66、アレクサンドリーネの心配
思った以上にヘビーな話を聞いてしまったな。『禁術 死眼』も少々気になるが。
「さあ、暗い話はここまでだ。そろそろ食事の用意ができる頃だ。外に出ようではないか。カース殿に見てもらいたいものもあるしな。」
「ちょっと待ってもらえるかしら?」
おっ、アレクどうした?
「何か?」
「その禁術、死眼だったかしら。それってエルフの防御魔法、例えば自動防御だと防ぐことはできるのかしら?」
「もちろんできるが? あれは魔力由来ならばいかなる攻撃をも防ぐ優れた防壁だからな。もっとも、その分だけ消費する魔力がとんでもないのだがな。普段から自然と身に纏っているカース殿が信じられないほどだ。」
「そう。ならいいわ。余計な心配だったわね。ああ、ついでに聞かせてもらっていいかしら? 死眼にはどんな悪影響があるの? もちろん使い放題なんてことはないわよね?」
おお……アレク鋭い! 私は全然気にもしてなかったぞ。毒沼の副作用はめちゃくちゃえげつないもんなぁ……
「五感のいずれかだ。相手の強大さによっては二つか三つ、もしくは五感全てを失うこともあり得るだろう。」
「それは例え効果がなくても?」
「その通りだ。例えば私が今カース殿に死眼を使ったとしよう。だが自動防御に阻まれて終わりだ。それでも私は五感のいずれかを失うだろう。むしろカース殿との魔力差を考えれば五感をことごとく失ってもおかしくないだろうな。」
「それはエルフもダークエルフも全員使えるの?」
「成人していれば普通に使えるだろうさ。使うと決めてから発動までの時間にはかなり差が出ると思うが。ところで、このような話を聞いて面白いのか?」
「面白くないわね。毒沼もそうだけど、カースの命を奪い得る手段があると分かったら放置はできないわ。普通のエルフやダークエルフはカースに好意的だけど、はぐれエルフという存在がいるぐらいだし。はぐれダークエルフがいてもおかしくないわよね?」
おお……アレクすごい。そこまで考えてくれてるなんて。感激!
「ほう。はぐれ共のことを知っているのか。ダークエルフ族からは私の知る限りここ三百五十年で一人もおらんな。」
三百五十年? えらく半端な数字を出すじゃん。
「失礼だけど、ギーゼルベルトヒルデブラントさんは何歳なのかしら?」
「我らに歳を訊ねることなど失礼でも何でもない。私は三百六十歳だ。」
「だからだいたい当時より昔のことは知らないと言いたいわけね?」
「そうだ。興味があるなら他の者に訊ねるがよかろう。私より歳上の者もいるからな。」
いやー……興味ないなぁ。はぐれエルフですら興味ないのに、ましてやはぐれダークエルフなんて興味が湧くはずがない。
「分かったわ。答えてくれてありがとう。私はエルフやダークエルフがカースの敵にまわるなんて思ってないわ。ただ心配性なだけ。カースって最強で無敵で素敵だけど不死身じゃないから。」
「不死身の存在などあるものか。天上に坐す神々ですら不死身ではないのだからな。」
「当然ね。教えてくれてありがとう。クロミから聞いてた話と概ね一緒で安心したわ。さっ、外に行きましょうか。カース、待たせたわね。」
あ、そういやそうだ。マリーからもクロミからも聞いたことがあったな……
「いやいや、僕がすっかり忘れてたことを聞いてくれてありがとね。さすがアレクだね。」
「おおそうだカース殿。もしも我々ダークエルフ族と敵対することが心配ならば全員に契約魔法をかけるという手もあるぞ? カース殿なれば誰も拒否などするまいよ。」
「いや、必要ないよ。そこを疑ってまで安全を確保したくなんかないからさ。」
この村長だってそのぐらい分かってて質問してやがるな。タヌキかよ。ゼマティスのじいちゃんよりよっぽど歳上のダークエルフと腹の探り合いなんてやる気はない。できる気もしないしね。
「ふっ、つくづく甘い人間だな。アレク殿が心配するのも無理はない。だが、そのような人間は……嫌いではない。今後ともよしなに頼む。」
「ああ、こちらこそ。エルフともダークエルフとも長い付き合いになると思うしね。」
たぶん。
終わってみれば情報ゲットの信頼値アップ? それもこれもアレクのおかげ? やっぱ最上級貴族は違うねぇ。
村の中心に案内されてみれば……だだっ広く何もない。まるで大きい高校のグラウンドのように。
「カース殿、これを見てくれ。再建の目処が立ったとはこのことだ。」
「え? どれ?」
下を向いてみれば……グラウンドから伸びた小さな苗木。三十センチもない。
これが再建の目処?
あ……
「もしかしてこれって……」
「そうだ。イグドラシルの苗木だ。」
マジかよ! それはすごい!そんなことできるのか!?




