253、深紅金剛石
インダルがぶつぶつ言ってたけどショッピングはおおむね成功。アレクに相応しい宝石を見つけたんだよね。それがなんと深紅金剛石。まさかのレッドダイヤモンドとはね。気軽にアクセサリー屋なんかに寄ってたんだけど、あまりいいのがなくてね。だから私の気まぐれで原石屋にも寄ってみた。これが大正解ときたもんだ。
インダル達は恐る恐る店内を見ていたが村長は興味深そうに眺めていたな。確か村長ってあれこれ原石持ってたもんな。
今回の深紅金剛石はカットすればだいたい二カラット程度にはなるそうだ。ちなみに買い値は白金貨一枚。これで手持ちの財産はほほなくなってしまったよ。でもアレクの指か首、もしくは耳元を飾るのに相応しい宝石だしね。買える時には買っておかないとね。
「ま、マジかよ魔王……どうなってんだよ……」
店を出た後、インダルが何やら言ってる。
「ん? どうした?」
「だってお前……白金貨一枚って……意味分かんねーにも程があんぞ……そんな石っころに……」
「石ころじゃねーよ。深紅金剛石の原石だっつーの。白金貨一枚ならむしろ安いだろ。」
まあ原石だしね。同じ原石でもいつぞや見た金剛石は白金貨五枚だったし。今回のは小さめだったから一枚で済んだんだよ。そりゃ買うってもんだ。これで偽物だったら笑うところだがアレクが本物だと言ってるし村長も何も言わなかったし。本物だろ。
「あと俺知ってんぞ! それカットたらするのにえれぇ金かかるらしいじゃねーか! 大丈夫なんかよ?」
「それはその通り。下手すりゃ石代よりかかるらしいな。でも凄腕の職人知ってるから大丈夫。次回はただでやってもらう約束してるしな。」
そうだよねえクライフトさん。もっとも、魔力は私のを提供するしお土産もたっぷり持っていくしね。
「そんな職人がいるのかよ……すげえな……」
「羨ましすぎて逆にもう羨ましくも何ともないんだけど……」
「魔王さんすごいのね! 屋台の串焼きを買うみたいに買ってたのね! 女神さん絶対似合うのね!」
「アレクに相応しい宝石だからね。せめてこれぐらいじゃないとね。完成が楽しみだわ。」
「もうっ、カースったら。でも悪いけどこの石の使い道は私に決めさせてもらうわよ? 私の全身もう赤だらけなんだから。」
「うっ、それはごめん。もちろんアレクの好きに決めていいからね。クライフトさんとよく相談しようね。」
言われてみればそうだな。いくらアレクに赤が似合うからって首飾りから耳飾りからドレスに至るまで全部赤ってのはやりすぎだったか……だってマジで赤が似合うんだもん。あぁ、瞳の色に合わせるって手もあるし次は青紫の何かにしてみようかな。そうなるとやはり灰簾菫石か……
「いえ、もう決めたわ。カットと加工は領都でお願いするつもりよ?」
「あら、そうなの?」
さすがアレク。決断が早いじゃないか。
「そうなの。だからお茶の前に寄っていいかしら?」
「おっ、いいね。早速発注するんだね。」
アレクは行動まで早い。さすがだね。
「自分好みの装飾品は自分で注文する……これが女神の生き様かい……」
「女神さん素敵なのね! あっそうだミラノ! ウチらもこの際だから何か注文するのね! この前売らずに取っておいた水の魔石があるのね!」
ほう。にんじんちゃんたらいい物持ってるじゃん。サイズは分からないけど青く透明な水の魔石。物によっては貴族のパーティーに付けて行けるレベルだろうよ。
「ちなみに何て店?」
「装飾品店ポルティーアよ。私はまだ行ったことないんだけど、ソルがいい店って言ってたのを思い出したの。」
「ああ、ソルダーヌちゃんのお勧めなら間違いなさそうだね。」
「ん? 魔王、今ソルダーヌっつったか? も、もしかしてだけど……辺境伯家のお嬢様の……」
ほう。さすがにインダルも知ってるのか。もう何年も前に王都に行ってしまったってのに。
「インダル、ソルダーヌ様と呼びなさい。もうすぐ王太子妃になられるお方よ?」
「おっ、おお、すまねぇ。ソルダーヌ様な。」
アレクったら。友情に厚いね。私も似たようなことを言うから納得だけど。うちの父上をアランと呼び捨てにする見知らぬ奴とか、フェルナンド先生を剣鬼と呼び捨てにする同い歳ぐらいの奴とか。同じに気持ちになるもんな。
「アレクとソルダーヌちゃんは小さい頃からの仲だからな。お前らにだってそんな友達いるだろ?」
「おっ、ま、まあな。」
「ソルダーヌ様と女神の仲はみんな知ってるし。」
「装飾品店ポルティーアといえば領都随一の高級店なのね! ウチらだけじゃ入ることもできないのね!」
今日は入るだけなら問題ないだろうけどお前らの分まで注文を受けてくれるかは知らんぞ……
「見えたわ。あれね。」
さすがに近いな。そもそも原石屋だって同じ目抜通りにあるんだし。そりゃ近いわな。
「いらっしゃいませ。おお、これはアレクサンドル家のアレクサンドリーネ様。ようこそお越しくださいました。大変光栄でございます」
さすがに高級店は違うな。アレクの顔までチェック済みか。
「そして魔王様。ようこそお越しくださいました」
おや、私もか。アレクとセットで覚えたのかな?
「お邪魔するわね。これで作ってもらいたい物があるの。ここは腕がいいとソルから聞いたのよ。」
「おお、ソルダーヌ様から。重ね重ね光栄でございます。何なりとお申し付けくださいませ」
「これを使ってカフリンクスを作ってもらいたいの。地金は後日届けるからまずはカットをお願いするわ。」
ん? カフリンクス、だと?
「おお……深紅金剛石ですか。これをカフリンクスにされるとは何という贅沢。さすがはアレクサンドリーネ様ですな。これはもしや、魔王様のお袖を?」
「ええ。赤系を贈りたくて。おいくらほどになりそうかしら?」
なん……だって!?
アレク、私のために!?
「そうですね。地金の素材にもよりますが大金貨三枚ほどで足りるかと思います」
おっ、意外と安い。
「じゃあこれね。足りなければ言ってちょうだい。カット後に付与の相談もする予定だから。」
「かしこまりました。確かにお預かりいたします」
「えっ? アレク、それ僕出すよ?」
「何言ってるのよ。カースに贈る物なんだから私が出すに決まってるじゃない。ついさっき白金貨一枚も使わせてしまって言う事じゃないけど。」
やべぇ……めちゃくちゃ嬉しい。アレクに似合う物を身につけてもらうのも嬉しいけど、こうしてアレクが私の物を選んでくれるなんて。嬉しすぎる。
「うう……アレク、嬉しいよ。ありがとね。」
少し泣きそうだよ。
「本当は同じ金緑紅石がよかったけど、あれはそうそう見つかるものじゃないものね。」
「ん? 金緑紅石? これか?」
村長……タイミングがいいのか悪いのか……
シャーペンの芯? それなら持ってるよって程度の気軽さで言うんだから……




