262、リゼットの相談
スティード君達の風呂が意外と長いな。あの三人トークで盛り上がったりしてるんだろうか。
さて、リゼットの相談とは何かな?
「実は最近……兄が帰ってきておりまして……」
「ん? リゼットの兄? 何か問題があるのか?」
リゼットの兄貴……何か聞いた気がするんだよな。いつ聞いたんだっけ?
「その兄が……マイコレイジ商会の会長の座を譲れと……」
「頭イカれてんな。それで、リゼットはどう対応したんだ?」
「もちろん突っぱねましたとも! 金を盗んで逃げたあんなクソ兄なんかに! ここまで大きくしたマイコレイジ商会を渡せるものですか!」
だよな。どこから湧いて出た兄貴か知らんけど。
「そうなると、どこら辺が相談なんだ?」
「あのクソ兄が……父の書き付けを持ってたんです。後継は長男ラルゴに譲ると書かれておりました……」
「ん? 書き付け? それって法的に拘束力とかあるの?」
「いえ。公文書でもあるまいし、もちろんそんなものありません。ありませんけど……そんな兄の後ろ盾にドストエフ様が付いておられて……」
「げっ。」
えげつねぇ……そんなのありかよ。あの長男野郎……ダミアンに負けそうだってんでなりふり構ってられないのか。あいつってアジャスト商会といい仲なんだよな? いや、でもアジャスト商会は……
「ちょっと分からないことだらけなんだけどさ。ドストエフってアジャスト商会を味方に付けてなかったっけ?」
「はい。その通りです。ですがそれはもう過去の話です。ドストエフ様はアレクサンドル家のアルクロード様と接近し贋金に関わりました。それでアジャスト商会が離れてしまったのです。」
あー、なるほどね。アレクサンドル家とアジャーニ家は今や不倶戴天の仇敵だもんなぁ。そりゃアジャーニ系のアジャスト商会としては困るわなぁ。しかも贋金に関わっちまっちゃあ……商人はそっぽ向くわなぁ。
「大事な財布がなくなったもんだから新たな財布が必要になったわけか。」
「そのようです。どこで兄を見つけたのかは知りませんが厄介なことで。で、相談はここからです。そんな兄なんですが、なんとドフトエフ様からお金を借りているというのです。白金貨で千枚……正気な額じゃありませんわ……」
なんだそりゃ……
「ちょっとめちゃくちゃだな。でそれ別に関係なくない? あ……もしかしてだけど、マイコレイジ商会が債務保証してるとかそんな感じ?」
「さすがカース様。その通りですわ。マイコレイジ商会が兄の借金の保証をしてる書類がばっちりと……どう考えても偽造なんですけどね。」
「偽造なのが確定なら無視できないのか?」
「それが……その証拠を出せないのです。その書類、まあ兄の借用書なのですが、そこにばっちりとうちの印が押してありまして……」
「げ……てことは何? 辺境伯とかに訴えても負けるってこと?」
「そうなります……そこで相談しているというわけなんです……うぇえええーーーんカース様ぁぁああ! 助けてくださいよぉおおおお! こんなのあんまりじゃないですかぁあああ! 両親がいなくなって! たった一人の兄は足を引っ張ってばかりで! それでもようやくマイコレイジ商会をここまでにしたのに! それなのにあんまりじゃないですかあああぁぁぁ! こうなったらもう首を縊るか兄とドストエフ様まとめて殺すしかないじゃないですかぁああああーーーーー!」
確かにあんまりだ……リゼットも苦労人だなぁ。
「ちなみダミアンはどうしてるんだ? むしろあいつに先に相談するべきだろ?」
「ダミアン様は今月ずっと工事現場です……いつもなら月に一、二度は帰ってくるんですけど……今月に入ってからはまだ一度も帰ってきてないんです……」
へー。あいつも頑張ってんのね。
「連絡はしたんだよな? 手紙を届けるとか。」
「もちろんです! この件が発覚したのが昨日なもので特急の依頼で手紙を出してあります!」
ふーむ。鳥便でも使ったのかな。まあそれはいいや。
そうなると……どうしたものか。私の浅知恵じゃどうにもならないんだが……
「とりあえずその借金の期限は?」
「今月中です……それを過ぎたら辺境伯閣下に訴え出ると。」
年度末ってか。残り十日もないな。
「ふーむ。白金貨千枚払うか、兄を会長にするか。または二人とも殺すか、だな?」
「もしくは印が偽造だと証明できればいいんですが……」
そんな難しいことが私にできるはずがないだろ。
「ちなみにその印って本来は一つしかないんだよな? 今回の件は兄がどこかで偽造したと見てるんだよな?」
「そうです。もっともあんな兄に本物そっくりの印を偽造できるような伝手があるとも思えないんですが。だからドストエフ様の手引きなんでしょうね……」
ドストエフの手引き……あ、もしかしてあそこか?




