189、一滴分の魔力
うう……痛い……
辛うじて顔への直撃は避けてるが、胸や腹にはいくつも食らってる。スティード君の剛腕パンチを。脇腹には蹴りも食らったし。うぅ……肋とか折れてないよな?
私だってぶん投げてやろうと本当の意味での組打ちに持ち込んだりもしたが、肘や膝がぶんぶん飛んでくるんだもんなぁ。どうにか一本背負いで投げたりもしたがスティード君たら落ちる寸前に蹴ってくるんだからさぁ。下手すれば頭から落ちてたぞ? こっちも危うく頭を蹴られるところだったけど。ほんとスティード君って後先考えてないんだからさぁ……戦闘マシーンかよ。
最終的には私のタックルがどうにか上手くいってスティード君を倒すことはできた。そのまま首筋に指先を当てて私の勝ちとしたが。
一勝六敗って感じだけどね……
「もうすぐ日が暮れるというのに元気なことよ。ソンブレア村ではご苦労だったようだの。エルフ族を代表して礼を言うぞ。」
「やあ村長ただいま。ところでこれ治してよ……痛くてさぁ。」
ソンブレア村の件は私達が道楽でやったことだしね。村長が恩に着ることじゃないさ。
「ほうほう。いや、カース殿は後回しだの。そちらが先だて。」
あらそう? 村長がスティード君の額に手を当ててる。魔力を流して診察してるのね。
「ふむ、一見無傷に見えるがあちこちの関節に負担がかかっておるな。無茶な動きをしたのではないか? 人間とは不条理な動きをするものよな。」
「助かります。カース君の相手をするわけですから尋常な動きでは勝てませんので。」
そんなわけあるかーい。まあ私も多少は関節技使ったけどさぁ。スティード君って本気で折るつもりでかけても力技で抜けたりするからなぁ。つくづく若手ナンバーワンだわ。
「ほれ。治ったぞ。関節は大事にすることだて。ではカース殿、待たせたな。」
「ありがとうございました!」
全然待ってないよ。
「悪いね。ありがたいよ。」
「ふむ、見た目通りだな。ほれ、治ったぞ。」
「おっ、ありがと。さすがに早いね。うん、全然痛くない。」
サービスで浄化までしてくれちゃって。汗びっしょりの泥まみれだったからね。ふぅー、すっきり爽やかだよ。うん、いい気分。
『換装』
いつもの服装は落ち着くね。籠手と脛当てまで付けると一気に重くなるけど。
「さて、それでは夕食がてらソンブレア村でのことを聞かせてくれるか? あやつらからあらかたのことは聞いたがの。」
ならそんなに話すことないぞ……あ、村長へのお土産ならある。どこかの森で捥いだ実。食中植物が餌として吊ってる美味しい実なんだぜ? 特に中の粒々が美味しいんだよね。
「とりあえずこれお土産ね。あんまりないから村長だけに。」
「ほう。グレナーデの実か。カース殿にかかってはあの危険な森も関係ないようだの。」
見た目はザクロっぽいんだよね。味もだけど。じゃあそれもうザクロじゃん。でも種はないんだよね。食べやすくていいね。
ほふぅ。村長宅の料理おいしかったなぁ。ハイエルフ煮込みって感じだろうか。具は多いしほんのり味噌味だし食欲湧いちゃうよね。腹いっぱいでもう入らないよ。
「ところで、明日の予定は何か決まっておるか?」
「いやー特に決まってないけど、蟠桃を捥ぎに行こうかとは思ってたよ。何かある?」
カムイが少しそわそわしてるし。
「なに、大したことではないわえ。ちとカース殿に魔力を込めてもらえぬかと思っての。」
「いいよ。何に?」
そのくらいやるに決まってるじゃないの。今の私は魔力満タンだぜ?
「酒よ。儂が作っておるな。そのうち半数にごく僅かの魔力を込めてもらいたくての。」
「ごく僅か? それはまた気になるね。ちなみにどれぐらい?」
「これよ。ぴったりの。」
マジかよ。村長が私の手の平に流した魔力は……初級魔法『水滴』で言えば一滴か二滴。いくら私が繊細な魔力制御が得意でも難しいぞ……消防ホース全開でお猪口に水汲むようなもんじゃん。まあ、できなくはないけど……
「このぐらい?」
村長の手の平に魔力を流す。水滴を二滴分だぜ?
「おお、さすがはカース殿。ここまで微細な魔力を出せるとはの。これなら安心だて。明日は頼んだぞ? 樽はざっと二百はあるからの。」
マジかよ……
できるよ? そりゃあできるさ。精密制御は魔法の基礎だからな。私だって得意な方だ。でもねぇ、それって私が一番得意なごり押しと対極なんだよね。つまり、かなり疲れるんだよ。
今のだってそう。魔力的には何も使ってないのとほぼ同じ。全魔力の一厘の一厘の一厘もない。だからってねぇ……
ほんっと、この村長人が悪いぜ。私を鍛えようとでもしてくれてるんだろうか。ミスって魔力を込めすぎたら酒が腐ったりしない? 大丈夫?
「いいよ。楽勝だよ。」
魔力量的にはね。ほぼゼロだよ……
針の穴に糸通しノーミスで二百連発か。やってやるぜ。




