67、村長のお仕事
まさかイグドラシルとはね。てことは……私が楽園近辺でイグドラシルを育てることも可能?
…………いや、まあやらないけどね。
どう考えても手間やリスクの方が大きい気がするもんな。蟠桃と同じかな。周囲から魔物がウヨウヨ押し寄せてくるって言うし。
「エーデルトラウトヤンフェリックス様が用意してくださったのだ。ただ、ここまで早く成長するとは思ってもみなかったらしい。イグドラシルは種から育てるのが常なのだが、土から芽が出るだけも数十年、場合によっては百年はかかるからな。」
おお……さすがイグドラシル。意味が分からないぜ……
「じゃあこのイグドラシルがここまで育ってるのはフェアウェル村の村長が何かしたってこと?」
思ってもみなかったとは言っていたようだが。
「いや、何かしたのはカース殿。君だ。」
「え? 俺?」
何のことだ?
「聞いておるぞ。フェアウェル村のイグドラシルに恩を感じているのだろう。事あるごとに魔力を注いでいたそうではないか。特に、数年前に実った結晶は近年稀に見る上物だったそうだ。したがって残された種子も高品質というわけだ。」
「あっ、そうなの? つまり役に立ったってことだよね。それはよかったよ。」
マジかよ……思い返してみれば確かに私はあれを実らせた。そして村長はあれを使って『エルフの飲み薬』とやらを作った。実や皮を使ったとしたら種だけ残っていてもおかしくはないのか……
私がポーションを五十本以上飲んで実らせたあれが……
「おまけにカース殿がイグドラシルに魔力を注げば注ぐほどエーデルトラウトヤンフェリックス様も使える魔力が増えていく。だから余剰魔力を利用して種子を育ててくださっていたのだ。いつ来るやも知れぬ、このような事態に備えてな……」
「さすが……化け物ハイエルフと呼ばれるだけあるね。やるじゃん。」
「はははっ! 化け物ハイエルフか! それは言い得て妙だな! あははは!」
おお、えらいウケてるじゃん。どこにウケる要素があったんだ? 分からん。それに、これ言ったのクロミなんだけど……
「それはそうと、せっかく来たんだから少しぐらい魔力を込めておこうか?」
「いや、気持ちだけ受け取っておこう。まだ幼いこの子にとってカース殿の強烈な魔力はむしろ毒となろう。すまんな。」
精密な制御には自信があるんだけどなぁ。でも、この場合は量の問題ではなく質の問題なんだろうなぁ。アンデッドイグドラシルになったら悲しいしね。
「いやいや。大事な時期だもんね。慎重なのはいいことだと思うよ。」
「そう言ってもらえるとありがたい。よし、では始めるとするか!」
ダークエルフ達が集まってきた。それぞれが食べ物を持ち寄っているようだ。
「よう坊ちゃん。久しぶりだな!」
おっ、この人は。いや、まあ人じゃなくてダークエルフだけどさ。
「クライフトさん久しぶりだね。元気そうじゃん。」
金属加工職人クライフトさんだ。もちろん覚えているとも。
「積もる話ぁあるがまずは乾杯からだ。なあ村長ぁ?」
「うむ。皆の者、杯を持て! 我が村の恩人カース殿と! その佳き伴侶アレク殿! そして大地の精霊様と白き狼殿に! 乾杯だ!」
「乾杯。」
「乾杯。」
「ピュンピュイ」
「ガウガウ」
あ……この酒……
「村長、この酒ってもしかしてばあちゃんの……」
「その通りだ。覚えていてくれたか。ヨランダ様が丹精込めて造り上げた酒『アルケピリッツ』だ。」
泥と芋の風味、そしてばあちゃんの魔力を感じる強い酒だ。
「もう残り少なくてな。各自の魔力庫に入っている分しか残っておらん。次の酒を仕込めるまでに復興する日はいつになることか……」
「村長ぁー! 湿っぽい話はやめようぜ? せっかく坊ちゃんが来てくれてんだからよ? おっ、嬢ちゃんもあれ見せてくれよ。俺の仕事をよ?」
「ええ、いいわよ。これはローランド王国中を探しても、二つとないお宝ね。最高の仕事だわ。カース、巻いてくれる?」
換装で直接首に巻くこともできるアレクなのに。わざわざ私に頼むなんて。可愛さが止まらんじゃないか。
「いいよ。貸して。」
アレクが豪奢な金髪をかきあげる。たったそれだけなのに、すごく綺麗だ。絵にして飾っておきたい。どうだいダークエルフ達。しっかりと見ろよ。
私はアレクの後ろにまわり、アレクサンドライトの首飾りを纏わせる。オリハルコンの鎖がしゃらりと音を奏でアレクの白く細い首を彩る。
大空を見上げたかのような澄んだ青が、深海を思わせるような深い蒼へと変わりつつある。もうすぐ夕暮れか。
完全に日が沈み、魔力の灯が周囲を照らせば……この石は赤く紅く輝くだろう。それが金緑紅石アレクサンドライトだ。
「おお……すげえな俺……お前ら見てみろよ! こいつぁオリハルコンだぜ? それをこんなにも精密に加工したんだぜ? 俺って最高だろ!?」
アレクの首元をガン見しながら自分の作品に酔っている。悪いことじゃないんだけどさ。アレクの麗しき胸元を目の前にして無視かよこの野郎?
「おお! これが例の仕事か!」
「知ってるぜオリハルコン!」
「あん時俺らも魔力込めたよな!」
「はあぁ……ため息の出るような青ね」
「ほんと……あれで肌が黒かったらきっともっと似合うわよ」
「なかなか似合ってるわよ。ウチらもクロノミーネのお土産に期待ね」
これは面白いな。男は鎖に注目し、女は石に注目している。
それはそうと、もしアレクの肌がクロミ並みに黒くなったら……それはそれで綺麗なんだろうな。一度ぐらい日焼けしたアレクを見てみたくはあるな……
スク水の跡が残ったアレクとかさ。そこに発注しているビキニを着てもらったら……
最高かよ……




