85、村長無双
「くくく、さすがカース殿よの。見事な立ち回りだったわえ。いやいやさすがさすが。どこが甘いものかよ。」
この野郎……
「村長ぁ……あいつがはぐれダークエルフだと分かってて俺らを呼んだのか……?」
「そんなわけなかろう。精霊様とて気付いておらなんだのであろう? 誰が分かるものか。」
くっ……
「ピュイ……」
そうだね……コーちゃんが警告を発してくれた瞬間、あいつはもうアレクの首に手をかけてたね……
「ならさっさとアレクを治してくれよ!」
「落ち着かんか。もうアーダルプレヒトがやっておる。」
「なめんじゃねえよぅ……」
ちっ、まだ生きてたのか。致命傷は免れてたっぽいもんな。私にトドメを刺してやる義理なんぞない。今の私はエルフ好感度最悪だからな。珍しさに釣られてまんまと来てしまったことは棚に上げるけどさ。
「痛いでの……」
「カース殿は無茶をする……」
「あやうく死ぬところだった……」
完全に無傷なのは村長とアーさんだけ。巻き込んで悪いけど、私達を巻き込んだのはそっちだからな?
アレクとアーさんは守る。二人とも魔力がほぼないだろうし、それでもアーさんにはアレクを治してもらわないといけないからな。はぐれのことなんか知るか。村長を相手にして生き残ってたらぶち殺してやるよ……
「勝算はあったようだがの。せっかく始祖様に触れる機会をくれてやったというのに。情けない奴め。」
「だったら最後のままにしろよぅ……中途半端な順番をよこしやがってよぅ……」
「まさかの、ああも簡単に正体を現すとは思いもよらなんだわい。せっかく今日まで徹底的に正体を隠してきたのにのぉ?」
「なめやがってよぅ……」
はぐれダークエルフは村長と睨み合いながらも少しずつ動いている。始祖エルフの方へと。私があれだけ撃ちまくったのに始祖は無傷かよ……
「観念するんじゃの。どうせお前の目的は始祖様のお体を乗っ取ることであろう? 機会をくれてやったのは一度きり。二度は許さぬぞえ?」
『傀儡舞踊』
「あぎゃっ! いぎぃやぁああぁぁぁぁ!」
うっわ……村長えげつな……奴の両肘両膝の関節が逆に曲がってやがる……それでも立たせたままかよ。
「魔入呪墨をどうやって消したかは知らぬが我らの霊廟を汚し、始祖様に無礼を働いたことは許せぬ。死ぬまで傀儡人形となってもらおうかの。いや、死してもなおアンデッドとして働いてもらおうか。多くの死体を弄んだお前に相応しい刑であろう?」
「なめ……んなよぅ!」
『時加超速』
消え……何ぃ!?
「かかか! 貰ったぞぅ! この人間やたら魔力高ぇなぁ? ぜーんぶ吸っちまったからよぅ! カラカラに乾いて死『榴弾』ね……あがぁぁあ!?」
バカが! 何調子に乗ってやがる! 至近距離での榴弾直撃だ。また他のエルフを巻き込んだけど知らん。
「いぎぃあああがががいいいぃぎぎぎぃぃ!」
全身くまなく穴だらけにしてやった。それにしても危なかった……何だ今の!? 一瞬にして魔力が一割は吸われたぞ? 自動防御ごと……
あ、もう治しやがった。弾が体内に入ったまま……
「ほう? あの禁術を使いこなすかよ。はぐれにしては見事よの。だが甘いのぉ? 今ので儂を殺すか全魔力を抜くしかお前に勝ち目はなかったのだがのぉ? 儂の威に怯えるあまり、人間であるカース殿から魔力を抜いて回復を図ったの。その上で儂に挑もうと。くくく……甘い甘い。」
禁術?
「誰がびびってんだよぅ……」
「この場で最も魔力が高いのは儂だ。その儂から吸わずしてどうする? 確かにカース殿は個人では信じらぬほどの魔力を持っておる。それを嗅ぎ当てたことは褒めてやるかの。どれ……」
『命奪崩壊』
「ぐっ……き、効くかよぅ……」
「そうでもないぞえ?」
『傀儡舞踊』
「ぎびびびばばぁっああがががぁぁぁ!」
「くくく……ほうれどうした? 抵抗してみぬか。致命の一撃は防げてもそれで全魔力を消耗したとあっては意味がないのぉ?」
致命の一撃? 確かに村長の魔法に抵抗したせいで奴の魔力はほぼ空になったか。せっかく治した関節をまた壊された。村長やるなぁ。
「ほぉれ、まだ抵抗してみせるか? 禁術を使ってみるかの?」
『時加ちょ『拘禁束縛』ぐむっ……」
村長無双かよ……奴の魔法に被せて身動きを魔力ごと封じやがった。
「村長ぁ、殺さないの?」
さっきから遊んでるようにしか見えないんだよな。
「くくく、のぅはぐれよ? カース殿はこう言っておるぞ? そろそろ死ぬか?」
「ぬっ……ぐむむっ……」
喋れないようにしておいて質問とか……えげつなぁ……
全身穴だらけ、関節はぐしゃぐしゃ。おまけに魔力はほぼ空っぽ。こいつよく生きてんなぁ……
それにしても……分からん。村長はどこまで事態を読んでやがる? 本日この時にはぐれダークエルフが紛れ込むと想定してやがったのか?




