148、闇稽古
『闇雲』
これぐらい自前でやるさ。
うっわ、マジで何も見えない。スティード君たらこんなのよく避けたよなぁ……
痛っ! くっそ、脇腹をかすめたか……
やっぱ難しいな……私はこれでも無尽流でそこそこ修練したんだけどなぁ。集中しよ……
ふぅ……痛いぞちくしょお……
どうにか致命傷は避けてるものの、まだまだ私の反応が遅い。
ぐおっ、痛ってぇ! つい手で防いでしまったが今のは防がないと腹を貫通するレベルだったな……左手にざっくり突き刺さってるし……うー痛い。
はあはあ……そろそろいいだろ……
『闇雲解除』
うおっ!
あーびっくりした。解除した瞬間目の前に氷の刃が迫ってたじゃないか。危うく両目をざっくりと斬られるとこだったぞ……
「おーい兄貴ぃー! もう終わりでいいのかーー?」
「ああ。終わりだ。あと早く直してくれよ。」
全身痛くてたまらないんだからさぁ。
「あー! カース君すごい! 最後まで立ってるなんてさーー!」
「スティード君の時とは条件が違いすぎるからね……」
私の方が何倍ぬるいんだって話だよ。それに下半身は脱いでないんだからさ。無敵の防御のままなんだから。
「それでもすごいよぉー! どう見ても致命傷受けてないし!」
ぎりぎりだけどね……
左の前腕がざっくり突き立ってんだけどさ……これ放っておくとアウトなやつだよ。
「よーし治ったぜー! それにしても兄貴も酔狂だよなぁ? 宴会の最中になーにやってんだぁ?」
酔ってるから酔狂なのも当然か? スティード君ほど酔ってはいないけどね。
「スティード君は酔うと稽古を始めたがるもんでな。ついつい一緒にやりたくなるってだけさ。お前らもやるか?」
「嫌に決まってんだろー! あんなの死ぬって! 人間ってすげえんだな……」
人間がすごいってよりスティード君がすごいんだよ。そしてフェルナンド先生ならあの十倍撃ちまくっても無傷だからなぁ。無尽流がすごいのか?
「カース君カース君! じゃあさじゃあさ! 次は闇雲内で模擬戦やろうよ! 絶対いい稽古になるよ! ねっ! ねっ! ちょっとだけでいいから! ねっ!」
本当に酔狂がすぎるだろ……
「いいけど手加減してよね……」
「えー? したら負けちゃうじゃーーん!」
そんなわけないだろ……
「あと、スライムソード持ってない?」
小さい頃はそれ使ってたんだよなぁ。当たっても怪我しないやつ。痛いことは痛いけどさ。
「あー、さすがにないよぉー。昔持ってたやつはとっくに壊れちゃったもんだもーーん!」
うーん、さすがスティード君だ……どんだけ稽古してんだよ。
「仕方ないから木剣出してくれる? 少しいじくるからさ。」
「いいよー、はい!」
『風壁』
風のクッションを纏わせた。これなら頭部を直撃してもまあ脳震盪で済むだろ。脳みそぐちゃっとはなるまい。
私も稽古用の木刀に『風壁』
うん。これいいな。多少空気抵抗が増したけど重さは変わってないし。遠慮なく振り抜けそうだ。でもこれ振るとそこそこ音が大きいかも……スティード君を相手にするにはきついか……
うっわ、スティード君の素振りがやべぇよ……ぶおんぶおん言ってる。首にくらったら骨折れそう……
私達ときたら卒業旅行で遥か遠くエルフの村までわざわざやって来て宴会開いてもらってる最中だってのに何やってんだ……
そりゃあ泥酔したスティード君は見たいけどさぁ……
「よーしやろうか! どっちかが疲れるまでね!」
それ絶対私だけどさ……
『闇雲』
「では開始ね。」
『換装』
ブーツと靴下と脛当てを収納した。足音を消すためでもあるし、蹴りも使いたいからね。あのブーツでの蹴りが当たったら勝負にならないし。
危ねっ! もう来た! 脳天狙い、いきなり終わるとこだったぞ……そこか! くっ……
横薙ぎで胴狙いの私に対して剣が合わせられた。ということは……そこかおらぁ! よっしゃ手応え、いや足応えあり! 横蹴りを腹狙いでぶちこんでやったからね。スティード君の強靭な腹筋をぶち破るってわけにはいかないだろうけど少しはダメージあったんじゃないかな。
さあ、これで間合いが離れた。再び探り合い……うわっ! 探り合いどころかこっちの位置ばればれかよ! ぴくりとも動かなかったのに! あ、動かなかったからか。いてっ! 肩に打ち下ろし。くっ、そこか! いない……
ゆっくりと、足音をたてないように移動する。木刀を正眼に構えたまま。遠くからアレクのバイオリンが聞こえる……みんな楽しそうに宴会してるのに何故私達はこんなこと……そこだ!
手応えあり! アレクのバイオリンの音が何かに遮られたからね。チャンスだ。猛攻でいくぜ! おらおらおらおらぁ! 決めるぜ十連コンボ!
だめか……ことごとく防がれた。しかも鍔迫り合いの態勢になっちまってる……
これはやばい……スティード君の得意な型だ。ほぼ全力で押し返してるが、びくともしない。
普段ならここから力を抜いたりして相手を誘導するんだがスティード君相手にそれは危険すぎる……
どうしよう……




