76、最強の防具
さっそく装備してみる。おおう、やっぱしっかりフィットするね。村長やるな。魔法工学博士のベクトリーキナー卿が作り上げてくれたエルダーエボニーエンツォの籠手を思い出すよな。あの最強の籠手と同じほどのフィット感がある。
当たり前のようにサイズ自動調整に温度調節、それから汗排出なんかも付いてるんだろうね。
「そういえば聞いておらなんだが色はどうする? このままでも悪くないとは思うがの。」
そうだなぁ……自然な木目調。これはこれでおしゃれだよな。どうするか……
「じゃあ鉢金は黒、籠手は白でお願いできますか? 脛当てはこのままで。」
鉢金は額に巻くし、籠手は白シャツの下に着けることを考えると少しでも目立たないのは白だろうな。
「よかろう。嬢ちゃんはどうする?」
「私はそのままで結構ですわ。この木目が素敵だと思いますので。」
直径三十センチ程度の円形の盾。アレクには赤が似合うけど盾だしね。目立たないようにそのままを選んだのかな。
このままだとめちゃくちゃ重いけど、魔力を流すと軽くなる。アレクの可憐な細腕でも軽々と装備できるよね。
「では、しばし待て。」
『着色』
『固定化』
おお……たちまち鉢金は黒く、籠手は白くなった。付けてみよう。
おお……かっこいい。額は見えないけど、きっとかっこいいに違いない。脛当てもばっちりフィットしてるし、まるで何も着けてないような気すらする。
「最高です。さすが村長。着けてる感じがしません。すごいです。」
「うむ。ではいくぞ?」
え? うわぉ!
いきなり短剣で突いてきた。とっさに籠手で防いだけど。この村長は接近戦もできるのかよ……
「やはり問題ないようだの。では嬢ちゃんもいくぞ?」
『楓弾』
「くっ……」
おお……結構大きめの弾丸がアレクに向けて放たれたが、さすがアレク。きっちり防いだね。ずりずりと後退りさせられてるけど。
「うむ。やはり問題ないようだの。一応忠告しておくが、その棍で殴打したならばどちらか壊れるだろう。せいぜい気をつけるようにの?」
「ええ。ありがとうございます。お手数おかけしました。最高です。」
「ありがとうございました。大事にします。」
再び手にしたイグドラシルの棍。やはりこれには『不動』と名付けようかな。エボニーエンツォの木刀『虎徹』とどっちの出番が多くなるかな。やっぱ不動かな。
「よいよい。では夕食にするか。カース殿、何か焼いてくれるか? いい匂いがするようだからの。」
「いいですよ。がんがん焼きますよ。」
さっきまで解体してたからな。いい匂いってよりむしろ臭いと思うんだけどな。まあいいか。太陽はそろそろ隠れる頃、そして肉は山ほどあるし。
例によって村の中心部にある広場で肉を焼く。すると一人、また一人とエルフ達が集まってくる。私は巨大な鉄板で肉を焼く。そこに無遠慮に野菜や肉を投下するエルフ達。それはそれで旨そうだよな。だれかバター持ってないのか?
「兄貴、先にいただいてるぜ!」
「エブロワール大草原に行ったって? やるじゃん!」
「いいもん手に入れたらしいじゃん? 後で出してくれよな!」
おっ、舎弟三人組だ。さっき一緒に草原まで行ったのはどいつなんだ?
「いい肉ね。熟成した肉もいいけど新鮮な肉も嫌いじゃないわ。」
「大首鴉に雷火鳥か。なかなか珍しいじゃないか。さすがはカース殿だな。」
マリーの両親だ。でも残念。それを仕留めたのはカムイなんだよね。そのカムイは鉄板の端の方で肉を自分好みの焼き加減にしようと試行錯誤してるようだ。あいつどんどん好みがうるさくなるなぁ。
「飲め。」
「おっ、アーさんありがと。」
珍しいな。アーさんがわざわざ酒を持ってきてくれるとは。
「はぐれ共の件は問題なさそうだ。」
「それはよかったね。」
どうせ捕まえたあいつに色々と吐かせたんだろ? むしろ吐かせるまでもなく情報を抜き取る魔法とかありそうだし。アーさんもたいがい凄腕の魔法使いだもんなぁ。
「だから飲め。」
「うん。ありがたくもらうよ。」
言葉足らずだなぁ。解決しそうだから私に感謝して酒を持ってきたってところかな。そう言えばいいのに。あ、美味しい。
あれ? 私が酒を飲んでるのにコーちゃんが近寄ってこない。変だな……
「おーい、コーちゃん知らない?」
「精霊様なら芥子毒牙虫を燻してる小屋にいると思うぜ? かなりご機嫌みたいでピュイピュイ歌いまくってたかな」
あ、そうか。そうだったな。
「それならいいんだ。ありがとよ。」
密室でいけない煙を全身に浴びて歌いまくるコーちゃん。不道徳の極みだね。人間なら悦楽のあまり一時間と持たずに狂い死んでそう。しかも本命のお楽しみはまた別みたいだし。いやー大地の精霊って何なんだろうね。魔物の生態も不思議だけど、結局一番不思議なのはコーちゃんかもね。
つぶらな瞳で酒とお薬を嗜み、可愛らしい声でピュイピュイ歌う。最高だね。コーちゃんかわいい。




