206、珍しい二人
村長とちびちび飲みつつ話してたらもう朝か。村長の武勇伝おもしろかったなぁ。ド紫のヴェノムドラゴンを一撃で仕留めた話とか超硬いブラックアースドラゴンの額に穴を空けた話とか。聞いてて楽しかったわー。やっぱこの村長化け物じゃん。
いつの間にやら周囲の嬌声も消えてるし。代わりに小鳥の鳴き声が聞こえてくる。風流でいいねぇ。
あ、これがいわゆる朝チュンってやつか?
「村長はどうする? ひと眠りする?」
「そうさの。今日も仕事があるでな。少し休むとするかの。カース殿はどうするかえ?」
「散歩でもするよ。朝の空気が気持ちいいからね。」
だって全然眠くないんだもん。おかしいな……
「ならば昼はうちで食べようではないか。待っておるからの?」
「分かった。行くよ。」
となると昼まで何しよっかなぁ。アレクの寝顔を見ながら過ごしてもいいんだけど。ついノリで散歩するって言ってしまったことだし、散歩しよっかな。たまには一人で歩くのも悪くないし。
と思ったらあいつは……
「おはよ。早起きじゃん。何してんの?」
「おお、魔王か。なに、目が覚めたものだから散歩でもしてみるかと思ってな。お前も早いではないか」
ドワーフのフレッグだ。ドワーフにエルフの飲み薬って効くんだろうか?
「俺は寝てないからね。なぜか眠くなくてさ。」
「ほう。昨夜のあの薬のせいか?」
「いや、たぶん違うね。現にアレクはよく眠ってるしね。」
そうなると原因は一つ。昼間のあれだろうなぁ。
「ふむ。そういうこともあるか。我もあれを飲んでみたのだが、魔が体に充満したぐらいで眠れないということはなかったな。むしろ快眠で今はすこぶる体調が良い。魔王には礼を言うことだらけだわい」
エルフの飲み薬は私の功績じゃない、と言いかけたけど思いっきり私の魔力だったな。
「元はと言えばうちの狼ちゃんのわがままだったんだけどな。まあ、おかげでみんなにも喜んでもらえたみたいだし。」
「村長殿はあれを『えりくさあ』と呼んでおったな。普段は単に『飲み薬』と呼ぶそうだが。元は同じでも別物らしいな」
そう。それちょうどさっき聞いたんだよね。万能薬的な使い方をする『エルフの飲み薬』と『恵利久沙亜』は原料はどちらもイグドラシルの結晶だけど村長の匙加減ひとつでどちらにでもできるとか。昨夜みたいにイベント的な使い方する場合は恵利久沙亜にするってわけだ。本来なら百年に一度のお祭りだったはずが私のおかげで思いがけず開催できたそうな。
「そうらしいな。あの分じゃあ他にも違う薬が出来そうじゃん。まったく、あの村長どうなってんだろうね。凄すぎだわ。」
「それを言うなら百年に一度しか実らぬはずのイグドラシルに実を結ばさせた魔王もとんでもないな。さすが我らの救世主ではないか。エルフにとっても英雄ではないのか?」
あらま。嬉しいこと言ってくれるじゃないの。
「さすがに違うって。エルフには恩があるから少しでも返したいだけだって。」
「恩か。聞いたぞ。何十日と意識を失うほどの魔力を絞り出したそうだな。どこまでも我を痺れさせてくれるではないか」
そこまで知ってんのかよ。多少の齟齬はあるけど、まあ問題ないだろ。
「姉が死にかけだったもんでさ。やるしかなかっただけだって。」
もう一度やれって言われたら迷うけどね。魔法を失うのは恐ろしすぎるだろ。
「ほう。姉のためか。肉親といえど他人。自分以外のために命を賭すことができるとは、さすがだな」
「勢いでやっただけだよ。またやれって言われても無理だぜ?」
「ふふふ、その割に我らを救ってくれたではないか。一国を敵に回して何の得にもならぬであろうに。」
「得ならあったさ。がっぽりとな。」
宝玉とか貰ったし。そもそもドワーフを大量に手に入れちゃったしね。これもう楽園は発展するしかないよね。まあ発展というか私にとって便利になってくれたらそれでいいんだけどさ。
「ふふ、そういうことにしておいてやろう。ところで、どこに向かっておるのだ?」
「いや、特に決めてないけど。適当だな。えーっと、このまま真っ直ぐ行くと……」
あぁ、あそこに行く道か。
「行ってみようぜ。エルフの聖域みたいな所があるからさ。」
「聖域だと? 我々などが立ち入ってもよいのか?」
「ああ問題ない。どうせ入れないしな。散歩にはちょうどいい距離だし。」
「ほうそうか。興味深いではないか。」
では行こうか。始祖エルフが眠る強固な社へ。




