65、禁術の真相
詳しく話を聞いてみると……
マウントイーターが出現した時、ばあちゃんが禁術を使うまでの間に戦ったダークエルフのうち、およそ二割の体内から不審な魔力を感知したらしい。
つまり、マウントイーターの触手に直接触れたり掴まれた者達が……
「手は尽くしたのだがな……」
受精卵の魔力ですら感知できるダークエルフだ。その気になれば体内に巣食う不審な魔力を感知できないはずがない。だが、感知できた頃にはもう遅いのか……
マウントイーターは脳や心臓などに寄生しており、いかなダークエルフでも手の出しようがなかったのか……?
思い切って一人を犠牲に眠らせたまま開胸したものの、目に見える痕跡を発見できず……いたずらに死なせてしまった。それならばと、脳から反応があったダークエルフを眠らせてから頭を開いたのだが、やはり発見できず……か。魔力は感じるのに開くと見えなくなるなんて……意味が分からん……
そりゃ確かに受精卵だって肉眼で見えるものではないとは思うけどさ。でもダークエルフなら私の『顕微』のような魔法だって使えるだろう。つまり、目で見えるものではない……魔導生命体とでも言うべき何かなんだろうか? 魔物の生態は謎すぎる……
「我らに手を差し伸べてくれたエルフ族に万が一にも迷惑をかけるわけにはいかんからな。こうして引き上げてきたというわけだ。再建の目処が立ったのも本当だがな。」
そして帰りの道中で……マウントイーターを宿す者を殺したってわけか。同胞を……自分達の手で……
その上で灰すら残らないよう念入りに焼いたと……襲いくる魔物の相手もしながら……
「その話はフェアウェル村の村長から聞いてない。つまり自分達だけで決めて他の村にも連絡を回して、一斉に引き上げたってことか……」
「おおむねそうだ。エーデルトラウトヤンフェリックス様とて薄々は気づいておったろうよ。そして我らが自裁せねばいずれ彼の手で同じことが行われたやも知れん。むしろフェアウェル村の脅威となるぎりぎりまで待ってくれるつもりだったであろうことを思えば……」
エーデルなんとかって誰だよ……この村長が様を付けるような相手……あ! フェアウェル村の村長か!
確かにあのジジイならダークエルフ並みの魔力制御があってもおかしくない。いや、それ以上か。それでも見守ることしかできなかったとは……
「ただ、腹や頭を開く覚悟をくださったのはエーデルトラウトヤンフェリックス様だ……」
お、おお、そうなんだ……やっぱお見通しだよね。さすが化け物ハイエルフ。
それにしても、ダークエルフも母上も内臓の治癒をする時って内部に手を突っ込むけど……腹を開いたりはしないよな。それって禁忌だったりするんだろうか? まあいいや……
「中にはよ……アーダルプレヒトシリルールの子が腹にいた女だっていたんだぜ……俺達男が不甲斐ないばかりによ……」
おお……アーさんの子が……あの時のか。それはキツい……ばあちゃんだって赤子は村の宝って言ってたのに。私だってそう思う……
「もう言うな。辛いのはお前だけではない。村の子は我ら全員の子だ。そうだろう?」
「あ、ああ……そうだ。そもそもヨランダ様があの禁術を使ったのだって俺らが不甲斐ないせいだ……くっ……」
え? 何なに? どういうこと? 他にマウントイーターを仕留める方法でもあったってこと? そりゃあイグドラシルを巻き込む覚悟なら十万トンメテオだって使えるけどさ。当たるかどうかは別として……
「この際だから聞いていいかい? 他に手段があったってこと?」
「無論だ……ヨランダ様のように禁術を使う覚悟があったなら……他の禁術でもよかったのだからな……」
「で、でも俺らが頼りなかったせいで……ヨランダ様は毒沼を使うしかなかったんだ……」
詳しく話を聞いてみると、魔物だろうが生物だろうが即死させる禁術があるらしい。
その名も『禁術 死眼』
対象の目を見さえすれば即死させることができるだと? ただ、目と目が合う程度の距離まで近づく必要があるのか……それにしてもめちゃくちゃだろ。何だよその禁術……反則じゃん……
で、マウントイーターが目のような物を開くことはクロミやクロコからも聞いていたのね。だからあいつを追い詰めれば目が開く可能性もあった。あれが本当に目かどうかはともかく……
そんな可能性はあったが、そこに至るまでに何人か死んでしまったために……ばあちゃんは毒沼を選択したわけか……確実に仕留めるために、それ以上犠牲を出さないために。
毒沼なら触れたら即死だもんな……いくらマウントイーターでも……
そんな経緯があったとは……
思い返してみれば、ばあちゃんが毒沼を使ったとしか聞いてなかったもんな。本当によくやったよ……ばあちゃん……




