91、村長からの贈り物
ふあぁ……朝かな……
よく寝た気がする。ん? やけに布団が乱れてるな……そういえば昨夜って何してたっけ? アレクと風呂に入ってたことは覚えているが……風呂から上がってアレクを可愛がろうと思っていたのだが。
この乱れた布団、一糸纏わぬアレク。つまり、眠っている間にアレクが私を襲った? 悪い子だ。しかし布団や私の体に事後の体液的な汚れは見当たらない。遊んだ後はきちんとお片付けしなさい的な? 来た時よりも美しく的な? アレクはしっかりしてるなぁ。布団は乱れてるけど。
「ガウガウ」
おぉカムイおはよ。腹がへったんだな。あれ? コーちゃんは?
「ガウガウ」
見てないの? あ、もしかして……
広場に様子見に行きたいところだが、こんな状態のアレクを一人で残してはいけないな。カムイ、見てきてくれよ。たぶんまだ宴会やってるぞ。ついでに何か食べればいい。
「ガウガウ」
心配性だと? 私のは用心深いって言うんだよ。いいから行ってこいって。
まったくもう。普段ならカムイかコーちゃんが付いててくれるからいいんだけどね。起こす気も一人にする気もない。
さて、アレクに布団をかけて……もうひと眠り。アレクの寝顔を見ながら……夢心地。
…………全然眠れん。なんだかめっちゃ快眠した後みたい。全然眠くないや。まいっか。こうしてアレクの寝顔独り占めだし。ふふふ、よく寝てるなぁ。かーわい。少しいたずらしちゃおっかな……
いや、やめておこう。時には我慢することもいいスパイスなのさ。今夜は楽園に帰ることだし。あそこの私達の寝室なら、邪魔が入ることもない。思う存分……ふふふ。
「ピュイピュイ」
おおコーちゃん。ずっと起きてたのかな?
「ピュイピュイ」
村長が呼んでるの? 分かったよ。じゃあコーちゃんはここでアレクのお守りを頼める?
「ピュイピュイ」
うん。頼むね。じゃあ行ってくるよ。
やっぱエルフ達は飲み続けていたんだな。細い体してるくせに体力あるじゃん。いや違うな。きっと魔力が高いせいだよな。宮廷魔導士を上回る歴戦の魔法使い達だもんなぁ。
「おはよ。調子どう?」
「おおカース殿。昨夜はお楽しみだったようだの。儂は元気だとも。カース殿が提供してくれた芥子毒牙虫が思いのほか旨くての。こやつらは見ての通りだが儂はこの通りよ。」
ふーん。確かに起きてるのは村長だけか。口から泡吹いて倒れてる奴もいれば安らかに眠っている奴もいるのに。やっぱハイエルフは違うってことか。
「それで、何かあった?」
アレクが起きたら帰るからさ。その前に話しておきたかったってとこか? 私はジジババに好かれるタイプだからな。
「なぁに大した用ではないわえ。ほれ、嬢ちゃんに渡す前にカース殿の意見を聞いておこうと思うての。」
お? 村長が魔力庫から取り出したのは宝石……いや原石か。
「右から金剛石、金緑紅石、灰簾菫石、血玉髄石、透輝翠石だの。嬢ちゃんはどれが好みかの?」
おお……でっか……どれも私の拳ぐらいあるじゃん。
金剛石はダイヤモンド、金緑紅石はアレクサンドライト、どちらもくっそ高いやつだね。
灰簾菫石はタンザナイト、外では澄んだ群青色、魔法の光に照らされた場合は高貴な紫に輝くと言われているな……悪くないね。
血玉髄石はブラッドストーン、濃い緑に赤い斑点が散らばっている。不思議な雰囲気してるな。
透輝翠石はダイオプサイト……見た目は薄い緑の水晶って感じかな。澄んでてきれいじゃん。うーん、どれもきれいなんだよな。迷う……
そりゃあアレクには金緑紅石が似合うに決まってる。昼と夜でがらりと色を変える魔性の宝石だ。アレクらしい。
それなら灰簾菫石もそうだけどね。でも昼と夜で大幅に色を変えるわけじゃないしな。夜は高貴な紫か……ローランドの王族の色だな。アレクに相応しい気もする。
そして気になるのが……金剛石だ。ローランド王国に結婚にあたって指輪を贈るなどという習慣はないが、私はアレクに指輪を贈りたいんだ。今のところ候補としてはオリハルコンを考えている。でも、それに合わせる宝石が未定なんだよなぁ。やはり金剛石、ダイヤモンドが相応しい気がするんだよね。永遠の輝きって言うしね。ローランドで最も高い宝石でもあるし。
よし……決めた。
「金剛石を俺にくれない? アレクには灰簾菫石が良さそうかな。」
「ほう? カース殿も欲しいとな? まあよかろう。ほれ。」
あっさりかよ。このサイズの原石となると、王都なら白金貨十枚は超えるだろうな。そこから加工も入れたら白金貨で十二枚ぐらいだろうか。それを野球のボールぐらいの気安さで手渡してくれちゃって。
「ありがとね。じゃあこれおまけね。」
毛虫の二級品を少し出しておく。村長がジャンキーになったら笑えないけどさ。
「ほっほう。貰っておこう。それにしてもカース殿よ。そなたは不思議な男よの。」
「そう? 俗物だと思うけど。」
自分じゃ魔力でごり押しするしか能がないと思ってるけどね。でも服装のセンスはいいと思うぞ? ローランド王国で一番おしゃれなのって私じゃないだろうか。
「くくく、俗物ならばもっと計算高いことをしてそうなものだがの。例えばこれらの原石の産地を探るとかの? 聞きもせぬではないか。」
「いや、それは面倒だから。」
「くくく、面倒かよ。それ一つでかなりの価値があろうにの?」
原石なんてわざわざ自分で掘るもんじゃないだろ。誰かが手に入れたのを貰えばいいんだよ。今回のように。または迷宮だとボスを倒すって手もあるしね。
それにしても思わぬラッキーだったな。拳大の金剛石。どうしようかな。王都にもいい職人がいるって話だし、いずれ頼むことも視野に入れておこう。
ダークエルフのクライフトさんに頼んでもいいけどさ。
あ、それともムラサキメタリックに灰簾菫石を合わせた指輪なんてどうだ? 紫同士で面白いかも。でもちょっとばかり趣味が悪いかな? 全身紫の勇者ムラサキじゃないんだから。やっぱ普通が一番だよな。金剛石は普通じゃないけど。
やっぱ来てよかったかな。色々あったけど私の中でエルフ好感度は元通りだし。私ってチョロいな。




