212、示威・威圧・懐柔・籠絡
たった数秒なのに、やけに長く感じるなぁ。誰か何か喋れよ。
「なんだ。てっきりカース殿の前だからと無理して空元気かと思えば。全く問題ないではないか。健康なのはよいことだのぅ。」
あら、マジで元気なんだ。それならよかったけど。
あ、村長もう着席してる。速っ。
「先王様。見張りの方からは体調を崩して静養されてると聞きまして。それでお見舞いに来たわけですが、お元気なんですか?」
「くくく、ちと故あってな。こちらにも都合があるということだ。だが、お前の気持ちは嬉しく思うぞ。それにしても、まさか余がああもあっさり背後を取られるとは。ハイエルフとは武芸も卓越しておるのか。」
「ふっ、そうでもないぞえ? ただの魔法だて。カース殿なら分かるのではないか? はぐれめが使っておったからの。」
はぐれが使った魔法? 何だっけな……あ!
「マジで? 村長も使えるの? 超加時速って言ったっけ?」
時の流れをいじくる魔法だろ? そんなことできたら無敵じゃん……しかもこの村長ときたら詠唱どころか魔法名すら言わずに使いやがって。マナー違反だぜ?
「そういうことよ。だがよかったのぅ。こちらのご仁は健康だわい。さすがはムラサキ殿の子孫よの。」
「やれやれ。手も足も出ぬではないか。これがハイエルフか。どこまでも興味深いな。ところでちと早いが昼食にせぬか? アントン達も呼ぶゆえな。」
ほう。すっかり先王を懐柔しちゃったか。懐柔ってよりは籠絡? 威圧と示威も込みかなぁ。やっぱこの村長バケモンだわ。
それよりおじいちゃん元気かなぁ。先王より歳上だろ? 健康が気になるぜ……よし、村長に診てもらうか。
おっ、ようやく護衛が剣から手を離した。彼も大変だよなぁ。先王は自分より何倍も強いだろうし周りは化け物だらけだし。
「カース! アレックス! うおおおおおよく来たのおおおお!」
いきなりおじいちゃんが現れた。めっちゃ元気そうじゃん。まあ前回から二ヶ月だしね。そうそう変わるものでもないはずだ。ふふ、私とアレクをまとめて抱きしめようとして手が回りきれてない。いつも通りだね。
でも、あれ? 背はこんなに小さかったっけ?
「おじいちゃん元気そうだね。よかったよ。」
「力が漲ってますわ。またお会いできて嬉しいです。」
「うむうむ! お前達も元気そうだのう。むっ! スティードにセルジュにサンドラ! お前達も来ぬか!」
さすがおじいちゃん。孫に目がない。
「ご無沙汰しております。あの時は大変お世話になりました。」
「お久しぶりです。お元気そうで何よりです。」
「大変お世話になっております。ゼマティス卿のこの地でのご活躍、カース君から何度も聞き及んでおります。」
おやサンドラちゃん。やけに挨拶に力がこもってるね。
「こらっサンドラ! 儂はもうゼマティスの当主ではないわぁ! ちゃんとおじいちゃんと呼ばぬか!」
ふふふぅ。そもそも当主だった時もおじいちゃんと呼ばせてたくせに。孫の友達はみんな孫か。いつものおじいちゃんだねぇ。
「はい! ごめんなさいおじいちゃん。いつもありがとうございます。」
「うふふふ。分かればよいのじゃ。おお陛下。今日は顔色が良うございますぞ。カース達が来たからに相違ありませぬな。」
「そういうことにしておこう。ところでアンヌはまだか?」
そうだよ。おばあちゃんは? 前回だって顔見てないんだぞ?
「いやぁ申し訳ありませぬ。少々体調がすぐれぬようで。ちと横になっておりますわい。」
なん、だと……
「ちょっ、おじいちゃん! それマジで!? 今良いもの持ってるから! 届けるよ!」
高齢の病人にネクタールってどうなんだろう。薄めれば大丈夫じゃないだろうか……
「カースや。焦らずともよい。儂らはもう歳なのだ。体調が悪い日とてあるわい。それに陛下の御前じゃ。途中退席するつもりか?」
「これアントン。余はもう陛下と呼ばれる身分ではないぞ? 途中退席するもせぬも自由だわい。それに見舞いに来たくれたのであろう? ならば昼食後にテレジアから頼むぞ?」
え……?
「あの、もしかして体調を崩されてるというのは王太后様のことだったのですか?」
「そうだ。もっとも余とてこうして引っ込んでおる理由もあるのだがな。まあそれはよい。ほれ、料理が届いたぞ。まずは食べようではないか。なあアントン?」
「陛下のおっしゃる通りです。せっかくこれほどの人間が集まったのですか、んんん!? こ、こちらの方は、もしやエルフで!?」
やっと気づいたか。おじいちゃんにしては注意不足だぜ? まあ私達に夢中だからってのは分かるが。愛すべきおじいちゃんだねぇ。長生きしてくれよ?
「カース殿のご祖父か。儂はフェアウェル村の村長をやっておるハイエルフのエーデルトラウトヤンフェリックスと申す。気軽に村長とでも呼ばれよ。」
「ドワーフのフレッグヴィズルヨルゲンだ。魔王の領地で暮らしている。フレッグと呼んでくれ」
「え、エルフに……ドワーフ、じゃとぉ!?」
そりゃあびっくりするよなぁ。この場所ならエルフがいるのはそこまでおかしくはないけど、いくら何でもドワーフは予想外すぎるもんな。
「これアントン。まずは食べようではないか。では、皆の者。ノルドフロンテへよく来てくれた。本日の出会いに、乾杯!」
「乾杯!」
「乾杯!」
「ピュンピュイ」
「ガウガウ」
昼前から酒ってのも悪くないよね。アルコール度数は低そうだし。
ノルドフロンテの平和に乾杯。




