213、退室するカース
食事は和やかに進んでいく。王宮のようなコース料理というわけではないが美味い。松花堂弁当に近いのかな。仕切りがあるわけではないけど一皿に何種類かの料理が乗っている。それとは別にメインの肉料理が一人一皿。何かのステーキだな。ワインによく合うじゃん。
「それにしても……エルフの存在はもちろん知っていたが、まさかハイエルフなどというものが存在するとはな。魔力量はそこまで桁外れというわけではないが、かなりの人外だということは分かった。世の中は広いものよの。」
「桁外れということならムラサキ殿こそ真の桁外れよの。とても人間とは思えぬわ。儂がハイエルフならムラサキ殿はハイ人間なのではないか?」
ハイにんげん……めちゃくちゃゴロが悪いじゃないか。ハイヒューマンでいいだろ。古い言葉を使ってさぁ。
「我らが祖をそのように言ってもらえるとは嬉しいではないか。せっかく来てくれたのだ。今日のところはとことん話していたいのだが、どうなんだカース?」
私かよ。ここに泊まる気はないから夕方までならいいんじゃないか?
「今日中に楽園に戻る予定ですから夕方までなら大丈夫かと思います。」
「なっ!? か、カースや……泊まっていかぬのか!?」
「ごめんよおじいちゃん。サンドラちゃん達は四月から仕事なだよね。だからあんまり時間がなくて。」
もちろん本当。楽園やクタナツでの時間を考えるとそこまで余裕がないんだよね。
「ぐぬぬぬぬぅ……もうそんな歳か……大きくなりおって。…… ……」
ごめんねおじいちゃん。でも私以外だったら気軽にここに来たりできないんだし勘弁してね。
「よし。そうなると、じっくりと腰を据えて話そうではないか。よし、酒を追加だ。どんどん持ってこい。」
「あ、先王様。よろしければこちらも飲まれてください。王都で買いましたので。」
ここって嗜好品に余裕なんてないだろうからな。提供できるものは提供するぜ。
「ほう。気が利くではないか。ならば摘みが欲しいな。ソッキ、任せたぞ。」
「かしこまりました」
ほう。摘みは側近さんセレクトか。
「では先王様、僕らは退出しますね。そこら辺を散策したいので。」
少し不敬だけど国王じゃないからいいよね。それにさっきからサンドラちゃん達三人がカチコチなんだもん。一言も喋ってないんだぜ? そろそろ解放してくれてもいいだろ?
「む、そうか。仕方あるまい。アントンが困っておるがの?」
私達とも過ごしたいがハイエルフとも喋りたい。悩ましいところだろうけど、つくづくごめんねおじいちゃん。
ちなみにコーちゃんとカムイは動かない。そのまま滞在するのね。酒があるからコーちゃんは分かるけどカムイは? ああ、単にのんびりしたい気分ってだけか。
「い、いえ陛下、そのようなことは!」
「おじいちゃん、ちょっと歩いたら戻ってくるよ。その時はおばあちゃんのお見舞いさせてね。」
薄めたネクタールを飲んでもらおう。
「おお、おお! 頼んだぞ! 待っておるからの!」
おじいちゃんが名残惜しそうな顔をしているが、別に帰るわけじゃないから勘弁してね。
「ぷはぁ……あぁーー疲れたわ……ほんっと勘弁して欲しいものだわ……」
サンドラちゃんの呼吸が荒い。先王とは初対面じゃないけど、やっぱ王族と同じ部屋にいるのって緊張するよね。今からは王太子妃付きの女官になるくせに。
「ほんっとカース君よく普通に喋れるよね。すごいなぁ。」
スティード君だってもう近衞騎士なんだからね。王族は身近だろ?
「サンドラちゃんもスティード君も四月からは王族の方々と間近で接するわけだし。この機会に慣れておくって手もあるね。」
セルジュ君は他人事だと思って気楽に言ってるな。はたして他人事で済むかなぁ?
「それより、せっかく来たんだから隅から隅まで歩いてみましょうよ。なかなか来れない所だもの。」
さすがアレク。建設的な意見だね。
「そうね。そこまで広い村じゃないけど、しっかり歩いてみるだけでもきっと楽しいよね。」
楽園あるあるかな。そりゃまあここは楽園じゃないけどさ。




