79、壊れたエルフ
仕方ないので全員ではぐれエルフを閉じ込めてる小屋まで来てみた。案内はアーさんだ。
「ごめんねアレク。楽園に帰る予定だったのに。」
「ううん。私はどっちでもいいわ。ここも楽しいもの。」
それは確かにそうだ。そしてアレクもそう思ってくれていることが嬉しい。
「いずれにしても後二日だしね。のんびり探索するとしようね。」
「それもそうね。村長には悪いけど見つかるとは思えないもの。」
やっぱアレクもそう思うよね。
「ここだ。」
おっ、着いた。ぼろい小屋だな。逃げられたりしないのか? あー、すでに契約魔法か何かを施してるんだろうな。ガッチガチにさ。
扉もぼろい。アーさんは何か魔法を使ってから開けた。中には四人のエルフ。男が三人に女が一人、全員裸かよ。おまけにぴくりとも動かない。一時停止ボタンでも押したかのようにさ。
「こいつら生きてるの?」
「ああ。とりあえず生かしてある。」
「一人と話してみたいけど、できる?」
「いいだろう。誰だ?」
誰でもいいんだけどさ。
「じゃあこいつで。」
手前の男にしてみた。
「そら。」
アーさんが何やら魔法を使うと、男エルフが床に倒れ込んだ。一時停止解除か。
「この人間がお前と話したいそうだ。」
「あ……あ……に、人間? こ、ここは……」
「よう。ここはフェアウェル村。お前は囚われの身。名前は?」
「フェ……ア……名前……お、俺は……」
首魁に関する記憶が消されてるって話だったが、まさか自分の名前すら覚えてないのか?
「ピュイッ」
おっ、コーちゃんが奴の首を噛んだ。気つけだね。
「俺は……誰だ?」
だめだこりゃ。
「アーさんさぁ、もしかして全員こんな感じ?」
「ああ。尋問のために様々な魔法を使ったからな。いくらエルフといえど精神が壊れたと見える。」
「あっそー……」
そこまでやっても首魁がダークエルフって情報しかゲットできなかったのね。相手の方が上手と見るべきか、ビビりまくって警戒しまくって慎重に動いていると見るべきか……後者だろうなぁ。
母上がやってるのも見たけど、相手の同意を必要とせずあれこれ吐かせる場合って心が壊れるもんなんだよなぁ。怖いわぁ。まだ私の契約魔法の方が良心的な気がするよ。確かに約束するまではめちゃくちゃ痛めつける必要はあるけどさ。
「お前さ、腹へってないか?」
何かとっかかりが欲しいなぁ。
「腹……ニョッキ食べたい」
何だそれ?
「アーさん、ニョッキって何?」
「こいつの村の近辺でとれる芋虫だ。かなり旨いらしい。」
芋虫かよ!
「ピュイピュイ」
あれをこいつに? なるほど。同じ芋虫な気もするしね。
「ほら、これ食えよ。」
コーちゃんコレクション、芥子毒牙虫って言ったかな。その二級品の燻製をプレゼント。二級品でもヤバい気がするんだけど……
「黒い……」
無理矢理食わせるまでもなく素直に咀嚼しやがった。
「ぴびっ……えしぇっ……ぴぴっぴびぃ……」
え? 何やら奇声を発し始めたぞ?
「うぴぴぴびびびぃいひひひひぃぃひひひ!」
あーあ。これはもしかしてだめなのか?
「えしぇしぇしぇへへへへぇへへへべへぺぺぺぺひぴびびぴびぴぴぴぴいいあい」
「アーさんごめん。本格的に壊れたみたい。」
手足だけでなく、頭までめちゃくちゃフリフリ動かしてるよ。キモいことこの上ない。
「仕方あるまい。精霊様のお考えだったのだろう?」
「そうなんだけどさ。」
「ピュイッ」
つぶらな瞳で見てくるコーちゃん。落ち着くまで待ってみてって? 待ってもなぁ……どうせ心が壊れてることに変わりないんだよなぁ。心か……
心と言えば……
「そういえばさぁ、心の中に入り込むような魔法ってあるよね? 確か禁術でさ?」
「禁術・夢幻渡来のことか?」
「あぁそんな名前だったと思う。こいつらに使ったりした?」
「何をふざけたことを。そのような危険な真似を誰がするものか。確かにその方法ならばわずかに残った記憶の残滓を見つけることもできたかも知れんがな。」
クロミも危険だって言ってたもんなぁ。
「やってないんだ。村長でもやっぱ危険なの?」
「当たり前だ。そこらの人間ならばともかく、こやつらは腐ってもエルフだからな。危険以外の何物でもない。」
また……アーさんたら。差別発言してくれるよなぁ。
「ねぇアーさん、その禁術だけど僕にも使えるかな?」
人間舐めんなよ?
「やめておけ。お前ほど魔力があれば使うことは容易いだろう。だが問題は使い続けることだ。この魔法は制御が繊細だからな。制御に失敗すれば心から出てこれなくなり、そのまま魂源ごと消滅することになりかねん。」
魂源……クロミもそんなことを言ってたな。無理と言われるとやりたくなるものだが、私は違う。リスクをおかしてまでやる気などない。だいたい私が命を削ってまでやるような話じゃないし。
「分かった。使わないよ。じゃあもう行くね。こいつはもう黙らせてくれていいよ。」
さっきから奇声がめちゃくちゃうるさいからさ。動きもキモいし。
「そうか。」
アーさんが指を動かすと、男エルフは再び一時停止のようにぴたりと動きを止めた。落ち着いてから改めて尋問してみようとも思ったけど、全然落ち着かないんだもん……




