81、釣果なし
川魚は釣れないが魔物はたくさん狩れた。だって大声出したせいか続々と襲ってきたんだもん。拡声の魔法にも魔力をたっぷりと込めたもんなぁ。
首魁エルフはそんな魔物たちの群れにまぎれて襲ってくることもなく時刻は昼飯時だ。
ちなみにエルフは失血死したようなので収納しておいた。あいつを餌に大物を狙いたかったんだけどなぁ。小さいのしか来なかったもんなぁ。
「ガウガウ」
釣れてないだろって? 見りゃ分かるだろ。川魚は午後の部に期待しようぜ。
「ガウガウ」
釣れないなら潜って獲ってこいって? 鬼かお前は。私はきれいな水でないと泳がないんだよ。午後から釣れなかったら潜ってやるよ。まったくもう。普通は潜るより釣りの方がよく獲れるはずなんだぞ?
昼飯は鳥系の魔物を焼いてみた。しかも地面に埋めてから蒸し焼きにするやつ。いつだったか楽園でヒュドラを焼いた方法だ。少々時間はかかったが柔らかくジューシー。一緒に腹に詰めて焼いた野菜や米も旨かったね。
腹が満たされると次は性よ……いや睡眠かな。
「アレク、膝枕いい?」
「カースったら仕方ないわね。いらっしゃい。」
ふふふ。満腹になると眠くなる。アレクの膝枕だとなおさらだね。この世で私にだけ許された至上の贅沢だな。ぐうぐう……
「……ガウガウ」
なんだよ……カムイ……もっと寝かせろよ……
「ガウガウ」
さっさと起きて川魚を獲れって? お前ってそんなに川魚が好きだったっけ? 初耳だぞ?
「……起きたのね……私も寝てたみたい。」
「おはよ。いい寝心地だったよ。」
異常なしか……これだけあからさまに隙を見せてやったのにさ。どんだけビビりなんだよ。それとも慎重と言うべきか。
「お昼からはどうするの?」
「カムイの要望通り……釣りの続きかな。で、夕方になる前に帰ろうか。今夜はゆっくり風呂に入りたい気分なんだよね。」
「それもいいわね。で、その後は?」
ぐいぐい来るねぇ。分かってるって。
「二人っきりで、ね?」
「うん。絶対よ?」
可愛いなぁ。でも言ってることは欲望剥き出し。それもまた良し。
日が傾いてきた。そろそろ帰るか。全然釣れなかったので仕方なく潜った。どうにか数匹ほどゲット。大きいニジマスって感じかな。川の中って川魚どころか魔物も少なかったんだよな。そりゃ釣れないわ。鮎の塩焼き食べたいなぁー。
村に到着。帰る間にも何もなし。魔物が数匹襲ってくる程度だった。羽根の生えた豚の魔物とは恐れ入ったよ。
「おっ、兄貴おかえり! どうだった?」
舎弟一号だ。一緒に幻惑草原に行ったやつ。名前は分からない。
「川魚が三匹と空飛ぶ豚が二匹ってとこか。」
昼前に狩った魔物は勘定に入れてない。
「ダークエルフは見つかってねーの?」
「見つかるわけないだろ。コーちゃんもカムイもさっぱり分からないってよ。」
「じゃあしょうがないよな。ところで今夜だけどもう用意してんだよ。食うだろ?」
「えらい気が利くじゃん。食う食う。ところでアーさんは?」
私達が夕方帰ってくるのかどうか気にしてたからな。
「アーダルプレヒト? 昼前から見てねーよ。あんな奴どうでもいいじゃん。食おうぜ!」
食うけどさ。こいつは確かまだ百歳にもなってなかった気がするんだよな。その年代はアーさんが嫌いなんだろうか? 若くして長老衆になったとかって話だし。でも二百歳超えは若くないよな? エルフの感覚は分からんなぁ。
野外にさっと机を設営し料理が並ぶ。旨そうだなぁ。いい匂いだし。
「旨そうじゃん。お前が作ったの?」
「いーや、あいつら。」
舎弟が指差す先にいるのは、エルフの女達。見た目からは分からないがたぶん若い方なんだろう。何となくキャピキャピした雰囲気を感じるんだよね。
何か声でもかけようかと思ったら、アレクが拐われた。よくは聞こえないが何やら質問攻めにあっているようだ。「夜は」「回数は」「どっちが」「どこで」などと断片的に聞こえてくる。
「話が合うって感じじゃねーな。お嬢様からあれこれ聞きてーみたいだぜ?」
おっ、ちゃんとお嬢様と呼ぶようになったか。偉いね。
「ふーん。別に構わないけどさ。」
どうしてガールズトークに私が口出しすることができようか。あ、美味しい。やっぱエルフも料理の腕が女のステータスな面があるのかねぇ。
「そういやエルフって男が強いとか女が強いとかってあるのか?」
「あー? そんなもん……女に決まってんだろ……」
えらく悲しそうに言うじゃないか。
「別に不思議じゃないけどな。その辺は人間と同じなんだな。」
「え? 人間もそーなの? でも兄貴は違うんだろ?」
ぬぅ……それを言われると辛いなぁ……
「俺より強い女だっているに決まってるだろ。だから男だ女だってこだわっても意味ないと思うぞ。重要なのは強いかどうかじゃないのか?」
それはそれでどうかと思うが……
「あー……そういえば奥様も凄かったもんなぁ。さすが兄貴の母親だよなぁ……」
そういや母上はこいつらからも奥様って呼ばれてるのか。マリーが奥様と呼べって言ってたような気がするなぁ。母上すごいぜ。
「戻っていたのか。成果は、なしか。」
いきなりアーさんが現れた。
「悪いね。川魚ならあるけどさ。一匹いる?」
「いや、必要ない。明日も頼んだぞ。」
「まあ、約束だからね。期待しないでね。」
「当たり前だ。」
だから少しぐらい期待しろよ!




