252、路傍の石
「のう若いの。少し落ち着け。どうもお前は相手にされておらんようだ。今のは見なかったことにしてやるゆえ、剣を納めて行くがいい。酒でも飲んで忘れることだ。」
いやいや、こんだけやらかして酒飲んで忘れろって。村長面白いこと言うなぁ。しかも剣抜いたのに許すんかい。私より甘いじゃないか。
「そうか! お前か! お前がこいつを寝取ったのか! まとめて叩き斬ってやるよ!」
すっげ……全然会話にならない。
「フェリクスぅー、とりあえず殺さないでね。なんなら僕がやるし。」
「ふむ、儂は別にどうでもよいぞ。ならばここは無難にカース殿に任せるとするかの。」
こんな奴でも村長が殺しちゃったら大事になるかも知れないしね。私なら殺したってたぶんお咎めなしだろ。同じ冒険者だしこれでも魔王の雷名もあるし。
でもその前に……
「フェリクスはこう言ってるが、スカーラどうする? 自分でやるかい?」
そもそも私や村長の出る幕じゃないし。自分のことは自分でやれって話だよな。
「そうなのね。ウチが相手するのね。じゃあフェリクス様、名残惜しいけど手を離すのね。」
えらく大袈裟だなぁ。でもにんじんちゃんも真っ当な冒険者だね。自分の身は自分で守らないとね。
「ほう。ではお手並み拝見だの。」
ふむふむ。にんじんちゃんの武器は薙刀か。ん? えらく首をふりふりしてるが。ストレッチ?
「来るのね。相手してあげるのね。ただし今日はウチが刺す番なのね。」
ぷぷ、上手いこと言ってる、のか?
「くくくく、同じ七等星だからと勘違いしてないかい? 所詮は女の細腕。勝てるつもりとは笑わせてくれる。大人しくそっちの優男に頼ればいいものを」
「本身抜いたからにはもう後戻りできないのね。もうあなた終わりなのね。」
「終わりなのはお前の方だ! もう謝っても遅いぞ! 覚悟しろスカーラぁぁあ!」
なるほどね。にんじんちゃんたら。純朴な顔してやることがえげつない。
「ねえクリストファー。あなたって冒険者仲間はいるみたいだけど友達はいないのね?」
「くくくく、何を世迷言を。友達だと? 冒険者にそんなものが必要だとでも思っているのか!? 僕らの関係はお互いに利用し利用され。それ以外にあるものか。さあ、もういいだろう? そのきれいな顔を斬り刻むのは惜しいがな!」
「仲間は損得勘定で助けてくれる、こともあるのね。その逆も。でも友達は……」
「友達は? 何だい? そんなに怯えなくていいだろう? くくくく、謝れば許してやると言ってい、ぐっ、おぉごっ……」
ぷぷぷ。笑いが止まらない。いやぁ本当に。笑いを堪えるのが大変だったんだぞ。
意気揚々と喋るイケメンの後ろに忍び寄るトマトちゃんときたら。顔が引き攣りまくってたんだよな。そんな顔しつつも足を忍ばせて近寄って、見事に後頭部に一撃。あれって下手すりゃ死ぬね。実際イケメンは後頭部から血がドクドクだし。にんじんちゃんってえげつないなぁ。
「ありがとなのねミラノ。助かったのね。」
「まったく、スカーラは私がいないとだめなんだから。あんまり無茶させないでよね!」
「さすがにクリストファー相手に正面から戦っても勝てないのね。友達もいない間抜けで助かったのね。」
なるほどねぇ。真正面から戦うと勝てないものだから、何らかの合図をトマトちゃんに送ったわけね。で、自分が引き付けておいた隙にトマトちゃんが後ろからボコるって感じか。やるじゃん。
イケメンに同情してやりたくはあるが、後ろからの攻撃を避けれないって情けなさすぎだもんなぁ……これは擁護できないぞ。
「これに懲りたら火遊びは控えめにしておきなよ。」
「んー? それは相手次第なのね。でも顔しか取り柄がない男はもうこりごりなのね。」
それでもちゃっかりと村長の左腕に戻ってる。トマトちゃんの右腕に戻ったし。
「いいのかスカーラ? こいつはこのままで。」
私なら現金だけ貰っておくけどね。装備にまで手をつける気はないけど。
「んー、別にいいのね。このまま放置してたら野垂れ死ぬかもしんないけど。トドメを刺さないだけの温情はあるのね。」
私が聞いたのはそんな意味ではなかったのだが、まあにんじんちゃんがいいならいいか。そこそこ人目もあることだし、たぶん野垂れ死にはしないだろ。でもこのタイプは絶対復讐に来そうだけどなぁ。まあ生きてればの話だけどさ。
「じゃあそろそろ行くわよ。楽しませてもらったことだし、どこかでお茶でもするなら次は私が奢るわね。」
おっ、アレクったらやるねぇ。器が大きい。夕方までまだまだ時間はあるし、ショッピングに疲れたらお茶をすることもあるだろうからね。
領都でお茶と言えばカファクライゼラが思い浮かぶが、あそこはすっごく高いからなぁ。もっと庶民的な店をにんじんちゃんにでも選んでもらえばいいか。
「よし。それならまず先に買い物行こうよ。何かアレクに似合う物があればいいんだけど。」
「もうカースったら。いつもありがとう。」
「あればの話だけどね。アレクほどになるとなかなか簡単には見つからないもんね。」
「私はカースさえいてくれたらそれでいいのに。でもありがとうね?」
ぬふっ。アレクの右腕が強くぎゅっと私の左腕を締めつけてくる。幸福の鎖だね。もう離れないぜ?
「おいミラノ……付き合ってらんなくねーか?」
「インダルもそう思う?」
「フェリクス様はどう思うのね? 見てて胸焼けしないのね?」
「儂か? 特に気にはならんが。面白いではないか。若い者はよいのぉ。それより儂だけ女子が二人なのはちと具合が悪いの。どちらかあやつに付いてやってはどうだえ?」
「ちょ、それはさすがに……」
「ひどいのねフェリクス様! ウチもう離れたくないのね!」
「お前らみんな酷いぜ……くっそぉ……俺だって店じゃモテるんだからな……」




