261、ボーイズトーク!
マイコレイジ商会のリゼットがやって来た頃。スティード、セルジュ、インダルは三人で風呂に入っていた。
「ふーぅ……あ"あ"ーー……これがお貴族様のお屋敷か……これが風呂ってやつかよ……死ぬほど気持ちいいんだな……」
インダルは湯船に浸かり足を力なく投げ出している。
「領都の冒険者って風呂とかどうしてるの?」
そう訊ねたスティードの手元にはグラスがある。どうやら酒を持ち込んだらしい。
「あ"ー……風呂のある宿もあるんだけどよー……大抵の宿にぁそんなもんねーからな。俺ぁ入ったこともねーよ。『水滴』で水浴びか、魔力が残ってねー時は宿の裏の井戸で水汲んで体ぁ拭くだけだな。」
「ほぇーそうなんだね。ちゃんときれいにしてるんだね。冒険者ってそういう行いが生死を分けるそうじゃない? 臭い人ってとことん臭いけど早死にするとかさ。」
セルジュは下級貴族ではあるがクタナツの男でもある。冒険者のこともある程度は分かっているのだろう。
「おおー、知ってんのかぁー。実ぁ魔王から聞いててよぉー。ありゃ七等星試験の時だったなぁー。そん時ぁこいつ何言ってんだって思ったもんだがよ……カスカジーニ山で汚角鼠に囲まれてようやく実感したもんだぜよ……」
「ああ。あいつら不潔な人間を好んで襲うもんね。不潔な人間から出てる匂いが好物なんだっけ?」
「それもあるけど、そういう匂いをさせてる人間は狩りやすいってことを知ってるそうだよ。でも、ただ泥や糞尿で汚しただけじゃあ寄ってこなくて、数日間放置したような臭いに集まるそうだね。」
ここでもセルジュが意外な知識を見せている。魔物を狩る経験はスティードの方が上だろうに。
「おお……それ以来なるべく清潔にするようにぁしてんだよ。そしたらまぁ何か調子がいいわけよ。まぁパーティーは解散しちまったけどな……」
「別に珍しいことじゃないんだよね? 死んだり逃げたりよくあるらしいね。」
スティードの言う逃げたりとは『金品の持ち逃げ』も含まれる。
「まあな。それを考えりゃあ俺んとこはまだマシな方だわなぁ。つーかそんなことよりよぉ……お前ら一妻二夫ってマジか!? いいんかよそれでよぉ?」
「はは、なぁんだそんなこと? もちろんいいに決まってるじゃない。ねぇセルジュ君?」
「そうだね。僕らは別に気にしてないよ。だってねぇ……?」
「だ、だって何よ……」
「もし、もしもだよ? 僕とスティード君がサンドラちゃんを取り合って決闘するとするじゃない? どうなると思う?」
「そ、そりゃスティードが勝つんじゃねーのか? そのぐれー俺でも分かるぞ……」
王国の若手剣士の頂点に立ったスティード。今でも同年代ならば最強だろう。当然腹の丸いセルジュなど相手にならない。誰でもそう思うのだろう。
「そう上手くはいかないよ? ねぇセルジュ君。もし僕と決闘することになったらどうする?」
「えー、嫌な質問だなぁ。そりゃもう普通に人質とか毒物とか助っ人とか考えるよ。剣の勝負なんか絶対しないよね。」
セルジュもクタナツの男だ。同じクタナツ者であるスティードに人質が効かないことなど百も承知。それでも人質を考えることが兵法というものなのだろう。
「ねっ? 参るよね? これだから本物のクタナツ者と戦うのは嫌なんだよ。これさぁ、よくて引き分けだよ? だからって闇討ちしてまで殺したいかって言われたらそれこそ嫌だし。カース君もセルジュ君も大事な友達なんだから。もし殺すなら正面から斬らないと顔向けできないよ。ね?」
「そうだね。絶対斬られたくないけど。でもスティード君、この前カース君の背中を斬りたいって言ってなかった?」
「あれっ? そうだっけ? でもカース君の背中を斬れたら大したものじゃない? フェルナンド先生に並べるかも!?」
「スティード君やっぱ酔ってるよね? その話も前してたじゃん。斬るのは剣鬼様が先でカース君はその後なんじゃなかったっけ?」
「あはっ? そうだったね! アレックスちゃんからも言われてたんだった! あ、そうだインダルさん。稽古したいんだったっけ? 僕も体を動かしたくなったんだけど後でどう?」
「い、いや……ぜってぇやらねぇ……」
温かい湯船の中で、インダルの額からは冷や汗が流れていた。




