220、エボニーマホガニー
サンドラちゃんがエボニーマホガニーを気にしてるのはまあ分かった。行った方にそれっぽい木が生えてるし。なぜ気になるのかは分からないが……
スティード君が行った方にも木はたくさん生えてるけど、エボニーマホガニーっぽくはない。あの辺の木は何だろう? やたら高いのは分かるが。
「で、アレクは何が気になるの?」
「ううん、大したことじゃないわ。ここに魔物が襲ってくるとしたらどこから来るのかってこと。」
お、おお、マジか。予想以上に真面目な考察じゃん。
「アレクすごいね。そんなのどこからでもいいじゃん、って言いたくなるのをしっかり考えてるんだね。」
「もうっ、カースったら。それが許されるのはカースみたいな絶対強者だけなんだから。普通はしっかり警戒するものね。」
それは言い過ぎだぜマイハニー。絶対強者だなんてさ。
「そうなると……ここってどうなんだろうね。塀や壁なんて全然ないもんね。あ、でも……」
一応柵っぽいのはあるにはあるな。木を横倒しで積み上げてさ。あれはあれで馬鹿にできないんだよね。立ち木と立ち木の間に噛ませてるし枝葉もそのままだからくっそ歩きにくい。おまけに上を越えるのもひと苦労なんだよな。
「そうね。倒した木を上手く利用してるわ。二メイル以下の魔物があれを越えようとすればかなり時間も労力もかかるはず。いつか真似するかも知れないわね?」
「そうだね。野営の時とかやるかもね。」
ピラミッドシェルターの周囲をそうやって囲めば無敵にも程があるな。オーガの大群相手に二日は持つかも。
こんな散歩でも勉強になるもんだね。これが他山の石ってやつか? ローランドじゃあ『賢者は他人の過ちから学び、愚者は自分の過ちから学ぶ』とか言うけど、そもそもあれって過ちじゃないしね。
「あっ、見てカース。ここじゃない?」
「えっ、何? あ、なるほどね。」
柵の切れ目というか、敢えて木を置いてない箇所があるのね。
「こうやって敢えて隙間を作っておくことで魔物を誘導してるのね。もちろん空からの魔物には意味のないことだけど。」
「いやぁさすがだね。ちゃんと考えられてるんだね。木を倒すだけなら簡単だし、ここを広げる時もどかせばいいだけだもんね。」
「それに、ある物で工夫するって精神はいいわね。カースみたいに無いなら作るって方法も素敵だけど。どちらにせよ、やっぱり魔境に挑戦するって素晴らしいことね。」
「あはは、いやぁ照れるなぁ。でも魔境ってまずは防御をガチガチに固めないとどうにもならないもんね。」
うちの楽園の場合って周りに何も無かったもんね。大量の岩だってわざわざヘルデザ砂漠から運んだものだしね。
それに今思えば未知の病原菌とか寄生キノコとかに襲われてないのは幸運だよなぁ。ちょっと奥に入れば寄生キノコとかいるし。魔境は怖いね。
「勉強になるわね。このまま一周しましょ? ちょうどいい時間になりそうだわ。」
「そうだね。ここって意外と歩きやすいよね。散歩にちょうどいいね。」
作業中の人々がチラチラ、またはジロジロ見てくるが作業の邪魔をする気はないからね。二人で軽く笑顔を向けておく。
おっ、今度は前から若者が歩いてくる。その装備を見るに冒険者だな? 仕事はここの警備ってとこか。
「やあこんにちは。お邪魔してるよ。」
そちらにもにこやかに挨拶。
「君ら何やってんの!? デートにしちゃあ場違いすぎんだろ!? つーか誰!?」
えらくオーバーアクションだなぁ。
「デートと見学ってとこかな。俺は六等星カース・マーティン。ちなみに何の依頼も受けちゃいないよ。」
「おっ、おお、マジか……つか六等星!? その若さで!? こんなやべートコにそんなカッコで女連れで……しかもデートって……マジ!?」
面白い奴だなぁ。自分だって二十代前半ってとこだろ? その若さでここに来てるってことは人生賭けてんだろうな。楽園と違って娯楽もないし安全でもないけど、ここなら栄達の可能性が高いからね。運が良ければ領地だってゲットできるんじゃない?
「マジマジ。正確には五人で卒業旅行だけどさ。今は各自バラけてデートってとこかな。」
「そ、卒業旅行ぉ!? ま、まさかお貴族様で!?」
「気にすんなよ。俺は六等星だって言ったじゃん? もちろん平民だよ。そもそもこんな場所で貴族風吹かす奴なんていないだろ。」
いてもすぐ死ぬだろうしね。だいたい王族ですらみんなと一緒に働いてんだからさ。
「お、おお、そうかよ……ま、まあ六等星に言うことじゃねえけど、魔物出るから気をつけろよ……マジで」
「おう。ありがとな。警備の邪魔しちゃ悪いからもう行くぜ?」
「お、おお……」
見た感じ七等星かな? 八等星でここに来るのはちょっとキツいだろうしなぁ。それにしても気のいい奴だったな。やっぱ冒険者ってピンキリだよなぁ。




