83、白い即神体
村の入口に一旦集合してみると、人数が少ない。てっきり全員で行くのかと思ったら。
「人数少なくない?」
「霊廟に入れるのは長老衆だけだ。」
あらそう。それなのに私達まで招待してもらっちゃって悪いね。他の村人から不満が出そうな気もするが、そんなの知ったことじゃないよね。村長が決めたことだし。それに私達は全員イグドラシルの登頂者だからな。だから村長も優遇してくれてるってところもあるよな。
「では行くかの。おお、よい日差しじゃて。」
「うむ」
「春がきたなぁ」
「今年こそ始祖様はお言葉をお発しになるかの」
「期待したいものよの」
「村長はどう思う?」
「さての。今年はカース殿だけでなく精霊様もおられるからの。期待したいものじゃて。」
「然り然り。カース殿は我らエルフ族の友だからの」
「まったくだ。カース殿といい奥様といい、最近の人間はすごいものじゃわい」
「それを言うなら精霊様もだな。これほど一人の人間に惚れ込んでおられるなど勇者以来ではないか?」
「それもそうか。めでたいことじゃの」
長老衆か。よく見れば見覚えのある顔もある。顔だけ見れば村長より歳上もいる。確かにこの中だとアーさんは間違いなく一番若いよな。
それにしても気になる話題が出てるな。勇者がどうとか。村長だって会ったことあるらしいし、勇者ムラサキはフェアウェル村を訪れていたのかな。
長老衆もアーさんも、そして村長も何ら気負ったところはなく、雑談をしながら霊廟へと歩いている。はぐれダークエルフの警戒しなくていいのか? 私は何もしてないぞ?
アレクと腕を組んで、春の暖かさに言及しながら追随している。春だねぇ。村長が気にしてないようだし、私も気にしなくていいだろう。
さて、霊廟に着いた。汚れてはいない。あれからアンデッドは現れなかったってことか。
むっ、長老衆が整列している。私達はどうすればいいんだ……
正面の扉の前に立つのは村長ただ一人。他の長老衆は階段下で片膝をついている。
村長は村長で扉の前で何やら祝詞でも唱えているのかな。ぶつぶつとしか聴こえないけど。
仕方ないから私とアレクもみんなと同じような姿勢をとっている。私やアレクが片膝ついて控えるなんて国王の前ぐらいなんだからな?
おお……ここから見ると屋根の真ん中、棟のとがった部分にちょうど太陽が差しかかっている。今が南中の時なのか。
『今日のめでたき日の恵みに感謝を。始祖の恩恵忘れまじ開け禁断の扉』
うお……村長の言葉に反応したのか、扉が奥へと開いた。音もなく静かに。
「よし。では皆の衆、中へ入るとしようぞ。」
村長の一声に全員が立ち上がった。空気が重苦しい。開いた扉から、何とも言えない威圧感が漂ってくる。
しかしエルフ達は気にした様子もなく、一列になって歩き出した。私も最後尾のアーさんに続いて歩いていく。その後ろにはアレク、カムイと続いた。コーちゃんは私の首に巻き付いてるからね。
ついに……扉をくぐった。中は少し冷んやりしているのか。思ったほど暗くはない……足元ぐらいは見えるかな。通路は狭い。そりゃ一列に並ばないと通れないわな。
おかしい……どんだけ歩かせるんだ? 外から見たこの霊廟は縦横高さ全てが十メイルで収まるサイズだったはずなのに……
おお、一体どれぐらい歩いたのかは分からないが、ついに広い場所に出た。明るい……が不思議な明るさだ。太陽光でも光源の魔法でもない、壁そのものがぼんやり光っているような。迷宮か?
「ここだ。控えよ。」
アーさんが声をかけてきた。村長を含む全員が跪いている。仕方ないな。同じようにしてやるよ。で、始祖エルフの死体はどこだ?
現れた……壁が開くと、その奥にいた。
飾り気のない椅子に座り、ぴくりとも動かない……真っ白なエルフだった。




