88、目覚めたアレクサンドリーネ
私とアレク、コーちゃんとカムイが霊廟を出る。その後から村長も外に出た。
最後に村長が出ると、外の扉は自然に閉まる。それが当たり前であるかのように。
「あ、そうだ村長。アレクに魔力を頼むよ。満タンで。」
「よかろう。」
当然だよな。なんかもう敬語使う気もなくなったし。別にタメ口でいいよね。セブンティーンの私が六百歳オーバーのハイエルフに……良しとしよう。村長も他のエルフも気にしてないみたいだし。
「ほれ。嬢ちゃんの限界まで入れておいたぞ。」
「ありがと。で、村長さぁ。結局俺らを巻き込んだ本当の理由は? もう怒ってないからぶっちゃけちゃってよ。」
「ぶっ? ちゃけ? よく分からぬが洗いざらい話せと言いたいのか?」
「まあ、そんなとこ。霊廟の警備とかアンデッドの捜索とか意味あったの?」
「さあのぉ? その辺りはアーダルプレヒトに任せておったからの。どうなんじゃアーダルプレヒト? 意味はあったのか?」
あ、そうか。この村長も丸投げの使い手だもんな。
「あった。カース達がはぐれ共を追い詰めたからこそ今日の結果がある。無事に終わったことこそが何よりだ。つまり大いに意味はあった。違うか?」
アレクは無事とは言いがたいけどな……そりゃあ傷ひとつなく治ったんだろうけどさ……
「確かにの。つまり我らが無事に儀式を終えることができたのはカース殿のおかげに違いないの。やはりカース殿は我らフェアウェル村の友人に違いないわえ。」
ん? 何かめちゃくちゃ持ち上げられてない? ご機嫌取りか!? うまくごまかされてる気もするが。それならまあいい。いや、よくはないけどさ。
「村長さぁ。アレクに何かくれるって言ったよね? 宝石ある?」
「宝石か。もちろんあるぞえ? 何なりと言うてみるがよかろうて。」
「いや、それはアレクが起きてからで。もしアレクの心に傷でも残ってたら許さないけどね。」
その時は禁術使ってでも治してもらうぞ? 心に入れる禁術があるんだからな。
「ほう? 嬢ちゃんの心はそんなに弱いとは思えぬがの。まあよかろう。その時はどうにかしてやれんこともない。もっとも、心の問題に確実な解決法などないぞ?」
分かってるよ……重々さ。
そしてアレクの心が弱いわけないだろ。絶対私より強い心を持っているんだからさ。
村の広場にまで戻ってみれば、すでに大量の料理が用意されていた。毎年恒例の行事なんだもんな。
「ピュイピュイ」
「ガウガウ」
ああ。こっちは気にしなくていいよ。楽しんでおいで。
私は村長宅に戻る。アレクが目を覚ますまで傍を離れる気はないからな。
村長宅の客間。ベッドにアレクを寝かせる。それから服を脱がせて体を確認する。手を上げて、足を開き、背中まで念入りに確認する。
うん。大丈夫だ。傷ひとつない。とりあえずひと安心かな。アーさんは魔力が枯渇ぎりぎりだったろうによく治してくれたよな。エルフ好感度またまた回復。
『浄化』
よし。きれいきれい。こんなことしなくてもアレクはいつもきれいだけどさ。
「ん……んん……」
おっ、目が覚めるか!? ついアレクの手を強く握ってしまうじゃないか。
おお! 目が開いた!
「カース……?」
「おはよ。気分はどう?」
「悪くないわ……やたら魔力が漲っている気がするし……」
村長が満タンにしてくれたんだもんな。
「何か飲む? 蟠桃を搾ろうか?」
「それいいわね……飲みたいわ。」
「よし。待っててね。」
魔力庫から蟠桃を取り出して……『水滴』で軽く表面を洗って……
『風壁』で囲ってから『重圧』
皮ごと潰すのがポイントさ。で、このままだと濃厚すぎて飲みにくいから……冷たい水で割る。そして最後に『水操』でシェイク。こうすると口当たりが良くなるんだよね。他の果汁を混ぜてもよかったけど、蟠桃だけの方が疲れた体には効きそうな気がするんだよね。
「んっ……ふはぁ……冷たくて美味しいわ。それに後から甘みが追いかけてくるの。蟠桃の圧倒的な甘さって時に暴力的でもあるのに、この飲みやすさったら。最高だわ。ありがとう。」
「どういたしまして。」
私も飲もう。んー、最高。甘くて蕩けそうだね。これを盗まれたらそりゃあカカザンもブチ切れるよね。ごめんね。
「それより、あの時って私……」
「覚えてる? 長老衆の一人にはぐれダークエルフが成りすましてたんだよ。」
あれは擬態とかそんなレベルじゃないな。禁術で本人に乗り移ってたわけだし。怖っ……
「え、ええ。」
「で、そいつが危険な禁術使いでさ。村長でも目で追えないレベルで速く動きやがってさ。一瞬でアレクの全魔力を抜いてから人質にとったってわけ。」
「そうだったのね……確かにあの後急に目の前が真っ暗になった気がするわ……」
「だから僕があいつを痛めつけておいたよ。アレクにも少し傷が付いちゃったけど。ごめんね。アーさんに綺麗に治してもらったよ。」
思うに、あの禁術『時加超速』は連続して使えないんだろうな。すぐ魔力が切れそうだし。だから私の徹甲弾や榴弾を避けることができなかったわけか。時を止めるレベルで速く動けるなら私の徹甲弾なんかいくらでも避けられてしまうよな。怖いわー。
「よかった……やっぱりカースよね。本当に素敵よ。私が人質になっても容赦なく仕留めたってことよね?」
「うん。だいたいそんな感じ。だいたいアレクは細いんだから盾に向いてないしね。」
胸はバインバインだけど。
「もう……カースったら。ありがとう。もし私が足を引っ張ったせいでカースが怪我なんかしたらやりきれないもの。本当によかった……」
「アレク……」
正直なところ、今回は何とかできたからよかったが……もし私が手出しできない状態でアレクが人質になんかなってしまったら……私は一も二もなく抵抗をやめるだろうな。クタナツの先人が築きあげた金看板も何もかも無視してさ……
本当によかった。何よりアレクが無事で。




