82、霊廟へ
『伯爵令嬢と育てられましたが、実は普通の家の娘でしたので地道に生きます』を書かれております『蔵前』さんより33件目のレビューをいただきました。
ありがとうございます!
アレクと二人、しっぽりと欲望の夜を過ごした翌日。私とアレクは少し早く目が覚めた。コーちゃんやカムイに起こされることもなく。と思ったら二人ともまだ寝てるじゃん。珍しいね。春眠何とかを覚えずって言うもんなぁ。初等学校でやったよなぁ。
ああ、昨日よりぐんと暖かくなってる。春が来たんだね。ただの小春日和ってこともないだろう。時期的には春でおかしくないし。
「おお、カース殿。起きたか。」
「おはようございます。」
客室を出たらいきなり遭遇したよ。村長んちだから不思議はないんだけどさ。
「カース殿はついておるの。今日、霊廟が開くでな。」
「え、今日なんですか!?」
「うむ。春が来たようだからの。本日の正午に開くであろう。どうじゃ? 来てみるか?」
そういえば暖かくなった日に開くって話だったか。
「お邪魔でないなら。それよりダークエルフは探さなくていいんですか?」
「ああ、放っとけ放っとけ。それよりカース殿を見た始祖が何かお言葉を発してくださることを期待したくての。」
あれ? 村長って放置派だったっけ? まあいいけど。
「じゃあお邪魔しますね。霊廟は昼にならないと開かないんですか?」
「うむ。日が中天に座した時に開くことになっている。儂にもどうにもならぬわえ。」
改めて思うが始祖エルフってのはとんでもないんだな。この化け物ハイエルフでもどうしようもないことを遥か昔に術式として刻んでるわけね。すごいなぁ。これ魔力全開で解呪できちゃったら笑えるな。全エルフに狙われそうだよな。まあ、さすがに無理だよな。
あ、村長に聞こうと思ってたことがある。
「はぐれエルフの死体なんですけどイグドラシルの根本に置けばいいですか?」
「なんじゃ、殺してしもうたのか? それをわざわざ収納しておいてくれたというのか。それはすまなんだな。そのようにしてくれるか。」
「じゃあ後でやっときますね。」
川に捨てようかとも思ったけど、腐ってもエルフだからな。死んだ後はイグドラシルに還してやるべきじゃないかと思ったんだよね。ナイス判断だったな。
「じゃあアレク、散歩がてらイグドラシルまで行こうか。」
「ええ。なんだか懐かしいわね。よく登ったものだわ。」
「朝食は用意しておくからの。」
おっ、村長自ら? 少し楽しみ。では散歩にゴー。
そこまで広い村じゃないしね。少し歩けばもうイグドラシルまで到着。少し朝早いせいか誰とも会わなかった。
イグドラシルって根がごつごつしてて、近付けば近付くほど歩きにくくなるんだよな。
ふぅ、ようやく幹に触れるまで近付いた。ここでいいだろう。魔力庫から死んだはぐれエルフを出す。根と根の間、地面に落ちると……そのまま吸い込まれるように消えていった。本当ならこいつも生まれた村のイグドラシルに還りたかったのかも知れないな。それが首魁ダークエルフなんかに加担したばっかりに……いや、もしかしたら一方的に利用されたって場合もあるな。今となってはもう分からないことだが。
「よし。戻って朝食にしようか。村長がどんな料理を作ってるのか楽しみだしね。」
「そうね。私も楽しみだわ。村長に作ってもらうなんて申し訳ない気もするけど。」
朝食は普通だった。普通の麦飯、普通のタマネギスープ、普通のスクランブルエッグ。村長やるじゃん。
私達が食事を終えた頃、ようやくコーちゃんもカムイも起きてきた。
「ピュイピュイ」
「ガウガウ」
二人とも起きられなかったのは陽気のせいだと言っている。まったく、そんな言い訳なんか必要ないのに。好きなだけ寝てればいいのさ。でも、朝飯がないんだよね。残ってるっぽかったのに、村長が収納してしまったんだから。その村長はもう姿が見えないときたもんだ。忙しないねぇ。
「ピュイピュイ」
「ガウガウ」
分かってるって。川魚が一匹ほど残ってるから焼くって。
さて、昼まで何しようか。
やっぱトレーニングかな。棍を振ったり錬魔循環したり。特に棍は新しいからな。しっかり魔力を通して馴染ませておかないとね。他の装備も同様だ。魔力を使わずに装備するとめちゃくちゃ重いしね。これはこれでいいトレーニングだわ。きっつ……
ちなみにカムイの周囲にはエルフの子供たちが集まっている。どうやら狼ごっこがしたいらしい。全員でカムイを捕まえるパターンの。カムイって大人気ないからなぁ。相手が子供たちであっても手加減しないんだよなぁ。この場合は足加減とでも言うべきか?
よく見ればコーちゃんも交ざってるね。楽しそうでいいね。
アレクは私のやや近くで錬魔循環してる。
「行くぞ。」
そうこうしているとアーさんが迎えにきた。もうすぐ昼か。
始祖エルフの即神体か。喋るのは数十年に一度って話だったが、果たして今回はどうなのかねぇ。村長は始祖エルフが私を見て何か喋ることを期待しているようだったが、そんな都合のいいことがあればいいね。
伯爵令嬢と育てられましたが、実は普通の家の娘でしたので地道に生きます
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