73、コーネリアスのおねだり
何だっけこの花。どこかで見た覚えがあるんだよな。地面に広がる半径三メイルもの花。
赤い花びらにピンクのぶつぶつ。やはりキモい。花の中心は円形に窪んでおり、中は見えない。
ん? 虫? えらく多いな……
ハエか!? 中心の円からめっちゃ出てきた……
『火球』
ついつい花ごと燃やしてしまった。何なのこの花? ハエを住まわせてんの? どこまでキモけりゃ気が済むんだよ……
ん? この魔力反応は……
『浮身』
危ない危ない。下から魔物が飛び出して来やがった。小さなノヅチって感じ? それなりに大きな口を開けちゃってさ。砂漠によくいるワーム系かな。思うに、あの花に何やら攻撃したら土中から飛び出てくるってとこか。よくできてるね。
「ギョベエエエエエエエエ!」
うるせぇな。口しかないせいかやたらデカい声しやがって。
『風斬』
ワーム系なら魔石はだいたい頭の近辺にある。だからそこを避けてぶち斬ってやった。つまり輪切りだね。
あ、よく見たらさっきの花の根元が胴体の表面から生えてる。つまり……花はこいつの一部ってことか。うえぇ……キモ。
つまりこいつは自分に花を咲かせて獲物を誘き寄せてるってこと? その割にはこの周辺に掘り返した後なんかなかったよな。つまり、獲物が現れなければ何年でも待ち続けるってことなの? それとも、普段は土や虫から栄養を得ているのに珍しく火の魔法なんかで攻撃されたもんだからついつい飛び出してしまったとか?うーむ、魔物の生態は分からんなぁ。
とりあえず魔石と胴体をゲット。結構長いな。二十メイルぐらいか。
えーっと、来た道があっちだから……奥はそっちか。
あっ! 今思い出した! あの花、ラフレシアだ! そうだそうだ。でかくて臭い花。こっちだと何て名前なんだろうね。
ラフレシアと聞いて思い出すのはラフレシアンヒドラ。グリードグラス草原の中央辺りに生息して、植物に寄生し大輪の花を咲かせる魔物なんだよな。確か一度クタナツを襲ったこともあった気がする。
もしこいつがそうだとするなら、本体はワームじゃなくて花の方だった可能性もあるのか。ラフレシアンヒドラに種でも植え付けられて土中で養分として吸われ続けた。そこに火を着けられたもんだからラフレシアンヒドラの支配が弱まったか、単に反射で飛び出ただけか。さっぱり分からないね。
「ピュイピュイ」
おっと、またコーちゃんだ。今度はそっちなんだね。もちろん行くとも。
コーちゃんたら初めて来たはずのこの草原を、もう庭のように動きまわってるなぁ。どんな嗅覚してんだよ。単純な嗅覚だとカムイの方が鋭いとは思うけどさ。
「ピュイ」
大丈夫、見失ってないよ。時々草むらから上に顔を出してくれるけど。ちゃんとコーちゃんの魔力を追っかけてるからね。
「ピュイピュイ」
着いたの? 小高い丘だね。丘と言っても数メイル高い程度でしかない。
「ピュイピュイ」
この丘に生えてる草が全部欲しいの? 見たところ普通のカンナビ草みたいだけど。
「ピュイピュイ」
え? 根こそぎ? 刈るんじゃなくて根っこが残るように抜いて欲しいのね。もー、コーちゃんたら注文が厳しいんだから。でもかわいいコーちゃんの頼みだからね。
ここは私の繊細な魔法制御の見せどころだね。ヒイズルはテンモカでイグサを支えた時のように。
まずは実験。そこらの草に……
『浮身』
だめか。草が上半分から切れた。
もう一度。
『浮身』
よし。ばっちりだ。根からするりと抜けた。コツは草全体に均一に浮身をかけることではなく、根元付近だけに効かせることだったのか。
そうと分かれば一気にいくぜ。丘の曲面に沿って……
『浮身』
いいねぇ。さすが私。ここまできれいに抜けると気分がいいぜ。今のでだいたい二割ってとこかな。ガンガンいくぜ。
よし。丘にはもう草の一本も生えてないぜ。
「ピュイピュイ」
今度はここを掘るの? 真ん中辺りでいいのかな?
「ピュイピュイ」
魔物がいるから持って帰るのね。なるべく傷を付けないように仕留めるの? 無茶言ってくれるぜ……
とりあえず掘るか……
『水錐』
普段は下向きの円錐なんだが今日はただの回転する円柱だ。丘の突き出た部分からゆっくりと削っていくために。これなら魔物をうっかり削り殺すこともないだろう。そのうちあっちから飛び出してくれると見た。
魔力反応は……弱い。まだ寝てるのか? こんなにごりごり土を削っているというのに。ならばペースアップ。回れ回れ私の水錐。
「ピュイ」
オッケー、止めるよ。水錐を丘から遠くに離して魔法解除。そして穴を覗き込んでみると……土しか見えない。
「ピュイピュイ」
無理矢理引っ張り出せって? コーちゃんたら魔物に厳しいんだから。
『浮身』
見えないけど、この奥にいると見做して魔法を使う。土と一緒に浮いてこい。
おっ、きたきた。土に隠れてよく見えないけど……ミミズかな?
『水滴』
土を落とそう。やっぱミミズだ。太さが三センチはある。えらくたくさんいるな。どんだけ一ヶ所に密集してんだよ。もう少しかな。あまり勢いのよくないシャワーのように水を出す。
『水滴』
ん? 中心部に何か塊があるような……
え? 目? 大きな一つ目が開いた?
こ、こいつ……
マウントイーターじゃねえかぁぁぁぁ!




