190、別行動
さて、翌日。
サンドラちゃん達は好奇心を抑えられず蟠桃を求めて魔猿の園へと向かってしまった。案内はアレクで護衛はカムイ。まあメインで戦うのもカムイだけど。もちろんスティード君とセルジュ君も一緒だ。おまけで舎弟エルフも一人いるので戦力的な問題はないだろう。
よってこっちに残っているのはコーちゃんのみ。舎弟エルフが一緒なのでアレクの道案内は必要ないんだけど、まあ心配なのだろう。あそこは危険だもんね。アレクったら優しいんだから。
「ではカース殿、こっちだ。期待しておるぞ?」
「一応確認ね。魔力はこれぐらいでいい?」
村長の手の平に魔力を流す。水滴をわずか一滴分。まったくもう。無茶させるんだから。
「うむ。さすがはカース殿。問題ないの。その調子で頼むぞ?」
村長宅から一旦外に出て、庭にある小屋へと入る。へぇ、軽く結界が張ってあるのか。さすがはハイエルフの酒蔵だね。
『浄化』
結界まで張ってあるんだし必要ないとは思うが、一応マナーってことで。
「ほほ、気を遣わせたの。ちなみにこの結界は内部の環境を一定に保つ効果があっての。もちろん清潔さもの。ゆえによほど汚れた者でない限りそのまま立ち入っても問題ないというわけよ。」
「へー、すごいね。おっ、涼しいね。」
地下だから当たり前なんだろうか。深さ的には地下二階って感じかな。クリーンルームってわけか。普通はそれなら余計にきれいにしてから入るべきなんだが、ここのは勝手に消毒されるってわけか。あ、酒造りに必要な菌まで消毒されたりしない? まあ村長のことだしそこら辺は抜かりないだろうね。
「さあここだ。この部屋にある全ての樽に魔力を流してもらえるかの?」
地下通路を進み、右側の扉を開けると中には一面の酒樽。一つで五百リットルはありそう。それが二百もあるってわけね。こりゃすごいな。
「ピュイピュイ」
コーちゃんが興奮してる。
「ほほ、精霊様に後ほど他の酒をお飲みいただきますでの。」
「ピュイッピー」
ふふ、ご機嫌になった。私も楽しみにしておこう。
「ではカース殿、頼んだぞ。儂は他の部屋におるからの。」
「分かった。終わったら顔を出すよ。適当に触って魔力を流せばいいんだよね?」
「そうとも。樽に手を触れての。」
どんだけ時間がかかることやら……
とりあえず重複を避けるために、端から攻めていこうか。
では、一つ目。樽の側面に手を触れて……
『魔力放出』
よし。ぴったり水滴を一滴分。これを二百回やるのか……ハードな一日になりそうだな。
その頃アレクサンドリーネ達は……
「お前らさぁ、兄貴なしで大丈夫なんかぁ? まあ俺も狼殿もいるけどよぉ」
「大丈夫よ。行きと帰りはあなたが操作してくれるんだし。魔力を使い果たしたとしても帰りの心配はしなくていいもの。」
カースの舎弟エルフの一人、ブラージことブラージウスツベルトゥスコストが飛ばしているのはカースのミスリルボードであった。カースほどの速度は出してないものの、きちんと水平を保ちわずな揺れもない。アレクサンドリーネ達の魔法とは格の違いが見てとれた。
「ふーん、まあ兄貴からも行き帰りのことしか頼まれてねーしな。まっ、カカザン以外とは戦うとは限らねーしな。あの猿どもが全員で襲ってきたらちっとばかりやべーからよ」
「そうね。全部で何匹いるのか分からないけど、囲まれて逃げられないって事態は避けたいものね。期待してるわよ?」
「あぁ? 俺に上手いこと逃がせってのかぁ? そらまぁそんぐれーならやってやるけどよぉ。突破口は自分らで開けよぉ?」
「いいわよ。頼りにしてるわね?」
「それよりブラージさん。どんな経緯でカース君の舎弟になったの? えらく心酔してるみたいだし。すっごく興味深いわ。」
「あぁ? 兄貴から聞いてねーんかよ?」
「ええ。カース君は、なんかいつの間にか舎弟になってた。としか聞いてないわね?」
「んだそりぁ? 仕方ねーなー。そんなら話してやんよ。つーかお嬢も知らねーのか?」
「知ってるわよ。カースったらサンドラちゃんに聞かれた時はもう忘れてしまったみたいだもの。でも、私も改めて聞きたいわ。あなた達からはどう見えていたのかすごく気になるもの。」
「ほーん、そんならやっぱ仕方ねーな。話してやるかぁ。ありゃあ何年前だったか、人間のくせにイグドラシルの実を使うって奴がいてなぁ…………」
ブラージウスツベルトゥスコストは語る。仲間と三人がかりでカースを襲ったものの、一切通用せずに反撃もされなかったあの出来事を。ずたずたに殺す気で魔法を撃ち続けるも全く効かず、ついに魔力が空になり倒れ伏したあの日を。
彼はどこか誇らしげな顔で話し続けた。




