222、カースの悋気
無仁流といえばアレクパパと同じだよな。剣をぶん投げて組みついてきたりするし、近寄られると少し厄介な流派だったか。
「魔王殿がスティードと決勝戦で戦ったことは知っている。見ていたからな。つまり、油断できない相手ということだ」
マジか。そんな五年も前のことを。嬉しいじゃないの。でも、油断してくれていいのに……
「光栄ですよ。スティード君とはずいぶん差がついてしまいましたが。」
そっちが本身のロングソードで来るならこっちはイグドラシル製の棍、不動でいくぜ?
「そうでもなかろう? つい先日などスティードに勝ったそうではないか。今のスティードがどれほどのものかは知らぬがな。さあ、お喋りはここまでだ。ゆくぞ?」
もう知ってんのかよ。卒業式の時だろ? ありゃまぐれだってのに。
「よくご存知で。ほんの数日前なのに。」
いや、二十日近く前かな? うおっ、あぶね……いきなり突きかよ。死んだらどうする!
「よい反応だ。やはり油断できぬ、なっ!」
今度は私が突いたが、余裕で避けてくれちゃってまあ。引き際、嫌がらせ程度に首の皮を擦ってやったけどね。行きと同じルートで戻るわけじゃないんだぜ? 少し手首を捻ったのさ。
「ふふ、やりおる。今のが鎌槍ならば私の首は掻き切れておったな。もっとも、棍だからこそ気にしなかったのだがな」
だろうね。歴戦の近衞騎士が槍の引きを気にしないわけないもんね。
「ほあっ!」
上段の打ち下ろし。不動でも防御が間に合わなかったので普通に避けた、が……
「なんだとっ!? くっ、ぐおっ!」
効いたろ? ちょっとばかり反則してやった。上段打ち下ろしをバックステップで避けたと思ったら、いきなり突いてきやがった。腹狙いでね。だから避けずに前に出てやったよ。で、その勢いで私も上段打ち下ろし。右肩に当たったね。砕けてない? あ、肩のプロテクターは壊れてるな。
「参った。ここまでだ。いやぁさすがだな魔王殿。それが噂の魔王スタイルか。まさか私の突きが全く通らないとは。お洒落に見えて恐ろしい装備なのだな」
「ども。まともにやっては勝ち目がないんで装備に頼ってみました。」
「いや、いくら最高の装備とはいえ、あそこまで身を投げ出せる覚悟は素晴らしい。もしそのウエストコートが負けたらロングソードが腹を突き通ったわけだからな」
「ありがとうございます。ところで肩は大丈夫ですか?」
「うむ。愛用の肩当ては壊れてしまったが、おかげで私は無事だ。痛てて、棍の一撃でこれを壊すとは……さすがは魔王殿だ」
ちょっと痛めてんじゃん。まあ骨まではイッてなさそうだし大丈夫だろう。
「まぐれですよ。次やったら負けるからやりませんよ。」
もう同じ手は使えないしね。そもそもロングソードを使った時点である程度の手加減はしてくれてたっぽいし。でなけりゃ最初の突きで終わってた可能性だってあるし。
「見てたよカース君! やっぱりすごいじゃん! 後で僕ともやろうね!」
やはりこうなったか……
「はは、後で、ね……」
「ならばスティードよ。私とやるか? 職人達が全員集まるまでもう五分といったところだが」
「ありがとうございます! ぜひ! いきます!」
早っ。もう斬りかかってるよ。スティード君もロングソードだ。
ほぉ、やっぱすごいな。避けると斬るがほぼ同時じゃん。しかも二人とも。だから剣と剣がぶつかる音がしない。やけに静か、ハイレベルすぎない?
「あっ、カース君。戻ったよ。あれ? スティード君? 何やってんの? ああ、こんな所でも稽古? あれっ? あの人元近衞騎士のルナール様じゃない? ここに来てたんだね。」
「おかえりセルジュ君。いやぁ参ったよ。僕もやらされてさぁ。もう疲れた疲れた。スティード君も五分だけって言ってたはずなのにもう十分は経ってんだよね。」
職人の皆さんは仕事を終えてとっくに集まってる。でも、みんな二人の対戦を面白そうに見物してんだよね。だから私も特に何もしてないってわけだ。
「カース君もやったんだね。どうだった?」
「えぇ……そりゃあまあ、勝つには勝ったけど、まあ反則しちゃったからね。」
装備の力でごり押しさ。
「よく分からないけどどんな手を使おうとも勝ったんならカース君の勝ちだよなね。」
さすがセルジュ君。ソルダーヌちゃんが筋金入りのクタナツ者と言うだけあるね。分かっていたとも。
「ありがと。あっ、ようやく終わったみたいだよ。うわぁ……二人とも汗だくじゃん。」
でも、血は流れてないね。やるじゃん。
『浄化』
「いい勝負だったね。じゃあ帰ろうか。」
「見てくれてた!? かなりいい手応えだったよ! 今すっごく気分がいいよ!」
「驚いたぞ。まさかスティードがここまで強くなっているとはな。もうウリエンとも互角なのではないか?」
おお、そうなのかいスティード君。
「ありがとうございます。でもそれは残念ながら違います。最近もウリエン先輩の太刀筋を見ましたけど、勝てる気がしませんでしたので。」
おお、そうなのかスティード君……
「ほう。ウリエンもまだまだ強くなるだろうからな。若い者が切磋琢磨することは喜ばしいものよ」
「ありがとうございます。またお手合わせお願いします!」
「うむ。近衞騎士となったお前がいつ再びここに来れるかは分からぬが、再戦を楽しみにしておるぞ」
うーん……スティード君と稽古するのは正直キツいから気が進まないんだけど、スティード君が他の誰かと稽古をしているのを見るとモヤモヤする。この感情は一体何なんだろうね。
お気に入りのオモチャを取られた幼稚園児? それとも実は寝取られ的な何か? うーむ、人の心とは儘ならぬものだなぁ。




