265、撒き餌と雑魚
飛ぶ気満々だったのに外に出たらリゼットの奴ったら「カース様、少し歩きませんか?」と来たもんだ。まあ風呂上がりの夕涼みと考えれば悪くない。涼むにはちょっと寒いぐらいだけど。だから腕を組むぐらい許してやるさ。
「さて。ここなら人目、他人の耳を気にせず話せるな?」
「ありがとうございます。カース様からそう言っていただけるなんて! アレックス様にも話せない秘密のお話、しましょ?」
「それなら帰るぞ?」
「うそですうそです! 冗談ですって! 先ほどだと七等星が三人ほどいたので深い話ができませんでしたので。」
うん。例えばポンコツ護衛のジャンヌがアジャスト商会のスパイだって話は先ほどは言葉にしてない。あの三人がいたからね。
「そうだな。それで護衛の話だけどジャンヌには一度だけ役に立ってもらうって話だったけど、予定はあんの?」
「いえ、今のところないですね。アジャスト商会を追い落とすのに使うつもりだったのですが、すでに抜いてしまいましたので。ですのでどこかでトドメを刺すために使いたいとは思ってます。」
ほぅ。リゼットやるねぇ。ドブに落ちた犬は沈めるってわけか。確かに今のうちにトドメを刺しておかないと盛り返されたりするもんな。何と言ってもあっちの縁者には王国宰相やクタナツ代官だっていることだしね。油断は禁物。
「言ったっけ? 俺の方でもアジャスト商会に仕込んでるって話。」
「ええ、覚えております。手代のリック・バスランですわね。カース様が直々に契約魔法をかけられたと。一度だけ何でも言うことを聞かせられるんでしたわね。ぜひ同じ機会に利用させていただきたいですわ。」
ありだな。偽の情報をジャンヌに掴ませつつ、手代をこっちの意のままに動かす。そしてその一手でアジャスト商会を潰す、か。どうすればいいのかさっぱり想像もつかないな。まぁリゼットに任せとけばいいだろ。
「もちろんいいとも。その時が来たら言ってくれ。で、そっちは後回しにするとして、まずは長男対策をやってしまわないとな。」
「ええ。アジャスト商会とは表面上決裂したようには見えますが、実はまだ完全には切れてない……ということもありますので。今回のドストエフ様の件さえ何とかできれば……私達の勝ちですわ。」
ダミアンが次期辺境伯に確定するってわけか。そうすれば私のところにも白金貨の山がザクザクってわけだな。二千四百枚か……一生どころか七生遊んで暮らせる額だよな。
「まあ、あれだ。油断せずに行こうな。五男の姿が見えないのも怪しいし、贋金の件があったのに完全に失脚してない長男もしぶといし。」
「ええ、そうですわね。いつどこから刺客が襲ってくるか分かりませんもの。特に、こんな道をたった二人で歩いていると……ねぇ?」
その言い方だとまるでリゼットが私を罠にかけるために連れ出したみたいじゃん。
「あ、出た。もしかして歩いたのはこれが狙いか?」
リゼットえげつねぇなぁ。私がいるからって自分を撒き餌に使ったのかよ。こいつも覚悟が決まってる女だよなぁ。
「いずれ来るものなら、なるべく安全な時に来て欲しいじゃないですかぁ。今ここは王国で最も安全な場所ですわ。」
「ゴチャゴチャうるせぇんだよ。死にたくなけりゃあ出すもん出しなぁ?」
「ギャハハぁ! 女ぁズボズボだぁ! 男ぁズタズタだぁ!」
「おーらぁ、さっさと金目のモン出さねぇとコイツがヤベェぞぉあ?」
見たところチンピラが五、六人。刺客なら喋ってないで襲ってこいって話だが。もう剣は抜いてるくせに。
『散弾』
「ごおっ!?」
「ぎゃっ!?」
「おごっ!?」
雑魚を一掃しつつ殺さないのは散弾がベストかな。そして……
『麻痺』
『浮身』
さあ、路地裏に行こうか。ここも十分暗いんだけど、念のためね?
契約魔法による尋問の結果、こいつらはサヌミチアニの冒険者だということが分かった。前金で一人金貨二枚。成功報酬はさらに二枚プラス私達の有り金とリゼットの体。おまけはバレた際の罪の揉み消し。
依頼自体は二週間ほど前に受けたようだが今夜になって決行の連絡が来たってわけね。あと契約魔法をかけたから分かったんだけど、こいつらにはすでに契約魔法がかけてあった。まあ前金払ってんだから当然か。
それより、こんなに動きが早いってことはやっぱリゼットはきっちり監視されてるってことかな。
そこまで用意周到なのにこんな雑魚冒険者どもを寄越したってことは……威力偵察ってやつか?
きっちり監視してたんならリゼットが魔王の屋敷から出てきたことぐらい分かるだろう。そこで男と二人だけだったら相手は誰かぐらい予想がつくはずだ。それでも確信は持てない。だからこいつらを捨て駒にして確かめたってとこじゃない?
だってこいつら例によって依頼人のこと知らないんだもん。顔を隠した優男とか言ってやがったけど。何で顔を隠してんのに優男って分かるんだよ。どんだけ適当なこと言ってやがる。適当なことなのに嘘じゃないってのがこいつら系の頭空っぽなとこだよなぁ。目先の金しか見えてないんだからさぁ。
つーかよく二週間も前の依頼を覚えてやがったよな? こいつら系って前金貰ったら即とんずらしてもおかしくないのに。あぁ、契約魔法がかけてあったもんな。
ちなみに、こいつらは騎士団の詰所に自首させた。自分で歩き自分で全ての罪を白状するようにと。ダミアン夫人のリゼットを狙ったんだから奴隷落ちだろうね。売却代金は魔王カースが後日受け取りに行くから用意しておくようにとの伝言も付けておいた。いつも通り一人金貨十枚ってとこだろうな。
白金貨に比べたら小銭でしかないけど、まあ王都でのコーヒー代ぐらいにはなるかな? ちなみにこいつらの懐と魔力庫からの現金は全員合わせても金貨十枚もなかった。これもやはり貧すれば鈍するってやつなのかねぇ。景気いいんだから真面目に働けば儲かるのに。
「さすがはカース様。お見事でしたわ。撃退から後処理まで、まるで演劇のように淀みなく流れていって。もう私のハートはズッキンドッキンですよ!」
おや、にんじんちゃんも似たようなこと言ってなかったっけ? 領都で流行ってる言い回しなのかな?




