217、元組合長ドノバン
荷台に立ち上がったごっつい大男。どう見ても組合長だ。変わらないねこの人は。
「どーも組合長。お元気そうで。」
「こんな所までよう来たのぉ! もうグレンにぁ会ったんかぁ!?」
「ええ、さっき挨拶してきました。珍しい客が来てるんで今ごろ宴会してますよ。」
先王をファーストネームどころか愛称呼びするなんて組合長ぐらいだろうなぁ。校長は普通に先王様って呼んでるし。
「珍しい客だぁ? お前ら以上に珍しい客なんておるんかぁ!? よく見りゃジャックんとこのガキらぁもおるじゃねぇか。今からどこ行く気なんじゃあ?」
クタナツ初等学校の卒業生、だからジャック校長のガキってか。面白い言い回しだなぁ。
「特に目的はないですよ。食後の散歩ってとこですね。それより組合長も宴会に混ざったらどうです? 絶対驚きますよ。」
「ほおぉ? ワシが驚くほどの客かぁ。そいつぁ楽しみじゃあ! おうお前らも後で顔出せぇのぉ?」
「ええ。もうちょい歩いたら行くと思います。」
「ぜってぇ来いのぉ? ちなみにジャックはまだ奥の方におるでぇ。」
「分かりました。ありがとうございます。」
「よぉし出せぇ!」
馬車は行ってしまった。相変わらず豪快なおっさんだよ。もう六十代も後半だろ? 元気でいいねぇ。
「あの人が千骨折りのドノバンね。初めて見たわ。噂より強そうね。」
「そう? 噂ってどんな感じ?」
クタナツで上から数えた方が早い強者ってのは知ってるが、噂なんてあったっけな?
「ちょっと肩が当たっただけで骨を折られるとか囲ってる愛人に声をかけただけで鼻を折られるとかかしら。あぁ、それからあの言葉を言うと頭の皮を剥がされるとか。怖いわね。」
「サンドラちゃん詳しいね。頭の皮以外は初耳だけど。」
あの人やばすぎだろ。無法者かよ。あぁクタナツ者か。なら仕方ない。ああ仕方ない。
「なんだかんだ言っても伝説のパーティーに伝説の冒険者だものね。愛人が百人いるとか全娼館の序列一位は全員愛人とか、そっち方面の噂もあったわね。」
サンドラちゃんほんっと詳しいな。そういうのって却って冒険者以外に広まってんのかな? 私が知らないってことはそうだと見た。
「でも今や伝説の冒険者といえばカース君じゃない? いったいどんな噂が広まってるんだろうね?」
スティード君たら……それは持ち上げすぎだぜ。でもアレクが嬉しそうな顔してる。
「組合長のような伝説めいた噂が広まるのはもっと後かしら。今はせいぜい千杭刺しとかグリードグラス草原の焼き払いとかね。王都の動乱での大活躍や不動優勝なんかも広まるまで時間がかかるんじゃないかしら。」
「アレックスちゃんの言う通りね。カース君の場合やってることが桁外れだから嘘くさくて広まりにくいのよ。見た目だってこうだし。存在からして嘘くさいわね。」
アレクが言ってるのは地理的要因なんだが……サンドラちゃんが言ってるのとは方向が違うぜ……
「その上楽園なんてものを作り上げてるし王族の方々とも気安いし。確かに嘘くさいよね。これじゃあ噂になりにくいね。」
セルジュ君まで……ひどいなぁもう。
「その代わり知ってる人は知ってるよね。知らないで恥かくのはそいつらの勝手だもんね。」
おおー、スティード君が何か頼もしいこと言ってる。
「そうね。カースが一人で仕留めた魔物を考えると信じられなくても無理はないけど。知ってる私達からすると気分がいいわね。」
おや、アレクにしては珍しい。ゴシップ好きのどこかの令嬢みたいじゃないか。
「あっ、そういえば王宮の正面玄関の大ホールにカース君が仕留めて王家に献上したっていうヌエの剥製が飾ってあるわ。さすがカース君よね。」
「いやぁ照れるなぁ。あれってかなり前の話だったね。」
確かムリーマ山脈だったかな。ヌエって超素早くて厄介だったんだよなぁ。榴弾を避けるぐらいだし。
あ、また前から馬車だ。避けないとね。
「止めてください。」
優しいけど威厳のある声。あの人だな。




