241、マイコレイジ商会の番頭
さて、領都に到着。北門にいつもの事務的な騎士はいるかな? あ、いた。
「やあ久しぶり。一人身分証がない者がいるけど別にいいよね?」
「これは魔王殿。問題ないですよ。ここは貴族門なので」
そう。だってアレクがいるんだもん。だから堂々と貴族門だって通れちゃうぜ。
どうでもいいけど三月の間はスティード君もセルジュ君も平民扱いなんだよな。卒業しちゃったからね。で、四月から再び下級貴族になると。実家とは関係ない一人の下級貴族にね。二人とも騎士爵だけどスティード君は近衞騎士だしすぐに男爵位ぐらいならゲットしそうだよな。
貴族門は馬車が多いけどそこまで待たずに通れた。普通の正門はかなり混雑してんだよな。やっぱかなり景気が良いんだろうなぁ。
「カースどうする? 先にマイコレイジ商会に顔出す?」
そう。領都に用事ってそれなんだよね。リリスからの発注がいっぱいあるからさ。
「そうだね。先に顔出してから昼食にしようか。」
あ、そういえばギルドにも顔出しておかないとなぁ。
「サンドラちゃん達はどうする? カースはちょっと時間がかかりそうだから別行動でもいいと思うわよ?」
「そうね。私領都ってよく知らないからあちこち歩いてみたかったの。スティードとセルジュはどう?」
「僕も領都は久しぶりだからね。あちこち行ってみようか。」
「そうだね。この際だから挨拶回りなんか気にせず行ってみようよ。」
「じゃあ夕方ぐらいに僕んちに来てよ。場所については、コーちゃん頼める?」
「ピュイピュイ」
コーちゃんならカムイの気配を辿って到着できるもんね。おっ、するするとサンドラちゃんの首に巻きついたね。幸運がやってくるに違いない。
「ガウガウ」
おう。カムイはこっちな。
「フェリクスはこっちね。今日のところは一緒に行動しようよ。」
「うむ。話には聞いていたが、なんという人の多さよの。やはり人間は侮れぬな。」
領都って今は何人いるんだろうなぁ。昔は二万人とかって聞いたけど、かなり増えてるんだろうな。
それにしても村長の頭が柔軟すぎる。初めて人間の大都市に来たのに、もう理解してるじゃん。人の多さに狼狽えることもなくさ。しかも侮れないと来たもんだ。つい最近まで人間なんて虫みたいなもんだって言ってたくせに。すげぇな……
「はは、そう? でもその分治安は悪くなってるからね。あんまり褒められたもんじゃないかも。」
「くっくっく。治安の心配などカース殿にはさほど関係あるまい? あの街での見事な裁きっぷりを見せてもろうたからの。大した貫禄だったぞ?」
話が飛ぶなぁ。確かに楽園の治安がいいのは私やリリスの威厳もあるんだろうけどさぁ。そもそも人口の少なさのせいもあるよな。あそこの凄腕連中は大抵顔見知り同士だろうし。揉め事を起こしそうな新入りがそうそう来るような土地じゃないし。
「あはは、そうかな。甘いって言われそうだけどね。」
「なんのなんの。いちいち殺しておったらキリがないであろう。それに場の盛り上がりに水を差すことにもなろうて。あれで良い良い。」
おお、さすが村長。いいこと言ってくれるじゃん。実際あれは甘々なんだけどさ。だからってあいつを殺しても解決しないもんなぁ。
話しながら歩いてたらもう着いた。城門からは遠いんだけどな。
おっ、私達に気づいた丁稚君がいち早く中へと駆け込んでいったぞ。あの子も大きくなったよなぁ。そろそろ十五歳、成人する頃なんだろうか。
店の前に到着した時にはすでに番頭さんがお出迎えか。なんという超接客。
「いらっしゃいませ魔王様。ようこそのお運びありがとうございます。あいにく本日会長は出かけておりまして。私でよろしければお話をお聞かせいただきたく存じます。どうぞ、中へお入りください」
おや、リゼットは留守か。つーかそもそもダミアンと結婚したってのにいつまでここで仕事する気なんだろうなぁ。たぶん後継ぎができるまで?
応接室かな。私が真ん中、両サイドにアレクと村長が座る。
「では改めまして魔王様お嬢様、そしてお客様。本日はようこそマイコレイジ商会にお越しくださいました。番頭のモーガル・ガポネーゼでございます」
「どーも。ちなみにこちらのイケメンはフェリクスと言ってちょっとだけやんごとない人だよ。先王様とも仲良いしね。」
「な、なんと! その若さで! ぜ、ぜひご贔屓に……」
番頭さんがわざわざ自己紹介したのは村長がいるからなんだよね。しかも私の隣に堂々とすわってるから。そりゃあ挨拶するよね。だからこちらも少々大袈裟に紹介してあげたのだ。
「儂か? イケメンとは何のことだ?」
「いけないことをしちゃいたくなるほど面体が整った男性のことですわ。今のフェリクス様は誰がどう見てもまごうことなきイケメンですもの。」
アレクが言うと説得力はんぱないよね。そもそもフェルナンド先生そっくりなんだからイケメンじゃないわけがない。
「ほう、そういうものか。この顔にして正解だったようだの。」
「は、この顔に? と言われますと……」
「はは、こっちの話だよ。それでリゼットに伝えて欲しいことなんだけどね。」
リリスからの発注を伝えよう。
・避妊魔法の使い手。
・避妊薬。
・服や下着類。これに関しては古着とは別にサイズ表も預かっている。特に下着は何人分かオーダーするらしい。上位陣への褒賞を兼ねているとか。
・追加の女達。これはいなければいないでいい。リリスとしては苦境にあえぐ女達を救いたいって気持ちで動いてるんだろうし。いなけりゃいない方がいいよな。
・治癒魔法使い。現在一人いるらしいけど、やはり一人では不安らしい。
・野菜や果物の種。これはドワーフから要望があったらしい。気候や土壌の問題もあるため品種が多いほどいいそうだ。
「といった感じで伝えておいてもらえるかな。四月の頭ぐらいにまた来るからさ。」
「かしこまりました。ちなみに魔王様、今回はいつまで領都におられますか?」
「それが明日にはもう出ちゃうんだよ。ほら、四月に王太子殿下とソルダーヌちゃんの結婚式があるじゃない? あれに出るものでさ。」
「おお……あのソルダーヌ様がついにご結婚されるのでしたな……しかもお相手は王太子殿下とは。我々領都の人間からすると感慨深いものがございます……では魔王様。今回の件、会長にはしかと伝えておきますので。今後ともマイコレイジ商会をご利用くださいませ」
「こちらこそ。アジャスト商会に負けないでね。」
ちなみに楽園の代官リリスからリゼットへ支払うべき金貨を預かってるんだけど、それは今度直接渡すとしようかね。さすがに番頭がネコババするとは思ってないけどさ。
「ありがとうございます。魔王様のお言葉、何よりでございますとも」
大袈裟だって。
それにしてもここ領都のフランティア家とアジャスト商会のバックであるアジャーニ家。両家の仲は今や最悪なはずだがアジャスト商会は大丈夫なのか? 領都で商売していけるんだろうか? まあ私が気にすることじゃないけどさ。
さて、用事も済んだし昼飯だな。高い店に行くか、それともどうせギルドに行くんだしそっちで済ませるか……




