃないか。
「いよぉ〜準優勝ぉ〜」
「何勘違いして魔法部門に参加しちゃってんのよ〜?」
「俺らぁ王都でもちったぁ知れてん傾奇者よぉ」
「オメーみてーなチャラチャラした奴を見てっとよぉプチっと潰したくなるわけよぉ」
「死にたくなけりゃーさっさと帰んな?」
「俺らぁ『龍爆鬼焔党』だぜ?」
「さっさと帰らねぇとオメーぶっ殺して白金貨三枚貰っちまうぜ?」
「貰えるわけねーだろ? こんな奴に賞金なんか付くかよ? どうせハッタリだぜ!」
「そりゃそうだ! ギャーッハッハー!」
ふと思った。何でもアリなら場外乱闘もアリなのではないだろうか?
アリだな。『水鞭』
私の周囲、半径五十メイルぐらいを水の鞭を振り回してぶっ飛ばしてみる。ほとんどの者がボーリングのピンのように吹っ飛ばされる中、避ける者や防ぐ者、反撃してくる者もいた。やはり魔力の高い者は違うな。
それがキッカケとなり、あちこちで乱闘が始まった。様々な魔法が飛び交ってる。初めからこれでよかったんじゃないか? よーし、張り切っちゃうぞ!
そう思っていたら……
武舞台の上だけでなく、私達参加者が暴れている現場全てに雷が落ちてきた。『落雷』にしては範囲が広すぎるから『轟く雷鳴』かな? 威力は抑えてあるようだ。
『静まれ。今この瞬間以降動いた者には特大の落雷を落とす。』
国王だ。落雷なら私は構わないが、機嫌を損ねるのも良くないよな。
『おおーっと文字通り陛下の雷が落ちたぁぁー! 参加者は大丈夫なのかぁ!?』
『威力は抑えておられるようじゃ。問題なかろう。』
『そもそもの発端はあの辺だったか。水の魔法みたいだったが……』
あら、バレてる……失格なんて嫌だぞ……
『本来ならば余が口出しするのは無粋なのだがな。場外乱闘で優勝者が決まってしまっては興醒めであろう? よって今、会場で立っている者を勝ち抜けとして、二回戦を始めよ。よいな?』
『陛下、粋な対処をしていただきましてありがとうございます。さあ、これ以降の場外乱闘、武舞台以外での対戦等は失格といたします! 二回戦に移りますので、抽選をやり直します! 一列に並んでください!』
お咎めなしか。よかった。何でもアリなんだから当然だよな。だいぶ減ったな。残りは百人ぐらいかな?
「カースったら、もう暴れたのね。早いのねぇ。」
「いやー、バカな奴らに絡まれたからさ。ついでに周辺もぶっ飛ばしてみたの。まあ待ち時間が減ってよかったよね。」
アレクはやはり無事だった。当然だよな。
「ところでカースは何番だった? 私は九十七よ。」
「似てるね。七十九だよ。これって隣の番号が対戦するパターンかな?」
『番号札一番から八番の選手は武舞台に集合してください。』
どうやらそのようだ。ならアレクとはまだ対戦しそうにないかな。私の二回戦の相手は八十番の選手ってことだな。もう少し待ち時間があるか。アレクとイチャイチャしながら待ってよう。




