257、魔王と村長の風呂対談
ふぅ。我が家の自慢の湯船。数えるほどしか入ってないけど。
空っぽの状態だとほぼ白と言っていいほど薄い緑。そんな石造りの湯船はお湯が入ると鮮やかな浅緑になるんだよな。
ムリーマ山脈の中心部から西あるトワーダル峰の麓から産出されたトワーダ石って言ったっけ。
マギトレントみたいにお湯の浄化機能もあるからお湯を入れ替える必要はないそうだけど、お湯の保温機能はないんだよな。だから私がちょいと沸かした。
「ほう。これは見事な湯船だの。カース殿の趣味にしてはいささか華美な気もするがの?」
「前の住人の趣味だろうね。そもそもこの屋敷は貰い物だからさ。」
「ほう? これほどの屋敷が貰い物とな? 何がどうなればこうなることやら。カース殿は面白いのぅ。」
正確には貰ったのはアレクだけど。アレクが私名義にするって言い出したんだもんな。
「前の住人だけどさ、あれは老醜って言うのかな。もう後先考えなくなっちゃったみたいで。アレクを孫の嫁にしようとしたもんだからね。そしたらこうなっちゃったよ。」
「くくく、それはそれは。何とも無謀な人間もいたものよ。」
途中を端折りすぎた気もするけど、まあいいだろ。あのババア校長……嫌いじゃなかったんだけどなぁ。
「それより村長は何の話があったの?」
わざわざ風呂にまで来ちゃってさ。
「なに、大したことではない。ちとあの娘らが耳元できゃんきゃんうるそうての。しばし離れたかっただけのことよ。」
「あらま。そうなると今夜どうする? あいつら村長と同じ部屋に泊まる気満々だけど。」
「うむ。まあ一晩ぐらいならそれもよかろう。さっさと眠らせてやっても良いしの。それにどうせ明日は王都とやらに行くのであろう?」
ぷぷっ、村長ったら遊び慣れてるな。悪い男だねぇ。
「あぁ、それもそうだね。いやぁモテる男は大変だねぇ。」
「くくく、カース殿ほどではないわえ。儂でも分かるぞ? これほどの屋敷を持つ人間がどれほど女子を惹き寄せるかをの?」
あー、それは一理あるなぁ。いつだったか私が大金ゲットしたのを勘づかれた時もちょいモテたもんなぁ。あれはどこの貴族のパーティーだったか。女ってのは魔物だねぇ。みんなマテリアルガールってか。
「確かにね。でもまあそんなの誰も知らないしね。たぶん誰も来ないと思うよ?」
今のところはね。
「そうかの? あの二人が知ってしもうたではないか。女の口は軽いのが常。有象無象が寄りついてくるやも知れぬぞ?」
「うわぁ……あり得るね。でもまあその時には多分もう領都にはいないだろうし。次に来る頃には噂なんて消えてると見たね。」
だから何度も同じような絡まれ方をするって面はあるけどさぁ。
「ほう。そのようなものか。言われてみれば似たような言い伝えもあったかの。驚きの木もわずか九日、だったか。」
「驚きの木? 何それ?」
「驚いた拍子に派手な木を生やしたエルフがおっての。仲間内でその様子をからかっては酒の肴にしたものだが、九日もすると木も消えて話題も消えてしまった。という逸話よ。」
「ああ、逸話なのね。フェアウェル村の誰かってわけじゃないんだね。」
人の噂も七十五日とは言うけど、九日はさすがに早いなぁ。エルフなら九日どころか九年って言いそうなのに。
「ガウガウ」
いつまでも喋ってないでさっさと手洗いしろって? お前はご主人様かよ。
「ほほう、狼殿はよほどカース殿にかまって欲しいようだの。」
「あはは。さっさと手洗いしろって言われちゃったよ。かわいい奴なんだよね。」
「ガウガウ」
ぶはっ。お湯かけやがった。まあそうむきになるなって。ちゃんと洗ってやるからさ。
「ガウガウ」
ブラッシングとオイルマッサージも? お前ほんっと野生の誇りを忘れてんな……




