68、ダークエルフ達の酒宴
アルケピリッツは一人一杯しか飲めなかった。私はそれで構わないがコーちゃんが不満そうだ。
だからヒイズルのお土産、アラキ酒を進呈しようかね。日が暮れたら帰ろうかと思ったけど、これもう帰れる雰囲気じゃないね。ボードを飲酒運転するのもなんだし。
「はー!? あれを失くしただぁー!? せっかく作ったのによー」
「何ぃ!? 迷宮に!? クロノミーネが!?」
「ほえぇー、これアラキ酒ってのか?」
「白王龍? 白いドラゴンってめったに見ないよな? ふーん強かったんだー」
「タタミ? ほえぇーまあまあ粋じゃん?」
男どもは私を囲み酒飲み話に興じている。ツマミが少々足りないかな。
「ヒイズルって国がローランドの属国に? くっそどうでもいーし」
「うっわー! 真っ赤! きれー!」
「マジ素敵! ラスティレッドトレントの実より赤くなーい?」
「マジマジ! スカーレットニードルワームの魔石ぐらい赤いし!」
「そーお? クリムゾンドラゴンの目より赤くなくなくなーい?」
女たちはアレクを囲みアルテミスの首飾りの赤さについて盛り上がっている。
「ピュイピュイ」
「うむうむ。精霊様もそうお思いか。私もだとも。ああ、いい夜だ。」
コーちゃんは村長と飲んでるし。絶対話なんか通じてないだろ。
「そっち行ったぁー!」
「回り込めー!」
「あー! 抜けたー!」
カムイは数少ない子供たちと狼ごっこをしている。ただし全員が狼を追いかけるバージョンで。子供の相手とはカムイにしては珍しいな。でも全然捕まらないのはカムイらしい。子供相手でも容赦ないわー。
ヒイズルでも、フェアウェル村でもそうだったけど。やっぱ宴会って楽しいな。今のダークエルフ達は厳しい生活をしているんだろうけどさ。そんな中だからこそ、こうして全力で楽しんでいるのかなぁ。全力ってよりは思い思いに好き勝手にって感じかな。
「そうだわ。クロミには世話になったことだし、これ。よかったらどう?」
ん? アレクが何やら魔力庫から出したぞ。原石かな?
「紅柘榴石よ。なかなか綺麗じゃない?」
「へーいいじゃん?」
「でーこれがクロノミーネと何か関係あんのー?」
「そういやあいつどうしてんの?」
よく見ればクロミと似たような黒ギャルばっかだよな。
「クロミならヒイズルで好きな男ができたみたいよ。で、その男と一緒に迷宮に潜ったわ。無事ならいいんだけど。」
「えー!? あいつに男ぉー!?」
「マジでー!? クロノミーネってニンちゃんニンちゃんうるさかったのにぃー!?」
「あっ分かったー! ニンちゃんには金ちゃんがいるもんねー! 妾にすらなれなかったくね?」
「カースは関係ないわね。クロミったらその男に首ったけみたいよ? 迷宮を踏破したらそのうち帰ってくると思うわ。お土産たくさん持ってね?」
アレクとしては紅柘榴石、つまりガーネットを誰かにプレゼントしたかったみたいだけど話が完全に逸れてしまってるな。
「迷宮ってなぁにぃー?」
「イグドラシル的なやつじゃん?」
「あー神域ぃー? うっわークロノミーネやばくなーい?」
「クロミは頼りになったわ。私もカースも何度も命を救ってもらったもの。」
「えっマジで!? クロノミーネが!?」
「うっそ!? あいつヨランダ村長の稽古サボりまくりじゃなかったぁ!?」
「そうそう! クローディアトネルとよくどっかフケてたしー」
フケるって何だ……ダークエルフ用語か?
それよりクロミってそうなの? その割には知識も豊富だし魔力もたっぷりだったよな。
「それはいいけど、これいらないの?」
「え? 何よ金ちゃん。見せびらかしてんのかと思ったら。それくれるっての?」
「ひょほー。それって人間の言葉で太っ腹って言うんだよねー?」
「紅柘榴石かー。ここらじゃ珍しいよねー。スカーレットニードルワームの魔石より複雑な輝きしてんしねー」
スカーレットニードルワーム? 気になるじゃないか。ワーム系の魔物はヘルデザ砂漠に多いけど、ここら辺にもいるんだね。どんなワームなんだろ。
「ええ、クロミのおかげで手に入ったようなものだし。よかったらどうぞ。」
アレクったら気前がいいんだから。手の平よりも大きなガーネットを無造作に置いた。自然に手を伸ばした一人のダークエルフ。
「へー。いいじゃん。貰っとくし」
「ちょっ! ハピールィエンドずりぃし!」
「けっこういい輝きしてんし! アーシも欲しいし! ここは穏便に決闘で決めるしー!」
なんだか全員クロミに見えてきた。
「決闘とか言ってるけどいいの?」
「あーいいいい。ほっとけ。仲間内で決闘は厳禁だからよ」
「そーそー。もし殺しでもしたら追放モンだもんな」
「いつものお遊びだろ」
そんなもんか。クタナツで決闘なんて言おうもんなら後戻りのできない生死を賭けた戦いになってしまうんだが。ダークエルフは違うのか? それとも女同士だから違うのだろうか?
分かることは……目の前で結構激しい魔法が行ったり来たりしてるってことなんだよな。
イグドラシルが折れたらどうするんだよ……




