218、元校長ジャック
荷台から立ち上がったごっつい大男。やはり元校長のエロー先生だ。
組合長も校長も馬車の音がうるさいのによく声が通るよな。
「これは驚きました。まさかこんな所でお会いできるとは。皆さんお元気そうで何よりです。」
「お久しぶりです校長先生。先生もお元気そうで何よりです。」
「じっくりお話しをしたいところですが今は私一人ではありませんので。後ほど街には戻ってくるのですか?」
荷台に何人も乗ってるもんね。組合長は全く気にしてなかったのに。
「はい。戻ります。組合長からも絶対来いと言われてますので。」
「それはそれは、ドノバンが失礼しました。ですが私も楽しみにしております。では後ほど。出してください。」
そうして馬車は行ってしまった。
「いやぁ、いつも思うけど組合長と校長って見た目や雰囲気はよく似てるのに中身は全然違うよね。」
「そうね。愛人が百人と言われる組合長に対して校長は女性の噂ゼロだものね。女断ちをしてるとも言われてるわね。」
「あ、それ知ってる。本当らしいよ。話すと長くなるんだけどさ。うちの母上のお姉さんに関係してるんだって。」
「えっ!? 何それ! 話しなさいよカース君! イザベルおば様のお姉さんってことはゼマティス家ね! すっごく面白そうじゃない! 知りたいわよねっ、アレックスちゃんも!」
「え、ええ、そうね。」
アレクには話した気がするぞ。いや、この話を聞いた時ってアレクもいなかったっけ? どうだったかな……
いや、そもそもこの話って誰から聞いたんだっけな。母上の姉であるイアレーヌさんの息子、つまり私の従兄弟であるコルプスからだったっけ?
「えーっと、話は校長達が現役だった頃まで遡るんだけど。校長や組合長のパーティー『サウザンドニードル』にイアレーヌさんが入るところから始まるんだよね。」
さすがに長いからな。こんな森の中で歩きながらする話ではない気がする。
「伝説のパーティー、サウザンドニードルね!」
それにしてもサンドラちゃんの食いつきがすごいな。これ系の話に食いつくのは大抵は男の子なのに。
「そうそう。山岳地帯にも行ったらしいね。ベヒーモスとか倒したそうだし。」
〜〜異世界金融外伝 〜若き日の校長と謎の令嬢 朱夏の香りは青春の残り火 https://book1.adouzi.eu.org/n3484fq/
を参照〜〜
「…………って感じで校長はイアレーヌさんに惹かれたらしいんだよね。」
「戦場で育んだ愛なのね! でもイアレーヌさんが選んだのはマーシナルさんだったのね! 校長や組合長じゃなくマーシナルさんを選んだところにもドラマを感じるわね!」
サンドラちゃんなら三人とも選ぶんだろうか。我が友ながらおもしれー女だわぁ。
マーシナル・ガルドリアンかぁ。ゼマティス家の護衛を担う家柄なんだよね。今の隊長はマーシナルさんの兄なんだっけ。
「そんなイアレーヌさんもマーシナルさんも二人とも亡くなってるんだよね。従兄弟から聞いたんだけどね。」
二人とも母上に殺されたったのが何だかなぁ。もっと気楽に生きればよかったものを……
〜〜異世界金融外伝 吟遊詩人ノアの苦難と栄光 〜辺境に埋もれた幻の歌 https://book1.adouzi.eu.org/n0493hd/
を参照〜〜
「…………って具合に校長は一途みたいだね。」
自分を選ばなかった女のために操を立てるってのは理解できないけど、校長にとっては一世一代の恋だったんだろうね。理解はできないけど、かっこいいぜ。
「そういうことだったのね! 素敵ね! 痺れるわ! そんな人が私達の校長先生だったなんて! これ演劇になっててもおかしくないのに!」
サンドラちゃんの熱狂が止まらない。警戒もせず歩きながら話してしまったな。
「きっと校長は嫌がるだろうね。むしろ僕らも知らないってことにしておこうよ。」
「うっ、それもそうね……ううぅもったいないわねぇ……」
まさかサンドラちゃん、脚本でも書いて王都あたりの劇団に売り込むつもりでもあったのかい? やるなら私から聞いたって言わないでくれよな。別に著作権なんてないから聞いた話で小説書こうと脚本書こうと法的に問題はないんだけどさ。
まさかあの温厚な校長がブチ切れて殺しに来るってこともないだろうし……
おっ? 話に夢中になってたらここはどこだ? いつの間にやら広いところに出たじゃないか。ここは……?
別名千魔通しジャック。
本名はジャック=フランソワ=フロマンタル=エリ・エロー。




