251、イケメン狂乱クリストファー
なかなかのイケメンが路上で怒鳴ってある。にんじんちゃんはそれを涼しい顔して聞いている。というかスルーしてるのか? むしろトマトちゃんの方が気まずそうな顔してるな。
「その手を離せスカーラ! 今なら許してやるぞ!」
「ちょ、クリストファー……落ち着いて……」
トマトちゃんが村長から手を離してるじゃん。おまけに仲裁まで。偉いねぇ。
「何とか言えスカーラ! 今なら許してやると言ってるんだ!」
「えーーっと、なんで?」
にんじんちゃんはきょとんとしてる。ウチ何かやっちゃいました? とばかりに。
「なんでだと!? お前は何を言っているんだ! 僕がこんなに怒っているのが分からないのか! それともなぜ怒っているのかも分からないと言うのか!」
「え、もちろん分からないのね。浮気とか言われても……」
「そんなに街中で腕を組んでおいて浮気じゃないとでも言い張る気か!」
「ちょ、スカーラ……」
「え、もしかしてなんだけど……あなたってウチの男になったつもりだったりする……?」
「ぷっ。」
「ふふ。」
思わず笑ってしまった。私もアレクも。なお村長は無反応。
「なっ、何を言っているんだ! 昨夜あんなに愛しあったじゃないか! 僕ら二人の間にもう言葉はいらないほどに!」
「ちょ、スカーラあんた!」
「ミラノは黙っててなのね。で、まさかなんだけど、ゆうべ一回寝たぐらいでウチの男になったつもりだったりするの?」
おー。にんじんちゃんたら純朴な顔して言うことが面白いね。むしろ派手顔のトマトちゃんが言いそうなセリフなのに。
「なん……だと!? もう一回言ってみろ! あれだけ抱かれたくせに何様のつもりだ! この世に男は僕ただ一人と言ったくせに!」
うっわ、最低ぇ……
「あなたねぇ……恥ずかしくないの? 寝物語を本気にするのもそうだけど、それを外で喋るなんてね。男のやることじゃないのね。」
おお……にんじんちゃんが正論言ってる。イケメンだけに余計に情けないねぇ。
「そもそもだけどぉ……ウチ、あなたの女になった覚えなんかないんだけど……」
おお、にんじんちゃんの追撃が……
「あなたって顔だけはそこそこいいから一度ぐらい寝てみたかったんだけどね……まさかあんなに早いなんて思わなかったのね……」
「ぷっ。」
「ふふっ。」
いかんいかん。人様の夜を笑ってはいかん。でもつい漏れてしまった。それにしても私とアレク、同じセリフ同じタイミングで笑えるって。最高じゃん。
「ぐぬぅおおおおおお! お前っ! お前がぁ! 何をっ! この大嘘つきがぁああ! あの夜を! 熱く燃えたあの夜をっ! もう忘れたとでも言うのかぁっ!」
「昨日の夜? もちろん覚えてるのね。あんたはガサツだし前戯もそこそこにすぐ入れたがって。鼻息荒くして一瞬で終わるし。最低の夜だったのね。」
あーあ。暴露されちゃったねぇ。誰かが言ってたんだよな。イケメンほど夜が一人よがりで一方的だって。これはあるあるなんだろうか?
「くっ、ぐうっ、ぐぬぉぅ、最後の機会だスカーラ……謝って戻ってこい。そしたら許してやるし、また抱いてやる……その手を離して、こっちに来い……」
つーかさぁ。こいつってなかなかのイケメンなんだからさぁ。わざわざにんじんちゃんなんかにこだわってないで他の女に行けばいいのに。かなりモテるだろうに。
「はぁ……あのさぁ。戻るとか許すとかさぁ……そもそもあなたとは関係ないのね。それにウチもうこの人に身も心も捧げてしまってるのね。だから消えてほしいのね。」
ぶはっ。ひどいぜにんじんちゃん。しれっと村長を巻き込みやがった。しかもイケメンはもう剣を抜いてるし。
「待て待て。それはさすがに見逃せぬぞ。のう若者よ。お前はこの女に執心のようだの。どのあたりが気に入っておるのか儂に教えてくれぬか?」
おっ、やっと村長が口を開いた。それにしてもこのイケメンときたら。だめな奴だなぁ。街中で剣を抜くなんて。下手すりゃ一発で奴隷落ちだってのに。
「あぁ? どこが、だと!? ふざけるな! 女の分際で僕に逆らうなんて許せるはずがないだろう! お前らはへらへら股を開いていればいいんだよ! そうだろうスカーラぁ!」
うーむ……会話にならんなぁ。つまりイケメン的には……自分の意のままにならない女は気に入らないってことか? 無茶言いやがって……
「えぇ……別に股を開くのはいいけどね……だからこそ男は男らしくいてくれないとね……
もちろんあんたは不合格だから別にどうでもいいのね。ところで剣を抜いたってことは、私を殺す気なのね?」
ぷぷっ、不合格だって? にんじんちゃんは正直なんだなぁ。
「だからふざけるな! 謝れば許すと言っているだろう! 変に意地を張って死ぬ気か! それとも僕に勝てる気なのか!?」
「やばいってスカーラ! どうする気なのよ!」
「だからミラノは黙っててくれていいのね。確認だけどクリストファー? あんた別に私の男になりたいわけじゃないのね。単に私が自分の物にならなかったのが気に入らないだけなのね。女なら他にいくらでもいるくせに。」
ほう。やはりイケメン君はモテモテなんだね。で、モテモテなだけに自分に靡かない女の子が許せないって感じだろうか?
「スカーラぁあああああああ!」
「きゃああぁっ!」
あーあ。やっちゃった。もちろん当たってないけど。直前で何かに弾かれてるな。村長ったら自動防御でも張ったのかな?
それにしても、にんじんちゃんたら避けもしないとは。やるねぇ。トマトちゃんの叫び声は意外と可愛らしかったけど。
さあ、イケメンの命運は尽きたかな? でもまあ村長にはなるべく人間を殺さないでってお願いしてるしなぁ。そこまで無惨なことにはならんだろ。




